上 下
8 / 75
第2章 王様ゲーム

「穏やか」*蓮

しおりを挟む
 樹は、優しい。
 大勢で騒がないけれど、直接話せば、優しいし、まっすぐだし、まじめなのも、すぐ分かる。
 おとなしい訳ではないから、突っ込みも入るし、話していて、楽しい。

 大勢でつるんだりするのはあまり見かけないけれど、樹は仲の良い奴が多い気がする。

 オレは、まあ……いつも目立つ連中と居て、楽しそうで、騒がしくて。と、周りから思われているらしいのは、何となく知ってる。

 自分でも、バカ騒ぎしてるのが一番好きな人間だと、思っていたし。


 ――――……樹と話す時みたいに、穏やかに話すのが好きだ、なんて、最近、初認識したばかりで。

 最初に樹と話した時に、何でだか、自分がすごく穏やかで。
 その居心地が良かった。

 一緒に暮らして、さらに、その認識が深まって。

 穏やかに話すのが、楽で。
 樹とは、どれだけ一緒に居ても、疲れない気がする。

 無理をしなくても、楽で、居心地が良くて。
 それがこんなに、穏やかだなんて。
 最近、初めて知った。


「なあ蓮、イメージどんなの? こんなの?」

 樹が深緑の皿を手に持って、見せてくる。

「ん――――……形はこんな感じかなあ… 黒っぽいのがいいかと思ってたんだけど……緑もいいかも……」

「とりあえず黒も探してくるね」

 樹がそう言って、また店内をうろうろし始める。

 渡された皿をじっと見ていると。
 色々作りたいものが浮かんでくる。

 なんかオレ、ほんと料理人みたいになってきたな……。
 ふ、と、苦笑いしつつ。


「蓮ー、ここらへん? 黒いのって」
「ん」

 樹が見ている横に一緒にしゃがんで、2人で選ぶ。

「……じゃ、さっきの樹の持ってきたこれと、あと、この黒いの。買ってこ」
「うん」

 2人でレジに並ぶ。

「いくら? 半分だす」
「いいよ、オレが欲しかったんだし」

「でも……むしろオレが食べさせてもらうんだし」

 クスクス笑いながら、樹が皿の裏側の値段シールを見ようとしてくる。
 見せないように、しているのだけれど。


「一緒に買おうよ、蓮」

 そう言う樹に、多分もう聞かないなと思い、仕方なく頷く。

「蓮、なんか不満?」
 言いながら、樹がオレを見上げて、肩を竦めて笑う。

「…んな事ないけど」
「出すって言ってるんだから、その方が普通良くない?」
「――――……まあ……」

「……それに、2人で一緒に買ったって方が、なんか嬉しくない?」

 そう言う樹が、ふ、と楽しそうに笑っているので、結局そんな気になって、オレも、そうだなと頷いた。包んでもらった紙袋を受け取って、店を出る。

「早く料理したいなーとか、思うの?」
「思う。早く料理、のせてみたい」

「ほんと蓮、料理人みたい」

 クスクス笑って。

「おかげでオレは、めっちゃ毎日幸せだけど」

 178センチのオレより、樹はいくらか背は低い。
 一緒に並んでると、すこし下にある樹の頭。 茶色の髪がふわふわしてる。笑顔で何か言う時、必ず見上げてきて、顔を見ながら話す樹。

 可愛いとしか思えない顔で、そんなような事を言って、微笑む。


「――――……お前が喜ぶから、オレ、プロ化してってるんだけど」
「えー、じゃあもっと喜ぶことにするね」

 そしたらもっと美味しくなるのかー、すごいなー、なんて、楽しそう。


「樹、どーする、集合まであと30分あるけど」
「うーん。蓮はどうしたい?」

「コーヒー飲もっか」
「うん」
「歩きながら探そか」
「うん」

 二人で歩きながら、店を探す。

「そういえばさ」
「ん?」

「蓮のことを好きな子……とか、気になる?」

 珍しい、そういう恋愛話みたいなのを振ってくるの。
 そう思いながら、答える。

「……今は、なんねーかな」
「……今、は?」
「彼女欲しいとか、今あんまり思ってないから」
「……ふうん。そうなんだ。 あ、蓮、このカフェ、美味しそう」
「ん、いいよ、ここで」

 雰囲気の良い、カフェ。
 ドアを開けると、からん、とドアチャイムが鳴り響いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

「誕生日前日に世界が始まる」

悠里
BL
真也×凌 大学生(中学からの親友です) 凌の誕生日前日23時過ぎからのお話です(^^ ほっこり読んでいただけたら♡ 幸せな誕生日を想像して頂けたらいいなと思います♡ →書きたくなって番外編に少し続けました。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

【Rain】-溺愛の攻め×ツンツン&素直じゃない受け-

悠里
BL
雨の日の静かな幸せ♡がRainのテーマです。ほっこりしたい時にぜひ♡ 本編は完結済み。 この2人のなれそめを書いた番外編を、不定期で続けています(^^) こちらは、ツンツンした素直じゃない、人間不信な類に、どうやって浩人が近づいていったか。出逢い編です♡ 書き始めたら楽しくなってしまい、本編より長くなりそうです(^-^; こんな高校時代を過ぎたら、Rainみたいになるのね♡と、楽しんで頂けたら。

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川パナ
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜

Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、…… 「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」 この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。 流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。 もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。 誤字脱字の指摘ありがとうございます

処理中です...