31 / 77
第3章 キャンプ
「鼓動」*樹
しおりを挟むパーキングに車を停めて、降りて、皆と話していると。
蓮の姿が見えた。
あ。蓮だ。
――――……ふわ、と気持ちが明るくなる。
「蓮、お疲れ」
「……ん」
ふ、と微笑まれて、ますます嬉しくなる。
「蓮は緊張した?」
隣に来てくれた蓮に、そう聞いた。
助手席に座ってと言われてたのに離れてしまったから、少しだけ心配してたから。そしたら、してないよ、と笑まれて、そっか、良かった、と笑い返した。
やっぱり蓮だな……。
……佐藤の緊張は半端なかったから、やっぱり佐藤の車に乗って良かったのかも……なんて思っていると。
蓮が皆に 店に行こうと声をかけて、歩き出す。
オレに視線を向けながら歩き出してくれるので、その隣に並ぶ。
――――……やっぱり、蓮の隣が、安心する。
「カフェオレ飲む?」
「うん」
蓮に頷いたところで、急に肩に腕が回ってきた。
「樹、オレもコーヒー飲みに行く」
なんか、森田って今まで直接あんまり話したことなかったけど。
車の中で話してたら、なんかどんどん親しげになってきて。
なんか、前からの友達みたいなノリで、どんどん距離がつめられる。
別にそれが嫌じゃない。
こういうとこが、きっと、蓮に似てるって、オレが思うとこなんだろうなあ。
なんて、思って、笑ってしまうのだけれど。
「でも重いから腕やめて」
「なんだよいいじゃんか」
「やだ、重い」
肩にかかった手をぺりぺりとはがしていると、やっと外れた。
「そっちの車は盛り上がってたか?」
森田は蓮にそんな風に聞いた。
――――……蓮は……少し、機嫌が悪い、かな。
蓮は、オレに、必要以上に絡む奴が居ると、ちょっとだけ機嫌が悪くなる。
多分、他の人は気づかない程度。
笑顔が少しだけ真顔になる、とか。
少しだけ、言葉が少なくなる、とか。その程度だけど。
何も気づかない森田と、蓮の会話が終わって。
森田が皆に話しかけに行ったので、ふと、蓮を見上げる。
――――……ちょっとやっぱり機嫌悪い。
緊張しなかったとか言ってたけど……。
やっぱり、慣れない運転だし、疲れたのもあって余計かも。
……隣に座るっていう約束も、守れなかったし。
「蓮、疲れてる?」
「ん?」
「運転、ほんとは疲れちゃった?」
じ、と見上げてそう聞いたら、見つめ返してきた蓮が、ふ、と瞳を優しくして笑った。
「疲れてないよ。何か食べる? オレ腹減った」
あ。元どおり。
――――……蓮は、いつもオレのこと過保護で。優しくして、心配して。なんか、守ろうとしてくれてるみたいな気がするけど。
オレから、心配したり、優しくしたり、すると。
いつも、すごく、ふわ、と笑う。
その笑顔が、なんか――――……大好きで。
――――……蓮のことは、知り合う前から、知ってはいた。
目立つから、よく見かけてた。
知らない人の事は、廊下を通っていても全然気にならなくて、目に入ってこないけど、何故か蓮は目に入ってきた。
陸上で何度も表彰されたり、高校の廊下で写真が掲示されてたり、顔を認識する機会が多かったからかもしれない。
でも、なんか、オレとは全然違うタイプ。
多分、一生、合わない。話す機会も生まれないし、話しても合わない。
そう思ってた。
だから――――……。
入試の朝にたまたま会って。
合格発表の日に高校でたまたま会って。
同居しようなんて、なったのは、いまでも、すごく不思議。
だけど――――……。
「蓮、お店あっちだね、いこ」
なんとなく。
2人で、行きたくて。
蓮を少しだけ引いて、歩き始めた。
すぐに、樹の隣に並んでくれて、2人で歩き始める。
合わないだろうと思ってた。
苦手なタイプだと、思ってた。
なのに――――……。
隣の蓮を、見上げる。
誰もが、カッコイイって、言うだろうなあ。
ぱっと見で、目立つ。
家でスエット着ててもカッコいいもんな……。
蓮と居ると、女子の視線が来るのが分かる。
ついつい、見ちゃう気持ちも、なんかすごく分かる。
でも。
オレは、別にカッコいいから、見てたいんじゃない。
正直、男がカッコよくても、そうじゃなくても、オレには、関係ない。
蓮の、この顔が、例えば他の誰かについてても別に好きじゃない気がする。
蓮が、オレと、話してて、ふわっと優しく笑うとことか。たまに少し困ったみたいになるとことか。
キスしてくるときの、少し……いつもと違う顔とか……
蓮が蓮で、その顔に、色んな表情が浮かんで。
優しい言葉とともにくっついてくるから――――……大好きで。
――――……なんか、オレ何考えてるんだろ。
なんか、おかしいな。
「――――……」
……分かった。
蓮が居るのに、蓮と居ない時間なんて、普段ないから。
……オレ、寂しかったのかな。
――――……バカみたいだな、時間にしたらほんの僅かなのに。
久しぶりに会えた気がして、多分、嬉しくなってる、んだな。
「なんか、蓮が久しぶりな気がする……って、大げさか。可笑しいよね」
そう言ったら、なんだかますます自分のことが可笑しくなって、笑ってしまった。
「――――……樹、トイレ行きたい」
「え?」
腕を掴まれて。急にどんどん歩きだす。
皆を振り返ると、特に気にしてないみたいなので、蓮に視線を戻す。
「蓮……?」
トイレについて、人が居ない奥に入った蓮と一緒に、個室に入った。
「樹ごめん、こんなとこで」
「――――……」
「キスしたい」
「――――……」
小声で言われて――――……頷くか頷かないかのうちに、唇が、触れた。
ぎゅ、と抱き締められて、しまう。
「……っ」
すこし、深く、触れる。
「――――……れん……?」
「……樹不足すぎ…… ごめん……」
「……なにそれ」
キスが離れて、ぎゅーと抱き締められて。
思わず、背中に手を回して、ぽんぽん、と叩いて、そのまま抱き付く。
「でも――――……オレも、かも……」
蓮の胸にぽふ、と埋まってると。
――――……なんかもう、何もかも、周りはどうでも良くなって。
蓮が居てくれたら、もうそれで、幸せだなと、思ってしまう。
「蓮……人来ないうちに、出よ……?」
「……ん」
最初に蓮が出て、誰にも見られず無事外に出ると、お互い顔を見合わせて、すこし笑ってしまった。
トイレを出て店の方に向かうと、ちょうど皆が居て、普通に合流。
――――……なんだかすこし早くなってる鼓動が、心地よくて。
皆と話しながら、何となく、蓮を目に映してしまう自分が居た。
82
気に入って下さったら、感想など聞かせてくださると嬉しいです♡
お気に入り登録もお願いします(^^) by悠里
お気に入り登録もお願いします(^^) by悠里
お気に入りに追加
640
あなたにおすすめの小説
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる