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第1章 同居

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「ごちそうさまでした!」
「ん」

「美味しかった」

 いつも言ってくれる。
 すごく良い顔で食べてくれる樹が、好きで。

 樹と暮らしてから、格段に料理の腕が上がっているのが自分でも分かる。


「なんか、蓮って、その内、売れっ子のシェフとかになりそう」
「ん、そう?」

「だって、見た目でまず女の子がつくだろうし。しかもこんな美味しかったら、絶対いけると思う」

「じゃあシェフの道も考えとこうかな……」
「シェフになるなら、料理の学校じゃないの?」

「独学でやる」

「そんな甘い世界…じゃないと思うんだけど、なんか、蓮ならできそう」

 クスクス笑いながら、樹が食べ終わった食器を運んでいく。


「片付けするから、蓮、先にお風呂入ってきていーよ」
「良いよ。片付け一緒にやるし」

「でもさ、後で、ドラマ一緒に見たいし。順番に入っちゃった方が良いと思うんだけど」
「……んじゃ、先入ってくる」
「うん。すっごい良い匂いの入浴剤見つけた。置いてあるから」


 笑顔で送り出され。
 バスルームについて、服を脱ぐ。

 脱衣所にはもう、バスタオルが用意されてて。



 なんか。
 樹との生活って。

 快適で、楽しすぎて。


 親にやってもらってた部分を、全部自分たちでやらなければいけないんだから、絶対に多少は面倒な事もあるだろうし、実家が恋しくなったりするのだろうかと思っていたけれど、そんな事は一切ない。


 ローズの入浴剤。
 めちゃくちゃ良い匂い。



「――――……」


 なんだろう。
 まったく無理も遠慮もなく、こんなに、一緒に居て楽しい奴って、居るのか? オレがしてないだけで、もしかして、樹の方が我慢してくれてる事があったりするんだろうか。


 バスルームを出ると、もうすっかり片付けは終わっていて、樹が洗濯物をたたんでいた。

「こっち、蓮の。持ってってね」
「ありがと」

 タオルなどを抱えながら、樹が立ち上がる。

「お風呂入ってきまーす」
 言って、蓮がバスルームに消えていく。


 服を片付けて、ドライヤーで髪を乾かしてから、2人分のコーヒーを淹れている時、樹が戻ってきた。


「良い匂い、コーヒー」
「――――……ん。 髪、乾かすから来な」
「うん」

 リビングの椅子にすとん、と樹が座る。

「――――……」

 ドライヤーを掛けてやるのが最近日課になってる。

 濡れた髪が乾くにつれて、ふわふわした感触に変わっていく。


「お前の髪って、柔らかいよな……」
「え、そう?」


 ふ、と笑いながら、振り返ってくる。


 ……樹の髪に触るのが、好き。柔らかくて。

 そんな風に感じるのは、やっぱりおかしいんだろうか。


「なんか最近いつも乾かしてくれるけど……」
「ん?」

「面倒だったら、自分でやるからね」
「――――……いい。 面倒じゃねえし。てか、されたくなかったら言えよ」

「…人にやってもらうのって、気持ちいいんだな~て、いっつも思ってるよ」

 クスクス笑う、樹。


「オレはすっごくらくちん……」

 言いながらじっとしてる樹。ちょうど乾かし終わった頃。


「ありがと、蓮。 もう時間、ドラマ見よ」
「ん」


 さっき淹れていたコーヒーをソファの前のテーブルに置いて、2人でソファに腰かける。


 樹は、ドラマが好き。
 サスペンス物が好きらしいけど、他のも結構見る。


 オレは、ドラマはそんなに見てこなかった。
 たまに映画を見る位。


 じゃあ何で、今、樹とドラマを見てるか。

 見たドラマの話を、樹がしてるのが面白いから。
 見てなくても話は聞けるけど、見てた方が盛り上がる。

 一緒に見始めたら、意外と面白いのもあって、最近割と楽しみにもしている。



「蓮、これ食べたい」
「チョコアイス?」

「うまそー」

 コマーシャルを見て、明日買いに行こ、なんてウキウキしてる。 
 これだって、一緒にテレビ見てないと、出来ない会話。


 別に無理して見てる訳じゃない。
 樹と、同じ時間、同じものを楽しんで、話したりしたい。



 なんだろう。
 ――――…どうしてオレ、こんなに樹と共有したいかな。


 一緒に暮らし始めて、どんどんその傾向が顕著になっていく。
 何でなのかは、よく分かんねえけど。



「うわー、やな奴ー…」

 ドラマの仇役について、嫌そうに顔をしかめて、呟いてる。
 険しい顔に、ふ、と笑ってしまう。


「樹、コーヒー冷める」

 言いながら渡すと、受け取って、ありがと、と笑う。



「……なあ、蓮さ」
「――――……ん?」

「……オレと暮らしてて、疲れない?」
「……え、お前、疲れてんの?」

 少なからずショックで。ドキドキしながら聞いてみると。
 樹はすぐに、ぶんぶん首を横に振った。


「オレ、すごく楽ちんすぎてさ。 蓮が無理して色々やってくれてるからかなーとか思って。大丈夫?」
「――――……」


 ――――……さっき、まったく同じ事、思ってた。
 

「……快適すぎて困るくらい、快適」
「あ、ほんと?――――……じゃあ良かった。てか、何で困るの?」

 樹はクスクス笑いながら、オレを見つめてくる。


「いや、困んないけど……」


 ――――……この同居をやめる時、困るかなと。
 思ってしまったんだけど。


「無理しないでいこ、まだ4年間始まったばっかりだしさ」
「……そだな」

「やな事あったら早めに言ってよね。オレも言うから」
「ん」


 そこまで言うと、もう樹はすっきりしたみたいで。
 コーヒーを飲みながら、ドラマに入り込んでいる。


 同じ事を考えてて。
 お互いが、快適で居られる事が、なんだかすごく嬉しい。


 ……良かった、樹と同居できて。
 毎日すごく穏やかで、幸せな感じ。



 そんな風に、日々、思ってしまう。



 
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