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第3章 キャンプ

「好きって」*樹

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 ……森田て、絶対、いじめっ子だったに違いない。
 しかも、うまい具合に、人を操るような。

 ほぼ無理無理口に入れられた鶏肉がめっちゃ熱くて、ヒリヒリする。
 水でどうにかしようと思ったけれど、無理だった。

 蓮に氷をもらえるか聞いたら、探しに行ってくれたのでそのすぐあとを追う。

 大きい氷を、少し溶かして小さくしてくれて。
 受け取ろうとしたら、手が口元にきた。

 たった今森田から熱い鶏肉突っ込まれたばかりなので、一瞬ちょっと退くけど、でも蓮だからいいやと思って、口を開けた。

「っ」

 冷たい。
 ――――……冷たい感触が、つる、と口の中に入った瞬間。
 なんでだか、意味も分からず、ぞく、として。

 咄嗟に唇を押さえた。



「――――……」

 蓮が少しの無言の後、 はあ、と息をついた。


「……口やけどしたの? 大丈夫か?」


 蓮がまったく普通に話しかけてくるのに、何でオレだけ、こんな、おかしくなってるんだろうと、思って、恥ずかしくなる。

 ……ただ、氷を入れてくれた、だけなのに――――……。

 何考えてんの、オレ……。
 ほんと、頭、おかしい――――……、


 頭の中は、ぐるぐる回って。
 蓮が、ふと見つめてきた瞬間。

 血が上った顔を、逸らす事もできず、固まった。



「あ、ごめ……ん、なんか……恥ずかしく、なって――――……」
「――――……」


 言って顔を逸らした。


「いつ――――……」

 蓮が一歩、オレに近づいてこようとした瞬間。


「樹、だいじょぶ? 氷あった?」

 森田がやってきて、蓮がぴた、と止まった。


「……あって、今食わせた」

 蓮が普通に、森田にそう返した。


「樹、コップに氷入れて渡そうか?」
「……うん」

 頷くと、氷の袋から、新しいコップに氷を移していく。
 森田に赤い顔を見られないように、蓮の隣に並んで、コップに入っていく氷をただ見つめる。


「――――……」


 ドキドキする。
 ――――……なんか……蓮の手から、直接、なにか食べさせられるって……

 なんか……すっごく恥ずかしいことな気がして。
 ……とにかく、ドキドキ、してしまった。

 ああ、なんかオレ、ほんとにヤバい。



「ほら、樹」

 蓮にコップを渡される。
 やっと少し引いた顔の熱。 口の中に氷を入れて、森田を振り返る。


「……マジで熱かったんだけど」
「あぁ、ごめんって……今度から温度に気を付ける」

 森田が、全然悪かったと思ってない感じで笑いながら言う。


「ていうか食べさせなくていいから」

 ほんとにもう。
 
 
 可笑しそうに笑う森田に文句を言いながら、皆のもとに戻る。
 蓮も、元の席に座った。


 ――――……さっき、森田が来なかったら……。
 蓮、なんて言ったのかな……。


 オレの反応、絶対おかしいもんなあ……。
 何て言われたんだろう――――。

 ああほんと、あんなことに反応して、真っ赤になって、
 オレ、ほんと、バカみたい。


「もう口、冷えた?」
「……うん、もう平気」

 
 森田に答えると、よかった、とほっとされた。
 苦笑いしてると、森田が、クスクス笑う。

「じゃないと、加瀬に怒られちゃいそうだからさー」

 急に、耳元でこそ、と囁かれた。

「っ!」

 耳にかかった息に、びく、と震えて、体を退く。


「あ、樹、耳弱い?」
「……っ」

「あはは、真っ赤」

 可笑しそうに笑ってる森田をきっと、睨む。

 しかも言ってることも、意味わかんないし!

「……何で蓮が怒るんだよ」

 あんまり周りに聞かれたくないから、森田にだけ聞こえるように言うと。
 
「樹にケガなんかさせたら、加瀬に殺されそうって意味。超甘やかして守ってそうだからさ」

 ぷぷ、と笑って、森田が囁く。

「てか、だから、耳元でしゃべんなよっ」

 ぐいっと森田を押しのける。

 もうほんと、やだこいつ。

 大人っぽいかと思うと、いじめっこみたいだし、
 優しいかと思うと、意地悪いし。


「森田、樹いじるの好きだなー」

 佐藤が横で面白そうに笑いながら言うと、森田は、ふ、と笑った。

「こういう奴、慌てさせんの、大好き」
「……つか、もう、近寄らないで。佐藤席かわろ」

「えー?いいけどー」

 クスクス笑いながら佐藤が立ち上がろうとしてくれたので、樹も立ち上がろうとした瞬間。
 ぐい、と肩に腕を回されて、引き止められる。

「もーいじめねーから」

 クスクス笑って言う森田の力が強くて外せない。


 はー……。

「分かった……動かないから、とりあえず離して」
「ん」

 離してくれたので、またため息をついて、座り直す。

「……森田って、絶対いじめっこだったろ……」
「んなことないよ。心外」

「絶対うそ……」

 ため息をつく。

「むしろオレはいじめられてた奴助ける方だったしー?」
「へーーー」

「あ、何その棒読み」
「ふーーん……」


 そんなやりとりを見ていた佐藤が、「仲良しだな」なんて言ってくる。
 このやりとりのどこが仲良しでだと思うんだろう。

 なんて思うけれど、森田と話してる飽きないっていうのはあるかもしれない……。 でも佐藤や山田の方が落ち着いて話せるけど……。

 このまま朝まで続くんだろうかと思ったけれど、急に森田が、明日も出かけるからそろそろ寝ようと言い出して、急にお開きになった。
 皆で片付けて寝る準備をしたら、各自部屋にばらけることになって。

 なんだか、もうすぐ蓮と、2人になると思ったら、すごくそわそわしてきて。 片付けとか上の空。


「じゃーなー、おやすみー」

 3部屋に別れながら、皆で言い合う。

 蓮がドアを開けてくれたので、中に入る。
 後ろで、蓮がカギを締めたのを振り返った瞬間。

 腕を引かれて引き寄せられて、 真正面から、ぎゅ、と抱き締められた。

 思い切り蓮の胸の中に引き込まれてしまって、どき、と心臓が飛び上がる。


「……れん……」
「――――……樹、話すの後で――――…… キスしていい?」

 顔、見えない状態で、そう言われて。
 ――――……オレは、すぐ頷いた。

 そしたら、少しだけ離されて、頬に触れてきた蓮が。
 ――――……じっと見つめてくる。

「――――……めちゃくちゃ、していい?」
「――――……」


 ……めちゃくちゃ?

 ――――……めちゃくちゃ……。


「……うん。良い、よ」
「――――……嫌になったら、そこで言って」


 それには答える前に、蓮の顔が、傾けられて。
 唇が、重なってきた――――……。




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