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第2章 王様ゲーム

「ゲーム翌日」*樹

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 翌日。一緒のベッドで、おはよ、と起きて。
 とくに普段と変りもなく、普通に蓮の朝ごはんを食べて、一緒に大学に来た。
 大学に来ると、色んな友達に、声をかけられまくった。

 内容はもちろん。
 ――――……あの、キスについて。

「あたっちまったんだって?大変だったなー」は、全然良い。
「あちこちで悲鳴あがってんぜ~?」も、別に。
 まああれやこれや、色んな奴に突っ込まれて。

 ある程度は覚悟していたから、色んな言葉は、我慢して流していたけれど。

 「感想は?」 に、オレはキレた。

「っもう、うるさいよ! 罰ゲームなんだから、感想もなにもないっつーの!!」
「あ。……キレた。 樹、落ち着いて」

 騒ぐオレを、クスクス笑いながら、蓮がなだめる。
 なだめながら、取り囲んでた皆を散らして、2人になってから、蓮はオレの肩をぽんぽんと叩いた。


「今日だけの辛抱だって」
「……ていうか、今の奴ら 飲み会に居なかったよね?」
「ん。まあな……」

「どんだけ広がってんだ……ていうか、朝でこれだから…大学終わる頃には一体……」

 うんざりしてるオレに、蓮はますますおかしそうに笑って。

「今日は授業終わったら速攻帰ろうな」
「チャイムと同時に帰る。走ろう」
「走るのか……」

 苦笑いの蓮。

「あ、樹、ちょっと購買行ってから教室行く」
「ついてく?」

「いいよ。先行っといて」
「うん」


 バイバイ、と手を振って見送ってから、歩き出す。
 なるべく誰にも話しかけられないように、ものすごい早足で歩き続ける、が。


「樹、おはよっ!」

 斜め前から現れた奴を無視する事は出来なかった。


「…はよ、佐藤」
「昨日は災難だったな~」


 ……災難? ――――……あぁ……。

 うん、確かに。
 皆の前でさせられたのは、災難だった。

 こんなに噂になってるのも、災難だ。うん。 最悪だ。


「気持ち悪いだろ、いくら普段仲良くてもさ」
「え?」


 ……気持ち、悪い??


「オレがあれやらされた時は、ほんっとにしばらく橋本とのキスが忘れられなくて、食欲が……」

「それはこっちのセリフだ!!」


 どか、と後ろからどつかれて。佐藤が振り返ると、橋本が背後に立っていた。


「橋本……よくオレの前に普通に立ったな……」

 王様の橋本がこの事態の全ての元凶。


「あ。……怒ってる? ごめーん、だって、面白かったからー」

 悪びれない橋本に、オレはもう諦めて、苦笑い。


「……オレ、ほんとに二度と参加しないからな」

「んでも、ほんと、災難だったよな~。 1回だけの参加って言ってた、お前と加瀬が、まさかそろって当たるなんてな~」

「……お前の命令のせいで、朝から大変ですけど」

 べ、と舌を出して。 命令をした張本人のくせに他人事みたいに笑ってる橋本を軽く睨む。

 ――――……また、「災難」。


「だってオレらだってちゃんとしたもんなぁ? もう運が悪かったと思うしかねんだって」

「あ、思い出したくねえ。 オレらの話は、無し!」

 佐藤がものすごく嫌そうに、首を振って拒否してる。

「こいつとのキスなんて、黒歴史だよ…」
「こっちのセリフだー!」


 2人のやりとりに、ぷ、と笑った瞬間。
 蓮が、購買から戻ってきてしまった。


「あれ樹、行ってなかったの?」
「こいつらにつかまって……」

「もう時間だから、いそご。お前らもいそげ」

 蓮について早足で歩き始めながら。
 いつになってくれたらこの話題が、消えてくれるのかな~と思いつつ。
 オレはため息をついた。



 災難って。
 ……災難だったと思うのは、皆の前でやらされた事で。

 ――――……だから。



 ……気持ち悪い、とか。
 キス自体を災難だった、っていう認識は、なかったから。



 その言葉が、何だか承服出来ない。

 教室にギリギリセーフ。橋本たちが中に入っていくのを見てから、蓮の服を引いて、ドアの所で引き止めた。

「ね、蓮」
「ん?……なんかまた言われた?」
「うん。言われた」

 蓮はクスッと笑って、オレの表情をのぞき見る。

「平気だった?」
「……うん、まあ……あのさ蓮……」
「ん?」

 首を傾げた蓮のそでを、くい、と引いて。
 こそ、と小さく。


「……あのさ」
 
 きょとんとしてる蓮を見上げた。


「……オレとのあの王様ゲームさ」
「ん」

「災難、だった?」
「……は?」


「災難だったな、て言われて……」
「ああ……あのキスが、災難だったなって、言われた?」
「うん。気持ち悪かっただろって。 ――――……蓮もそう思う?」



「別にオレは、相手が樹だから、災難とは思わないけど……」
「――――……」


「けど他の奴だったら、災難だったと思うかも」

 苦笑いの蓮。
 
「……オレも、さ」
「ん?」

「……災難だったとは思ってなかったから、言われて、気づいたっていうか」
「――――……」


「気持ち悪いなんて、思いもしなかったし。皆の前でやったってことが嫌だったけど……」

「――――……また、お前は……」

 蓮がため息とともにそう言った。

「え?」


「何でそういう事、 言うのかなあ…」
「え?」

「……あ、もう教授来ちゃうから、中はいろう」

 時間ぎりぎり。
 仕方なく蓮の後に続いて、教室に入る。


 教室がわっと沸くのが分かって、うんざりしたのも束の間。
 教授が時間通りで入ってきてくれたので、助かった。

 良かった、ギリギリに入って。
 今日は教室入る時、ずっとこの作戦でいくしかない……。



 ほっとしつつ。
 隣の蓮を見ると、蓮も苦笑い。


「別にオレは、相手が樹だから、災難とは思わないけど……」

 さっきの蓮の言葉を思い出す。

 うん、そうなんだよな…
 蓮だから。災難じゃないんだよなぁ……。

 そう。オレも他の奴とだったら、皆の前だったとかそっちじゃなくて、そのキス自体が災難だったと思ってる筈。


 
 ――――…ほんと。
 オレにとっての、蓮の存在って。

 なんなんだろ。


 ……不思議。





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