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第3章 キャンプ
「好きだけど」*樹
しおりを挟む「うわ、火、手、燃えるわ!」
「おお、ついたー!」
炭火おこしをしてる山田と森田が大騒ぎをしているのを横目に、肉のパックをテーブルに置く。
「佐藤ー、お肉おいておくね」
「ああ、ありがとー」
炭火おこしは山田と森田、テーブルまわりの準備は佐藤と松本。
下準備は、蓮と酒井と南と、オレになった。
肉を外のテーブルに置いて、ログハウスのキッチンに戻ると、3人がまな板広げて切り始めていた。
「加瀬、切り方指導して」
南は、蓮のことを呼び捨てにする女の子。
サバサバしてて、美人だけど、女子っぽい雰囲気は皆無……な気がする。
「指導って……南、料理は?」
「できると思う?」
「……出来ると思いたいけど」
蓮が可笑しそうに、クスクス笑ってる。
「私無理だけど、優菜は出来るよ」
「それはよかった」
蓮の苦笑いに、南は「やること言って」と言いながら、ふとオレを振り返った。
「横澤くんは? できるの?」
「オレできないから、いつも蓮にお任せ」
「じゃあ、一緒に指示待とっか」
「うん、そーだね」
なんとなく、蓮と仲が良いのが分かる。
これは話しやすいかも。
「加瀬くん、トウモロコシ、切る?」
坂井は、南と正反対。見た目も話し方も、女の子っぽい。
「切るけど固いから、オレが切るよ。 坂井は、南とパプリカ切って」
「うん、ありがと」
トウモロコシを蓮に渡し、坂井はなんだか嬉しそう。
……可愛いな。
山田に聞いてなくても、これは、オレでも分かるかも。
「樹、肉渡してきた?」
「うん。 山田たち、火つけるのに大騒ぎしてた」
笑ってしまいながら言うと、蓮は「なんでだよ」と笑う。
「別に木から火起こしからやるんでもねーのに……」
「手が燃えるとか大騒ぎしてたよ」
とオレが言うと、「危ねーな……」と、蓮がクスクス笑う。
「……ま、いいや。任せとこ。 樹、こっち来て」
言われて、蓮の隣に並ぶ。
「エリンギ切るんだろ?」
「うん。……縦?だよね?」
「そ。置いて。縦に薄く。適当でいいよ?」
「うん」
優しい蓮の声。
――――……頑張って、薄切りにしながら、蓮に見せる。
「こんな?」
「ん、完璧」
「ほんとかー?」
「……まあ、大丈夫」
ふ、と笑う蓮。
「こっち全部任せる」
クスクス笑いながら、エリンギをぽいぽい置いてく。
――――……さっきの事、気にはしてないみたいに、見える。
蓮と同じ部屋が良いか聞かれて、グーパーで別れようと言った事。
なんとなく。森田の言い方が引っかかって。
なんかそこまでも、散々、蓮がオレの事好き、みたいにずっと言うから。
「絶対一緒の部屋が良い」なんて、言わないほうがいいと思ってしまったんだけど。逆に、そんなの気にしてる方が、変なのかな、とも思ったりもしたけど……。
咄嗟に、一緒じゃなくてもいい、と言ってしまった。
そのやりとりの後、蓮は何も言わなかったけど、なんか複雑な顔してたから、後で話そうね、なんて言ってしまったんだけど……。そんな、気にしてないかな……。オレが気にしすぎかも。
オレだって。
……蓮と一緒がいいに、決まってるんだけど……。
「樹?」
「……ん?」
「玉ねぎ、切る?」
「あ、うん」
エリンギを皿に並べてから、玉ねぎをまな板に並べる。
「上下少し切って。皮むいて。そしたら」
「ん。」
「繊維を断ち切る感じ……」
「……繊維?」
「ん、繊維」
「……繊維……?」
繰り返してもさっぱり分からず、蓮を見上げると。
蓮は、ふ、と瞳を優しくして、笑った。
「――――……だから、こう、な」
「あ、そういう意味……」
「そうそう。 あ、ごめん、切る前につま楊枝さして」
「切る前に??」
「切ってからだとばらけるから」
「なるほど……」
「そうそ、上手。じゃオレトウモロコシ切ってるから、樹は玉ねぎ頑張れ」
「うん」
せっせと言われるままに玉ねぎを切ってると、南が笑った。
「なんか2人、ほんとに仲いいんだね」
「そうか?別にたまねぎ切ってただけだけど」
蓮が首を傾げながら答えてる。
オレは、玉ねぎと闘うフリで、返事はしないでやり過ごす。
「加瀬、横澤くんには優しいよね」
「はー? オレ、皆に優しいでしょ」
「そうかなあ、私に対する態度と違くない?」
「……まあ、南はな……」
「かちーん……。むかつくなー……」
「嘘だよ、つか、オレ、皆に優しいつもりだけど?」
「山田には優しくないよね」
「ああ、山田はな……」
「って、私と山田の扱い、一緒にしないで」
南と蓮の、掛け合い漫才みたいな会話を聞きながら、玉ねぎとの格闘を終えて、顔を上げる。
「坂井、今、手あいてる?」
蓮が坂井に話しかけると、坂井が、ぱ、と蓮を見上げる。
「うん、パプリカ切り終わったよ」
「そしたら、トウモロコシ下茹でしたいから、そこの小鍋にお湯沸かしてくれる?」
「うん、分かった」
……ほんと、嬉しそう。
――――……蓮、気づかないのかなあ、坂井の好意。
森田なんか、10分位で分かったって言ってたけど。
「……樹、泣いてる?」
「え? あ、玉ねぎ、ちょっと目に染みて」
「弱いなー、みじん切りした訳でもないのに」
クスクス笑いながら、のぞき込まれる。
「ちょっとツンてしただけだし」
浮かんだ涙をぬぐおうと手を動かした瞬間。
蓮が、ぱ、とオレの手を掴んだ。
「だめだよ、樹、玉ねぎ触ってた手で目擦ンな」
「あ、うん…… ごめん」
「ん、手、先洗って」
ふ、と笑って、手を離す蓮。
「――――……なーんか、ほんと良い雰囲気だよね」
「は? ……バカなの? 南」
「はー? ……まあ、二人が仲良しで同居してんのは、よく分かったわ」
そんな会話を後ろで聞きつつ。
手を洗う。
――――……なんか。
蓮が、手を掴んだ時。
すごい、どき、と胸が動いた。
絶対――――……。
オレの方が、蓮のこと、
好きだと思うんだけど、な。
手を洗い終えて、振り返ると、蓮と酒井がコンロの前に並んでいた。
「横澤くん、野菜外に運ぼー」
南に呼ばれる。
「ん」
まあ多分。
……少なくとも女子は、坂井の味方なんだろうな。
蓮と坂井を一緒にしたいんだろうなーと思って。
また少し、心に何かモヤモヤしたものが、あるけれど。
邪魔する訳にもいかないし。
……うん。運ぼう。
「そっち持つよ」
南の持ってた大きな皿を受け取り、ログハウスの外へと運びだした。
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