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第2章 王様ゲーム

「ライン」*樹

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「……なんか――――……これ以上、蓮と近くなるのは……」
「――――……」

「……ちょっと、怖いかな」
「……こわい??」

 蓮が、眉をあげて、首を傾げる。 
 意味、分かってない、という顔。

 ……オレだって、よく分からないんだから、当然だけど。


「……うん。 怖い、から――――…… 
 キスとかは……しない方が、いいかなって……思うかな……」

 そのまましばしの沈黙。
 蓮が息をついて、眉をひそめた。

「――――……樹……」

 そっと頬に触れられて。

 
「……怖いって、なに? 悪い、よく分かんねえ」
「――――……だよね……」

「なんでオレと近くなるのが、怖い?」

「オレも、よく分かんないんだけど……今だってオレ、蓮が 近くに居すぎて、何かいつも蓮の事ばっかりで」


 言ってる内に何だか恥ずかしくなってきた。


「だから……これ以上って、ちょっと怖い」
「――――……」


 蓮の表情は――――……読めない、何か難しい顔をしてて。

 ……怒ってる? 困ってるかな?
 最初、そう思ったのだけれど。

 見つめてる内に、蓮が、片手で口元を隠した。

 ――――……たまに、照れてる時にそれをする。

 いつもはそういう時の仕草なんだけど……。
 今は、照れてるのかな……?
 よく分からない。


「……オレの事ばっかりって――――……」

 蓮は、じい、とオレを見つめてきて。


「……それって、嫌なの?」
「え。……嫌じゃないよ。 でも嫌じゃないから、怖い……? ……ごめん、よく分かんないや……」
「――――……」

「家族以外と住むのも初めてだし――――……こんなに、何をするのも一緒って……初めてだし」
「……それは、オレだってそうだよ」

「――――……それがさ、こんなに居心地よすぎてさ。キスしても嫌じゃないていうか……今日みたいなキスも……皆の前じゃなければ、別に……気持ち悪かったとかでもないし」
「……」


「これがさ……結婚した人とかと、こんな風になってるんだったら、もう……言う事ないんだろうなーとか……思う位なんだけど……」
「――――……」

「でもそうじゃないし。恋人とかできたら、今より蓮と離れるだろうし……」
「――――……」


「もう少し……オレ達の間に、ラインがあってもいいのかなと……」
「――――……」


「……思っちゃった、んだけど……」


 蓮が途中からずーっと黙ってるので。
 だんだん最後の方の声は小さくなってしまう。

 ……オレ、変な事言ってる?
 不安になってくる。


 でも、別にオレ、離れたいって言ってる訳じゃない。
 できたらずーっとこんな風に居たいけど……。


 ……なかなかそれって難しいだろうし――――……。
 あんまり、これ以上近くなり過ぎない方が、やっぱり良い気がする。


 じゃないと、蓮が居なくなった時にオレ――――……。



 ――――……ん?

 ………………どうなんの?

 ――――…………どうか、なるのか? オレ。


「――――……オレは、さ」


 蓮がやっと口を開いてくれたので、とりあえず意味の分からない思考から少し離れて、蓮を見上げた。


「何のラインも引かずに、このまんま、近づいて……」
「――――……?」

「……もっともっと、近づいて――――……」
「――――……??」


「……離れられなくなる位、の方が、いいんだけど」
「――――……?……っ……?」


 言われた 事を理解した瞬間。
 ぼっ!!と顔に血が集まった。


 ……蓮って、ほんと、一体、何言ってんの。
 え、なに今の。

 どういう意味……。


 つか……どういう意味だって、恥ずかしすぎる。


 超真顔で、何言ってくれてるんだろ。 
 
 
 でもって、オレは何で、こんなに真っ赤になってんの……。





「――――……樹は?」

 蓮が、オレを呼ぶ声って。
 ――――……いつも、本当に、優しくて。




 
「――――……オレが、一番近くじゃ、嫌か?」




 ――――……もはや、全然、質問の意味が分からない。
 何を思って蓮が言ってるのか、全然、分からない。


 一度、この話中断して、お互い、ちゃんと考えた方が良い。
 お互いによく分からないまま、思った事を、ただ話してるだけな気がする。

 そう思うのだけど。


 だけど。
 目の前の、真剣な瞳から、視線を逸らすのは。

 ものすごく、難しい事のように思えて。


 ただ見つめ返すしか、出来なかった。





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