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第3章 キャンプ

「大事すぎ」*蓮

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 高速、空いてる。
 ――――……このペースなら20分位で高速は降りれるな。

 バックミラーで後ろの佐藤の車を確認。
 なんとなく、樹が見える。

 さっきの休憩の時――――……。
 樹をトイレに連れ込んでしまった。


「キスしたい」

 そう言ったら、樹が少し頷いてくれて、同時に、キス、してた。
 ――――……抱き締めてしまった。


 もう、ただ素直に、樹不足、とか言ってしまった。
 そしたら、なんだかあやすみたいに、樹に背中をポンポンされて。
 オレもかも、と言って、抱きつかれた。


 なんかもう――――……あのまま、樹をずっと抱き締めていたかった。

「なー、加瀬、なんか機嫌良い?」

 急に山田にそう言われた。


「なにが?」
「なんか、鼻歌歌ってるし」

「――――……別に。もうすぐ着くなーと思って」
 

 ……マジか。
 ――――……オレ、歌ってた?


 ……言われてみれば、歌ってたかも。


 ――――……さっきの樹が可愛くて。
 離したく、なかったんだよな……。


 ふー、と息を吐く。


 ――――……もうオレは、自分の気持ち、分かってる。
 
 樹が誰よりも大事で、可愛い。今一番一緒に居たいのは、樹。
 ……もうこれは、絶対、なんだけど。


「……横澤ってさあ」
「……?」

「――――……高校ん時からあんな感じ?」
「……あんな感じって?」

「――――……顔キレイで。でも静かすぎかなーと思うと、結構話すから、意外と人気あるっつーか……」
「……顔は変わんないだろ。まあ……密かに好かれてる感じ。大勢で騒いだりしないから、目立たねえけど……」

「彼女とか居たの? 知ってる?」
「居たらしいけど。……結構派手めな子」
「へー。意外」

 そんな風に言ってる山田を横目にしてから、ふと思う。


 そう、なんだよな。
 樹の、恋愛対象は、女の子、なんだよな……。



 まあ……オレも、そうだったはずなんだけど――――……。

 そこが、どうしていいのかよく分からない部分。



 ただ好き、というだけでいいなら――――……。
 今まで生きてきた中で、一番、樹が好きで、樹と居る自分が、幸せ。

 確かにそう思えるのだけれど――――……。



 樹は……。
 ――――……オレのこと、何だと思ってるのかな。

 友達……?
 ――――……同居人……? 


 もともとが優しいし。
 オレの事、好きではいてくれてるからか、ほとんど拒絶とかはなくて。
 いつもほとんどを受け入れてくれてしまう、けど。 
 それでいいんだろうか。


 まあ――――…… 急がないで、考える、けど。



 そんな事を思いながら、運転をして。
 皆と買い物を終えて、やっとキャンプ場についた。


 広い空を見上げて、嬉しそうに笑う樹を見てたら。
 なんだか本当に、好きだなーと思ってしまった瞬間。

 この旅行に来て良かった?と聞かれて。

 
「んー。……今までんとこ、樹と離れてるから、ちょっと納得いかねえけど」
「え」

「まあ――――…… 楽しそうなお前見るのは、嬉しいから」
「――――……」


「来て良かったと思うけど」

 思うままに、そう言ったら。
 何を思ったのか、樹は完全に固まって。


 まっすぐ、ただ見つめてくる。


 何も話さずに、ただ、じっと見つめられて。
 オレも何も言えず、ただ見つめ返して。


 なんか――――……樹が、大事すぎて。

 オレのこの気持ちと。 樹の気持ちが、うまく重なって。
 いつか、2人でずっと、居れるようになれたら、良いんだけどな……。



「おーい、集合ー。手続きしてきたぞー」

 森田の声がして、は、と現実に戻る。


「――――……いこっか、樹」
「あ……うん」

 頷いて。樹が、オレの隣に並んだ。


「蓮」
「――――……ん?」


「……ありがと」
「――――……ん?何が?」


「……なんか全部」
「全部?」


「蓮が、横に居てくれる事とか、全部」
「――――……」


「ここも、蓮が居なかったら、来なかったと思うし」


 ふ、と樹が笑う。



 あー……。
 ――――……キス、したい。



 自分が大好きな奴が、こんな風に言ってくれて、
 ――――…… 我慢できる奴って、居るのか。


 でも、少し離れた所で、皆がこっちを向いて待ってるので、まさかキスするわけにもいかず。



「……樹」
「ん?」


「――――……野菜一緒に切ろ」
「……何それ」

 ぷ、と笑って、樹がオレを見上げる。


「切るよ、玉ねぎの輪切り教えてもらわなきゃいけないし」


 どうしても――――……樹が可愛い。

 
 皆が待ってるからか、少し急いで歩いてく樹の後を歩きながら。
 そんな風に思ってしまう。 



「すぐそこの7番のログハウスがオレらのだから。車から荷物運び込んだら、バーベキューの準備しよ。 風呂の施設は歩いて10分弱のとこだっつーから、バーベキュー終わったら皆でいこうぜ。 あと、寝る部屋が3部屋あって別れるんだけど、女子は3人でいいよな」

 森田の言葉に、女子は頷いてる。

「男は3人と2人に別れるか? まあそれは後でいっか、とりあえず荷物運ぼう」

 森田の言葉に、皆がまた車のもとへと歩き出す。


「加瀬は、バーベキューの下準備担当でいい?」

 歩きながら、並んだ森田に言われて、頷く。


「オレも、野菜切る約束したからそこでいい?」

 樹が森田にそう聞いてる。「いいよ」と森田。


「――――……部屋は、お前ら一緒がいい?」

 一瞬の沈黙の後、森田がそう聞いてくる。
 なんとなくその沈黙が気になって、森田に視線を向けた瞬間。


「別に絶対一緒じゃなくてもいいよ。 グーパーで別れる?」

 不意に、樹がそう言った。


「――――……」

 咄嗟に、え、と思って樹を振り返る。


「オレと蓮、いつも一緒だし。むしろ別でいいよね?」


 にこ、と樹が、オレを見て笑う。


「……ああ。そうだな」

 なんとなく、樹がそれを望んでる気がしたので、頷いた。

 
「……んじゃ後でグーパーすっか」


 森田がそう言って、離れていった。


「――――……」

 今のって、何?
 そう思うけれど――――…… まあ普通に考えれば……。

 いつも一緒だから、今日くらい別の奴と……とか。
 オレ達だけ特別に一緒、なんて、最初から言うのも、変か、とか……。

 ……まあ、分かるのだけれど。

 ――――……なんだかよく分からない、胸の中は。
 ……ちょっとショックだったりする。



「……違うから……蓮」
「え?」


「……あとで2人の時話す。オレ、蓮と居たくない訳じゃないからね」
「――――……ん。」


 オレが頷くのを確認して。樹も小さく頷いた瞬間。 


「樹―、これお前のー?」
「うん」

 佐藤に呼ばれて、樹は、車の方に急いで走っていった。

 その後ろ姿を見ながら。
 ふ、と小さく息をつく自分。



 女子と山田が、車のカギを開けてーとばかりにこっちを向いていたけれど、急ぐ気になれず、ひたすらゆっくり歩いてしまった。




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