29 / 77
第3章 キャンプ
「出発」*蓮
しおりを挟む
樹と別れて車に乗る事になってしまった。
最後に、ぽん、と撫でた頭の感触と、笑顔が抜けない。
バックミラーに映る佐藤の車をなんとなく確認しながら、車を走らせ始める。何で、別れて乗る事になったかって。
「加瀬って、運転中、黙る人なの?」
「――――……」
諸悪の根源の山田が、のんきに隣から聞いてくる。
「……別に」
樹が乗ってるなら黙んねーけど。
樹、向こうで大丈夫かな。
……って、大丈夫か。
樹は、人と話せないわけじゃない。
大勢が好きじゃないだけで、少人数で話す位なら、むしろ全然話せる。
――――……また、過保護とか、言われるな。
後部座席の女子3人は、乗った瞬間から後ろでずっと喋ってる。
松本咲はショートカットの超元気な子。
坂井優菜は髪の長い、女子っぽい子。
南智花は、この中では一番話しやすい。サバサバしてて、なんなら、オレとは、男友達みたいノリ。
この3人、そういえばクラス会とかでもいつも一緒にいるっけ。
タイプ違うのに、仲いいんだな。
……で、山田が、この3人と仲がいいのか??
女子がずっと喋ってて、それに山田もくわわってしゃべってるし、音楽もかかってるので、それを良い事にしばらく無言で過ごしていたら、山田のさっきのセリフ。
……別に、運転中黙る人、ではない。
しゃべる気分でなかっただけ。
「加瀬、話しても平気?」
山田が聞いてくる。
「ああ」
前を見つめたまま答えると。
「加瀬って彼女居んの?」
「居ない」
「なんで?」
「――――……別に……今は欲しくないっつーか……」
「……ふーん」
微妙な沈黙。
「つか、山田は居るの?」
「オレも居ないけど」
「そっちは、なんで?」
山田の質問をそっくり返すと、山田はクスクス笑った。
「オレはお前と違って、彼女欲しいんだけどねー」
「好きな子は?」
「……ちょっといいなって子は居る」
「ふーん……告んねえの?」
「――――……いいよなー、お前はそうやってすぐいけるんだろうなー」
しみじみそんな風に言われて、そういうんじゃねえけど……と返す。
「絶対モテただろ、高校ん時も」
「……まあ……彼女は居たけど。別に普通」
「やだやだ。絶対普通じゃないんだろ……」
「普通だって」
「……何、今欲しくないのは、何で? 付き合いすぎて飽きちゃったとか?」
「飽きたとかじゃねえけど……」
けど……。
今彼女が欲しくない理由なんてわかり切ってる。
樹と居る時間が減るから。
――――……そこ減らして、彼女に費やしたくないし。
……なんて、さすがに言えない。
「そんな事言って、加瀬って、気づいたら彼女すぐできてそう」
後ろから南がそう突っ込んでくる。
いつも通り、オレの事を名字で呼び捨て。初めてのクラスの集まりから呼び捨てされたっけ。
「そんな自然と出来るもんじゃねーから。無いよ」
言いながら、後ろの車を確認しながら、ゆっくりめに走る。
ちゃんとついてきてるな。
――――……つか、佐藤、樹が安心するからって何だっつの。
まったく……。
気持ちは分からなくはないけれど、おかげでこんな事になってしまったし。
なんて、悶々としていると。
「加瀬のタイプって、どんな?」
そう、山田に聞かれた。
「好きな子のタイプってある?」
「……決まってないけど」
「じゃ高校ん時の彼女、どんな感じだった?」
「んー……派手な子が多かった、見た目も、態度とかも」
「ああ、そうなんだ……ふーん……」
「……でも、わかんね。 今は穏やかな方がいいかも……」
樹と居る時みたいに、穏やかに居られる方が、心地よいし、楽しい。
――――……つか、オレの思考って、どんだけ、樹なんだろ。
何考えてても、樹が基準って、なんだ。
横に居ないから、余計に思い出してしまう。
「――――……山田って、南達と仲いいの?」
「ん?」
「3人誘ったの山田なんだろ?」
「うんまあ――――…… キャンプの話を佐藤とかとしてたら、そん時この3人も隣に居てさ」
「ふーん。……坂井は、キャンプ好きなのか?」
バックミラー越しに、真ん中に座っていた坂井を振り返る。
松本は騒ぐの好きそうだし、南もノリノリで男子とのキャンプも平気そう。
一人だけ、坂井だけ、何となくちょっとイメージが違う。
男子と泊りのキャンプなんて来そうにない。
樹がキャンプに行きたがるのが珍しいなと思うのと、同じような感覚で、珍しい感じがするけど。
そう思って聞いたら。
急に話をふったせいか、ミラー越しに、びく!と驚かれた。
「あ、うんっ。楽しそうだな、と思って」
焦ったみたいに答えられて、またちら、と後ろを見ると。
横から山田が割り入ってきた。
「3人とも参加したいっていうから、森田に話したらOKくれたからさ。女子居た方がバーベキューとかも助かるし」
「ふうん。そっか。 ……あれ、そーいえばバーベキュー、肉とか買ってくって言ってたよな。どこで買うんだ?」
「高速降りてキャンプ場までの間にでかいスーパーがあるって。森田が言ってたよ」
「分かった」
適当に会話をしながら、後ろの車に合わせながら、しばらく高速を進む。
「加瀬の運転、快適。高速慣れてないって言ってなかったっけ」
「慣れてないけど……ずっと左車線走ってるし。全然問題ないだろ」
「うーん、でも、後ろの佐藤はずーっと強張ってるけどな……」
クスクス笑って山田が後ろの車を振り返って、眺めながら言う。
「その横で、横澤が楽しそうに笑ってるけど。佐藤はほとんどしゃべってないなー……」
「……休憩しよ。 山田、樹に次のパーキングで休むって連絡して」
「OK」
オレが言って、山田がスマホをいじって数秒。
「……了解だって」
「早や、横澤くんの返事」
南が突っ込んでくる。
「山田に連絡させるからスマホ持っててって、樹に頼んだから」
まじめに持っててくれるあたり、樹らしいけど。
ふ、と笑って、オレが言うと。
「加瀬と、横澤くんって、いつから仲いいの?」
南の不思議そうな質問が飛んできた。
最後に、ぽん、と撫でた頭の感触と、笑顔が抜けない。
バックミラーに映る佐藤の車をなんとなく確認しながら、車を走らせ始める。何で、別れて乗る事になったかって。
「加瀬って、運転中、黙る人なの?」
「――――……」
諸悪の根源の山田が、のんきに隣から聞いてくる。
「……別に」
樹が乗ってるなら黙んねーけど。
樹、向こうで大丈夫かな。
……って、大丈夫か。
樹は、人と話せないわけじゃない。
大勢が好きじゃないだけで、少人数で話す位なら、むしろ全然話せる。
――――……また、過保護とか、言われるな。
後部座席の女子3人は、乗った瞬間から後ろでずっと喋ってる。
松本咲はショートカットの超元気な子。
坂井優菜は髪の長い、女子っぽい子。
南智花は、この中では一番話しやすい。サバサバしてて、なんなら、オレとは、男友達みたいノリ。
この3人、そういえばクラス会とかでもいつも一緒にいるっけ。
タイプ違うのに、仲いいんだな。
……で、山田が、この3人と仲がいいのか??
女子がずっと喋ってて、それに山田もくわわってしゃべってるし、音楽もかかってるので、それを良い事にしばらく無言で過ごしていたら、山田のさっきのセリフ。
……別に、運転中黙る人、ではない。
しゃべる気分でなかっただけ。
「加瀬、話しても平気?」
山田が聞いてくる。
「ああ」
前を見つめたまま答えると。
「加瀬って彼女居んの?」
「居ない」
「なんで?」
「――――……別に……今は欲しくないっつーか……」
「……ふーん」
微妙な沈黙。
「つか、山田は居るの?」
「オレも居ないけど」
「そっちは、なんで?」
山田の質問をそっくり返すと、山田はクスクス笑った。
「オレはお前と違って、彼女欲しいんだけどねー」
「好きな子は?」
「……ちょっといいなって子は居る」
「ふーん……告んねえの?」
「――――……いいよなー、お前はそうやってすぐいけるんだろうなー」
しみじみそんな風に言われて、そういうんじゃねえけど……と返す。
「絶対モテただろ、高校ん時も」
「……まあ……彼女は居たけど。別に普通」
「やだやだ。絶対普通じゃないんだろ……」
「普通だって」
「……何、今欲しくないのは、何で? 付き合いすぎて飽きちゃったとか?」
「飽きたとかじゃねえけど……」
けど……。
今彼女が欲しくない理由なんてわかり切ってる。
樹と居る時間が減るから。
――――……そこ減らして、彼女に費やしたくないし。
……なんて、さすがに言えない。
「そんな事言って、加瀬って、気づいたら彼女すぐできてそう」
後ろから南がそう突っ込んでくる。
いつも通り、オレの事を名字で呼び捨て。初めてのクラスの集まりから呼び捨てされたっけ。
「そんな自然と出来るもんじゃねーから。無いよ」
言いながら、後ろの車を確認しながら、ゆっくりめに走る。
ちゃんとついてきてるな。
――――……つか、佐藤、樹が安心するからって何だっつの。
まったく……。
気持ちは分からなくはないけれど、おかげでこんな事になってしまったし。
なんて、悶々としていると。
「加瀬のタイプって、どんな?」
そう、山田に聞かれた。
「好きな子のタイプってある?」
「……決まってないけど」
「じゃ高校ん時の彼女、どんな感じだった?」
「んー……派手な子が多かった、見た目も、態度とかも」
「ああ、そうなんだ……ふーん……」
「……でも、わかんね。 今は穏やかな方がいいかも……」
樹と居る時みたいに、穏やかに居られる方が、心地よいし、楽しい。
――――……つか、オレの思考って、どんだけ、樹なんだろ。
何考えてても、樹が基準って、なんだ。
横に居ないから、余計に思い出してしまう。
「――――……山田って、南達と仲いいの?」
「ん?」
「3人誘ったの山田なんだろ?」
「うんまあ――――…… キャンプの話を佐藤とかとしてたら、そん時この3人も隣に居てさ」
「ふーん。……坂井は、キャンプ好きなのか?」
バックミラー越しに、真ん中に座っていた坂井を振り返る。
松本は騒ぐの好きそうだし、南もノリノリで男子とのキャンプも平気そう。
一人だけ、坂井だけ、何となくちょっとイメージが違う。
男子と泊りのキャンプなんて来そうにない。
樹がキャンプに行きたがるのが珍しいなと思うのと、同じような感覚で、珍しい感じがするけど。
そう思って聞いたら。
急に話をふったせいか、ミラー越しに、びく!と驚かれた。
「あ、うんっ。楽しそうだな、と思って」
焦ったみたいに答えられて、またちら、と後ろを見ると。
横から山田が割り入ってきた。
「3人とも参加したいっていうから、森田に話したらOKくれたからさ。女子居た方がバーベキューとかも助かるし」
「ふうん。そっか。 ……あれ、そーいえばバーベキュー、肉とか買ってくって言ってたよな。どこで買うんだ?」
「高速降りてキャンプ場までの間にでかいスーパーがあるって。森田が言ってたよ」
「分かった」
適当に会話をしながら、後ろの車に合わせながら、しばらく高速を進む。
「加瀬の運転、快適。高速慣れてないって言ってなかったっけ」
「慣れてないけど……ずっと左車線走ってるし。全然問題ないだろ」
「うーん、でも、後ろの佐藤はずーっと強張ってるけどな……」
クスクス笑って山田が後ろの車を振り返って、眺めながら言う。
「その横で、横澤が楽しそうに笑ってるけど。佐藤はほとんどしゃべってないなー……」
「……休憩しよ。 山田、樹に次のパーキングで休むって連絡して」
「OK」
オレが言って、山田がスマホをいじって数秒。
「……了解だって」
「早や、横澤くんの返事」
南が突っ込んでくる。
「山田に連絡させるからスマホ持っててって、樹に頼んだから」
まじめに持っててくれるあたり、樹らしいけど。
ふ、と笑って、オレが言うと。
「加瀬と、横澤くんって、いつから仲いいの?」
南の不思議そうな質問が飛んできた。
41
お気に入りに追加
605
あなたにおすすめの小説
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
その部屋に残るのは、甘い香りだけ。
ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。
同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。
仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。
一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。
無愛想な彼に可愛い婚約者ができたようなので潔く身を引いたら逆に執着されるようになりました
かるぼん
BL
もうまさにタイトル通りな内容です。
↓↓↓
無愛想な彼。
でもそれは、ほんとは主人公のことが好きすぎるあまり手も出せない顔も見れないという不器用なやつ、というよくあるやつです。
それで誤解されてしまい、別れを告げられたら本性現し執着まっしぐら。
「私から離れるなんて許さないよ」
見切り発車で書いたものなので、いろいろ細かい設定すっ飛ばしてます。
需要あるのかこれ、と思いつつ、とりあえず書いたところまでは投稿供養しておきます。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
嫌われ者の僕が学園を去る話
おこげ茶
BL
嫌われ者の男の子が学園を去って生活していく話です。
一旦ものすごく不幸にしたかったのですがあんまなってないかもです…。
最終的にはハピエンの予定です。
Rは書けるかわからなくて入れるか迷っているので今のところなしにしておきます。
↓↓↓
微妙なやつのタイトルに※つけておくので苦手な方は自衛お願いします。
設定ガバガバです。なんでも許せる方向け。
不定期更新です。(目標週1)
勝手もわかっていない超初心者が書いた拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。
誤字などがありましたらふわふわ言葉で教えて欲しいです。爆速で修正します。
俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる