46 / 75
第3章 キャンプ
「好きって」*樹
しおりを挟む……森田て、絶対、いじめっ子だったに違いない。
しかも、うまい具合に、人を操るような。
ほぼ無理無理口に入れられた鶏肉がめっちゃ熱くて、ヒリヒリする。
水でどうにかしようと思ったけれど、無理だった。
蓮に氷をもらえるか聞いたら、探しに行ってくれたのでそのすぐあとを追う。
大きい氷を、少し溶かして小さくしてくれて。
受け取ろうとしたら、手が口元にきた。
たった今森田から熱い鶏肉突っ込まれたばかりなので、一瞬ちょっと退くけど、でも蓮だからいいやと思って、口を開けた。
「っ」
冷たい。
――――……冷たい感触が、つる、と口の中に入った瞬間。
なんでだか、意味も分からず、ぞく、として。
咄嗟に唇を押さえた。
「――――……」
蓮が少しの無言の後、 はあ、と息をついた。
「……口やけどしたの? 大丈夫か?」
蓮がまったく普通に話しかけてくるのに、何でオレだけ、こんな、おかしくなってるんだろうと、思って、恥ずかしくなる。
……ただ、氷を入れてくれた、だけなのに――――……。
何考えてんの、オレ……。
ほんと、頭、おかしい――――……、
頭の中は、ぐるぐる回って。
蓮が、ふと見つめてきた瞬間。
血が上った顔を、逸らす事もできず、固まった。
「あ、ごめ……ん、なんか……恥ずかしく、なって――――……」
「――――……」
言って顔を逸らした。
「いつ――――……」
蓮が一歩、オレに近づいてこようとした瞬間。
「樹、だいじょぶ? 氷あった?」
森田がやってきて、蓮がぴた、と止まった。
「……あって、今食わせた」
蓮が普通に、森田にそう返した。
「樹、コップに氷入れて渡そうか?」
「……うん」
頷くと、氷の袋から、新しいコップに氷を移していく。
森田に赤い顔を見られないように、蓮の隣に並んで、コップに入っていく氷をただ見つめる。
「――――……」
ドキドキする。
――――……なんか……蓮の手から、直接、なにか食べさせられるって……
なんか……すっごく恥ずかしいことな気がして。
……とにかく、ドキドキ、してしまった。
ああ、なんかオレ、ほんとにヤバい。
「ほら、樹」
蓮にコップを渡される。
やっと少し引いた顔の熱。 口の中に氷を入れて、森田を振り返る。
「……マジで熱かったんだけど」
「あぁ、ごめんって……今度から温度に気を付ける」
森田が、全然悪かったと思ってない感じで笑いながら言う。
「ていうか食べさせなくていいから」
ほんとにもう。
可笑しそうに笑う森田に文句を言いながら、皆のもとに戻る。
蓮も、元の席に座った。
――――……さっき、森田が来なかったら……。
蓮、なんて言ったのかな……。
オレの反応、絶対おかしいもんなあ……。
何て言われたんだろう――――。
ああほんと、あんなことに反応して、真っ赤になって、
オレ、ほんと、バカみたい。
「もう口、冷えた?」
「……うん、もう平気」
森田に答えると、よかった、とほっとされた。
苦笑いしてると、森田が、クスクス笑う。
「じゃないと、加瀬に怒られちゃいそうだからさー」
急に、耳元でこそ、と囁かれた。
「っ!」
耳にかかった息に、びく、と震えて、体を退く。
「あ、樹、耳弱い?」
「……っ」
「あはは、真っ赤」
可笑しそうに笑ってる森田をきっと、睨む。
しかも言ってることも、意味わかんないし!
「……何で蓮が怒るんだよ」
あんまり周りに聞かれたくないから、森田にだけ聞こえるように言うと。
「樹にケガなんかさせたら、加瀬に殺されそうって意味。超甘やかして守ってそうだからさ」
ぷぷ、と笑って、森田が囁く。
「てか、だから、耳元でしゃべんなよっ」
ぐいっと森田を押しのける。
もうほんと、やだこいつ。
大人っぽいかと思うと、いじめっこみたいだし、
優しいかと思うと、意地悪いし。
「森田、樹いじるの好きだなー」
佐藤が横で面白そうに笑いながら言うと、森田は、ふ、と笑った。
「こういう奴、慌てさせんの、大好き」
「……つか、もう、近寄らないで。佐藤席かわろ」
「えー?いいけどー」
クスクス笑いながら佐藤が立ち上がろうとしてくれたので、樹も立ち上がろうとした瞬間。
ぐい、と肩に腕を回されて、引き止められる。
「もーいじめねーから」
クスクス笑って言う森田の力が強くて外せない。
はー……。
「分かった……動かないから、とりあえず離して」
「ん」
離してくれたので、またため息をついて、座り直す。
「……森田って、絶対いじめっこだったろ……」
「んなことないよ。心外」
「絶対うそ……」
ため息をつく。
「むしろオレはいじめられてた奴助ける方だったしー?」
「へーーー」
「あ、何その棒読み」
「ふーーん……」
そんなやりとりを見ていた佐藤が、「仲良しだな」なんて言ってくる。
このやりとりのどこが仲良しでだと思うんだろう。
なんて思うけれど、森田と話してる飽きないっていうのはあるかもしれない……。 でも佐藤や山田の方が落ち着いて話せるけど……。
このまま朝まで続くんだろうかと思ったけれど、急に森田が、明日も出かけるからそろそろ寝ようと言い出して、急にお開きになった。
皆で片付けて寝る準備をしたら、各自部屋にばらけることになって。
なんだか、もうすぐ蓮と、2人になると思ったら、すごくそわそわしてきて。 片付けとか上の空。
「じゃーなー、おやすみー」
3部屋に別れながら、皆で言い合う。
蓮がドアを開けてくれたので、中に入る。
後ろで、蓮がカギを締めたのを振り返った瞬間。
腕を引かれて引き寄せられて、 真正面から、ぎゅ、と抱き締められた。
思い切り蓮の胸の中に引き込まれてしまって、どき、と心臓が飛び上がる。
「……れん……」
「――――……樹、話すの後で――――…… キスしていい?」
顔、見えない状態で、そう言われて。
――――……オレは、すぐ頷いた。
そしたら、少しだけ離されて、頬に触れてきた蓮が。
――――……じっと見つめてくる。
「――――……めちゃくちゃ、していい?」
「――――……」
……めちゃくちゃ?
――――……めちゃくちゃ……。
「……うん。良い、よ」
「――――……嫌になったら、そこで言って」
それには答える前に、蓮の顔が、傾けられて。
唇が、重なってきた――――……。
38
お気に入りに追加
590
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
「誕生日前日に世界が始まる」
悠里
BL
真也×凌 大学生(中学からの親友です)
凌の誕生日前日23時過ぎからのお話です(^^
ほっこり読んでいただけたら♡
幸せな誕生日を想像して頂けたらいいなと思います♡
→書きたくなって番外編に少し続けました。
振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話
雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。
諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。
実は翔には諒平に隠している事実があり——。
諒平(20)攻め。大学生。
翔(20) 受け。大学生。
慶介(21)翔と同じサークルの友人。
【Rain】-溺愛の攻め×ツンツン&素直じゃない受け-
悠里
BL
雨の日の静かな幸せ♡がRainのテーマです。ほっこりしたい時にぜひ♡
本編は完結済み。
この2人のなれそめを書いた番外編を、不定期で続けています(^^)
こちらは、ツンツンした素直じゃない、人間不信な類に、どうやって浩人が近づいていったか。出逢い編です♡
書き始めたら楽しくなってしまい、本編より長くなりそうです(^-^;
こんな高校時代を過ぎたら、Rainみたいになるのね♡と、楽しんで頂けたら。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる