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第3章 キャンプ

「意識」*蓮

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 あんな個室に、樹1人で行かせられないし。

 ――――……て、男風呂のサウナなのに、思考がそもそもおかしい。
 それは、分かっている。

 樹はそもそも男だから、こんな男だけの風呂場で、何も心配する事なんか、ないのだけれど――――……。

 なるべく樹の方は見ずに一緒にサウナに入ると、中には誰も居なくて、正真正銘の2人きり。
 樹が真ん中に座ったので、その隣に、座る。

「……きもちいー。……汗、すごい出てくる」
「――――……意外。なんか樹、サウナ苦手そうなのに」
「え、そう?」
「のぼせて倒れそう」
「何それ、どんなイメージ」

 あはは、と樹が笑ってる。

「倒れた事ないよ。サウナ大好き」
「そっか」

 汗がぽたぽた落ちてくる。
 確かに、気持ちいい。


「蓮」
「……んー?」

 目の前の壁にかかってる温度計を見たまま、返事をする。

「……蓮?」
「うん?」

「れーん?」
「?」

 3回目、呼ばれて、何かと思って樹を見ると。
 困ったような顔をしていた樹が、オレと目が合った瞬間。

「やっと顔みた」
 そう言った。

「――――……え?」

 ふわ、と樹が笑う。

「だってさっきから、なんかずーっと、そっぽ向いたまま話すから……」
「――――……」

「蓮っていつもさ、すごいまっすぐオレの顔見ながら話すから」
「――――……」

「全然見ないとさ、気になる」
「……気になってた?」

「うん。だって、ずっと、そっぽ向いてたから」
「――――ごめん」

 言うと、樹はびっくりたみたいな顔で、え、と笑う。

「謝るようなことじゃないから……てか、ごめん、オレが勝手に気にしてただけ……」

 苦笑いで、逆に謝ってくる樹に。
 樹の前だと何でも話してしまいたくなる自分。
 ――――……変に、ごまかすのは、やめにした。


「……オレが、意識、してるから――――……見れない、みたい」
「……意識……」

 きょとん、として、繰り返してる樹。


「――――……オレ、どーしても、樹が好きみたい」
「――――……」

 好き、なのは、樹も絶対知ってる。
 ――――……このタイミングで何でそれを言うのかを考えているのだろう、すごく不思議そうな、表情。



「――――……意識しちまいそうだから、あんまり、裸、見れない」


 そう言って樹を見ていると。

 多分、樹は、その意味を考えて。
 数秒後。かあっと、赤くなった。


「……っ何、言って……」


 ――――……だから、なんで、そこでそんな顔、するんだ……。

 さっき森田に言ってたみたいに、怒ってもいいのに。
 ……怒ってくれたら、いいのに。


 抱きしめてしまいたく、なってしまう。



「……樹、悪い。服着るまで、離れる」
「――――……」

「いい?」
「……うん」

 樹がかろうじて頷いたのを確認してから、オレは立ち上がった。
 サウナの扉を開けたところで、佐藤達三人がやってきた。

「あれ、加瀬は脱出?」
「ああ。……もう無理」
「はは。樹は? ――――……って、樹も真っ赤じゃん、大丈夫ー?」

 3人、サウナに入っていき、中に入った佐藤の声を最後に、扉が閉じた。

 出た所にある、冷水を、手桶で足からかけていく。


 ――――……オレ、何言ってんだ……。
 ……つか、オレ――――……やっぱり、そう、なのかな……。


 ……好きすぎるとは思ってたけど――――……分かってたけど。
 ――――……裸が見れないって……。



 つか、他の奴ら見ても、何にも感じない……というか、むしろそれは見たくもないし。

 ……樹限定で、男も対象なのか。



 はー……。
 ――――……裸で、汗かいて、上気してる顔。
 なるべく、顔だけ、見ていたんだけれど――――……。

 煩悩を振り払おうと、水をめちゃくちゃかけた。


 その後、1人、露天でぼーと浸かり、空を見上げる。


 ――――……見れないとか言ってないで、見ちまえば、いいのか?
  男って、思い切り確認できれば、冷めるか……?


「――――……」

 ……冷める気がしなくて、試す気がしない。
 上を向いて、目を閉じる。



 大浴場から露天につながる扉が開いて、皆が入ってきたのが、騒がしい声で分かる。



「加瀬、寝てんのー?」

 佐藤の声がすぐ近くに近付いてきた。
 目を開けて、「起きてる」と答えてると。



「あ、オレ――――……ちょっとのぼせたから、シャワー浴びて出るね」


 樹の声がして、山田が、おう、と答えてる。
 入ってこずに、樹が出て行ってしまった。


 ……あー……オレのせいだな……。



「――――……オレももう出る」



 急いで上がって、露天風呂を後にした。






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