【キスの意味なんて、知らない】

悠里

文字の大きさ
上 下
45 / 77
第3章 キャンプ

「ヤバい」*蓮

しおりを挟む
 意識……?
 樹は何を意識してるんだ?

 意識しないようにしてたのに、って、さっき言ってた。


 ――――……色んな意味に取れて。


 都合よく解釈すれば、
 その意識は、オレと、同じ意識、なのかなとも思うけれど。

 ――――……勝手な解釈はやめておこうとも思った。




 入浴施設からの帰り道、森田と歩いてる樹が、何だかすごく可愛い顔をしてたので、なにやら気になって。不自然だけど、待ったりしてしまった。

 あほすぎる、オレ。


 ――――……独占欲、無いタイプだと、自分の事、思ってたのに。
 嫉妬とか、無縁だと、本気で思っていた。


 もちろん、綺麗だし、可愛いし、良い子だしと、その時々で、付き合う理由はあったし、それで、相手を好きにもなってるつもりだった。
 でも、独占したいとか、誰かと話してるのに嫉妬するとか、そういう気持ちは一切湧いてこなくて。
 むしろ、何の意味もなく話してる女友達にまで妬かれると、途端に面倒になったのを思い出す。

 ヤキモチ妬かれたら冷める、なんて。 
 過去のオレは、最低だったかも。


 というか――――…… たぶん、そこまで好きじゃなかったんだと、今は思う。失いたくないとか、誰かに奪われたくないとか、思えていなかった。


 何の他意もない男と、樹が楽しそうにしてるのを見て気になるなんて、もはやただのバカだと思うのだけれど。


「星、見てる?」なんて聞いて、ごまかしたら、ふわ、と笑って樹が頷いた。


 もうなんか、ほんとに可愛くて、だめだ。



 その後、森田に部屋を一緒にするか聞かれて。
 ――――……樹が一緒が良いと、言ってくれて。

 もうそこからは、ほんとは早く2人きりになりたくて、しょうがない。
 の、だけれど。


 ――――……まあ、そうもいかない。
 皆で来てる訳で。

 ログハウスの中で、皆で一緒に話す。

 まあ、こういうのは嫌いじゃない。というか、すごく好きだった。
 適当にいろんな話をして、笑って、騒ぐ。

 ――――……今も、嫌いでは、ない。


 のだけれど。
 ――――……また樹と離れてしまった。


 まあ……無理無理隣に座るわけにもいかないし。
 ……皆で来たらしょうがないのだけれど。



「なー加瀬―!」

 山田が樹の隣から、オレを呼ぶ。

「何か食べたいー」
「何かって?」

 目の前にお菓子や、つまみっぽいものは置いてある。

「肉食いたい」
「はー?」

「オレもなんか食いたい。ちょっと腹へった」
「加瀬の料理うまいって、樹が言ってたしー」

 森田と佐藤まで乗っかってくる。

「……まあいっか。……樹も食べたい?」

 聞くと、樹が楽しそうに笑いながら、うんうん、と頷いてる。


 ああ、もう。可愛い。
 ……早く話したい。


 ……けどしょうがない。

 がた、と立ち上がる。


「待ってろ」

 樹以外の男三人、ちらと見て、そう言うと、「はーい」と良い返事。


「加瀬くん、手伝う?」

 坂井が言ってくる。

「良いよ。座ってて。 簡単なもの作るから」
「……ん」

 テーブルを離れ、キッチンに向かう。


 小鍋にたっぷりのオリーブオイルを入れて、チューブのニンニクを落とし、弱火であぶって、香りを立てる。

 ほんとは普通にニンニクと鷹の爪とかほしいけど……ま、これでいいや。
 そこに残ってたもも肉と、エリンギをつっこんで、塩を少し入れて、待機。

 他に何か作れるか……っても、
 大したもの残ってねーしな。
 
 キャベツと豚肉かー……焼けばいいか。焼き肉のたれ、あるしな。


 もう一つフライパンを出して、今度は薄くオリーブオイルを入れて、豚肉に火を通す。


「加瀬くん、やっぱり手伝うよ」

 坂井がやってきた。

「あー……じゃあ、適当に取り皿、出してくれる?」
「うん」

 せっせと取り皿をだして、運んでいく。
 それを横目に、肉に火が通ってきたので、キャベツを追加。
 適度な所で、焼き肉のたれを絡めて、完成。

 大きめの皿にざーと、盛り付けて、戻ってきた坂井に渡す。

「持ってってやってくれる?食べてていいから」
「うん! ……すっごい美味しそう」
「炒めただけだよ」
「加瀬くん、ほんと、すごいなあ……」


 なんて、言いながら、坂井がそれを届けると、うまそーだの、いただきまーすだの聞こえてくる。


 鶏肉の方をみると、もうこっちも大丈夫。火を止める。
 鍋敷き片手に、小鍋をそのまま持って、戻る。


「加瀬、超、うまい! 飯がほしい」
「それは無い」

 笑って返すと、「分かってるけどー」と山田が騒いでる。


「これ鍋熱いから、気をつけろよ」

 言って、鍋を真ん中に置くと、皆興味津々でのぞき込む。


「これ何て料理?」
「アヒージョ」

「知らん!」
「オレもしらねー」
「あたしもしらないー」

 女子達までそんなことを言ってる。

「樹は知ってんの?」

 佐藤が樹に聞いてる。

「うん。……てか、蓮が、たまに作ってくれるから、知ってる」
「これうまいの?? 油に浮いてる……」

 森田のそんな台詞に、苦笑いしていると。

「美味しいよ」

 樹がクスクス笑って、森田を見て笑ってる。


 ――――……樹が楽しそうで、良いのだけど。
 ……森田に、そんな、楽しそうな笑顔を向けられると、面白くない。


「うまーい!」
「加瀬、天才」

 大げさな誉め言葉に、「それはよかった」と返しながら、席に座る。

「加瀬くんの、これね」
「あ、ありがと」

「とっとかないと、全部なくなっちゃいそうだったから……」

 坂井がクスクス笑う。

「つーか、結構な量のキャベツと豚肉使ったんだけど……すげーな」
「ほんとに美味しかったから」

「それはどーも」
 坂井の言葉に、笑ってそう返す。

 まあ、普通の炒め物だけど。
 飢えてるとうまいよな。

 ……つか、風呂の前に結構食ってたはずだけどなー……。

 なんて思いながら、肉を口に入れてると。不意に。

「樹、あーん」

 そんな声が聞こえてきて、何となくそっちを見る。


「え?」
「ほれ、この鶏肉で最後だから」
「……あー……  っあ、ち」

 森田に、あーんで食べさせられてる樹に、ぷち、と何かが切れる。

 森田は彼女いるっつってたし、何の意味もないのは、分かってる。
 ――――……が。そういう問題ではない。

 口に突っ込まれた鶏肉が熱かったみたいで、樹が、口元押さえてふうふう息を吐いてる。

「森田、ほんとやだ、熱いっつの……」
「だって、樹が食べてなかったから」

「ちょっと食べたから良かったのに……つか、熱い。 唇と舌、やけどした」

 べー、と舌を出して、そこに、コップで水を流してる。


「んー……氷欲しい……  蓮、ごめん、氷って残ってる?」
「……ああ、たぶん」

 がたん、と立ち上がって、またキッチンに向かう。

 ――――……はー。
 落ち着け。

 ……なんか色々と、クるものがあって、ムカつくけど。
 ……落ち着けオレ。

 必死で落ち着こうとしてるオレのもとに、樹がやってきた。

「蓮ごめんね、氷、ある?」
「……ん、残ってるよ」

 冷凍庫を開いて、買ってきた氷の袋の中から、少し小さめの氷を出すけれど、まだ口に入れるにはでかい。

 水道を出して、手の中の氷を少し溶かす。

「ほら、樹」
「あ、うん。ありがと」

 近付いてきて、受け取ろうとした樹の手をさえぎり、口の所に持っていく。

「え……あ」

 少し戸惑いながらも、反射的に開いた唇に、氷をつるん、と挿し入れた。

「っ」

 樹が、氷が入った唇を、抑えてる。



「――――……」


 なんか。
 ――――……オレの手から、樹の口に、氷が入って。
 って。


 ……なんか、すごく……やばい。



 って――――…… オレは、バカだな。


 はー、とため息をついて、気を取り直して顔を上げる。


「……口やけどしたの? 大丈夫か?」

 なるべく平静を装って言いながら、樹を見ると。
 樹は、かあっと赤くなって、固まってた。


「あ、ごめ……ん、なんか……恥ずかしく、なって――――……」
「――――……」



 つか。
 もう……勘弁してほしい。


 誰も居なかったら――――……。
 抱き締めて、キスしてる。




 しかも――――…… 触れるだけのキスなんかじゃ、
 絶対もう、我慢、出来そうにない。

 本当に、やばい。
 

 どう、この衝動を抑えれば良いのか、
 昨日まで、どう抑えてたのか。

 よく、わからない。




 


しおりを挟む
気に入って下さったら、感想など聞かせてくださると嬉しいです♡
お気に入り登録もお願いします(^^) by悠里
感想 34

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

【Rain】-溺愛の攻め×ツンツン&素直じゃない受け-

悠里
BL
雨の日の静かな幸せ♡がRainのテーマです。ほっこりしたい時にぜひ♡ 本編は完結済み。 この2人のなれそめを書いた番外編を、不定期で続けています(^^) こちらは、ツンツンした素直じゃない、人間不信な類に、どうやって浩人が近づいていったか。出逢い編です♡ 書き始めたら楽しくなってしまい、本編より長くなりそうです(^-^; こんな高校時代を過ぎたら、Rainみたいになるのね♡と、楽しんで頂けたら。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

【胸が痛いくらい、綺麗な空に】 -ゆっくり恋する毎日-

悠里
BL
コミュ力高めな司×人と話すのが苦手な湊。 「たまに会う」から「気になる」 「気になる」から「好き?」から……。  成長しながら、ゆっくりすすむ、恋心。  楽しんで頂けますように♡

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

処理中です...