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第2章 王様ゲーム
「贅沢?」*樹
しおりを挟む飲み屋街なので外も騒がしくはあったけれど、室内のこもったざわめきとは違う。 すこし、落ち着いた。
駅に向かって歩こうとした腕を、蓮が優しく引き止めた。
「?」
「樹、さっきのカフェのケーキ、買って帰る?」
「え。あ……うん」
「じゃ行こ」
引かれて、駅とは逆方向に歩き始める。
「――――……樹、怒ってる?」
「……別に。 オレ達二人そろって運が悪かったなー……て感じ」
「……確かにな。 つかさー」
「?」
「逆だったらどーした?」
「逆?」
「オレがお前に、じゃなくて、 お前がオレに、だったら」
悪戯っぽく笑って、蓮がオレを見下ろしてくる。
「できた?」
「――――……オレより背の高い奴に、んなコトできないし」
「……はは、そっか」
楽しそうに笑って。蓮はぐい、と肩を抱いてきた。
「――――……つかさ、樹、そーいうキス、したことあんの?」
「――――……」
またそういう事、普通に聞いてくる。
オレがそういうのすぐ答えないの知ってるだろうに。
「――――……そういえば、樹って、誰かと付き合ってた?」
黙ってると、質問を変えてきた。
こっちは答えられそうなので、仕方ない、答える事にした。
「……うん。2年までは、付き合ってたよ。1年半位かなあ……」
「……誰?」
「絵美。あーと……吉沢絵美。 知ってる?」
「……3年の時同じクラスだった。 へえ。結構派手な子だよね。意外。あ、樹、こっち」
車が商店街に入ってきて、狭い道を通ってこっちに向かってくると、抱かれてた肩を離されて、右に寄せられる。
「……オレ子供じゃないんだけど。」
「いーの。危ないから」
自然とこういう事、するの、優しい証拠だけど。
……オレにしなくてもいいんじゃないだろうか。
彼女にするなら、喜ばれるんだろうけど。
「吉沢って派手だから、男もそういうの選ぶのかと思った」
「オレも付き合ってて不思議だった。でも、アプローチすごくてさ。最初は押し切られて付き合ってたんだけど……二人で居ると結構可愛いとこもあったから、続いたかなあ……」
「……なんで別れたの?」
「んー……やっぱり、好きなコトが色々違ったから……」
「一年半も付き合って?」
「……一年半、付き合ったからこそ、だよ」
「――――……」
「そんだけ付き合っても、 絵美が好きな、カラオケとかゲーセンとかあんま好きじゃないし、見る映画とかの趣味も全然違うし。合わせて見るんだけど、やっぱりもともとの趣味が違うって致命的というか……」
思わず言いながら、苦笑い。
「……ちゃんと、エッチはしてた?」
「――――……なんてこと真顔で聞くの……」
思わず眉をひそめて、蓮を見つめる。
でも、多分答えないとずっと続くと思うので。
もうこの、よく分からない流れで全部話してしまおうと、思ってしまった。
「絵美ってめっちゃくちゃ積極的な子だったから……流されて、してた」
「……流されて?」
「うん。 オレからってよりは……いつも、向こうから、だった。
普通にしてたけど……オレ、そういう衝動、薄いのかも」
「――――……」
「そういうのもね、不満だったみたい。なんか、もっと求めてくんないとやだって、何度か言われた」
「ふうん……贅沢」
「……え?」
「あ、良かった、店やってた」
カフェに着いて、まだ明かりが付いてる事を確認してから蓮がドアを開けた。それについて中に入りながら。
……贅沢って、なんだ?
贅沢って言ったんだよね、いま?
頭の中には、?がたくさん踊ってる。
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