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第1章 同居
◇
しおりを挟む「ごちそうさまでした!」
「ん」
「美味しかった」
いつも言ってくれる。
すごく良い顔で食べてくれる樹が、好きで。
樹と暮らしてから、格段に料理の腕が上がっているのが自分でも分かる。
「なんか、蓮って、その内、売れっ子のシェフとかになりそう」
「ん、そう?」
「だって、見た目でまず女の子がつくだろうし。しかもこんな美味しかったら、絶対いけると思う」
「じゃあシェフの道も考えとこうかな……」
「シェフになるなら、料理の学校じゃないの?」
「独学でやる」
「そんな甘い世界…じゃないと思うんだけど、なんか、蓮ならできそう」
クスクス笑いながら、樹が食べ終わった食器を運んでいく。
「片付けするから、蓮、先にお風呂入ってきていーよ」
「良いよ。片付け一緒にやるし」
「でもさ、後で、ドラマ一緒に見たいし。順番に入っちゃった方が良いと思うんだけど」
「……んじゃ、先入ってくる」
「うん。すっごい良い匂いの入浴剤見つけた。置いてあるから」
笑顔で送り出され。
バスルームについて、服を脱ぐ。
脱衣所にはもう、バスタオルが用意されてて。
なんか。
樹との生活って。
快適で、楽しすぎて。
親にやってもらってた部分を、全部自分たちでやらなければいけないんだから、絶対に多少は面倒な事もあるだろうし、実家が恋しくなったりするのだろうかと思っていたけれど、そんな事は一切ない。
ローズの入浴剤。
めちゃくちゃ良い匂い。
「――――……」
なんだろう。
まったく無理も遠慮もなく、こんなに、一緒に居て楽しい奴って、居るのか? オレがしてないだけで、もしかして、樹の方が我慢してくれてる事があったりするんだろうか。
バスルームを出ると、もうすっかり片付けは終わっていて、樹が洗濯物をたたんでいた。
「こっち、蓮の。持ってってね」
「ありがと」
タオルなどを抱えながら、樹が立ち上がる。
「お風呂入ってきまーす」
言って、蓮がバスルームに消えていく。
服を片付けて、ドライヤーで髪を乾かしてから、2人分のコーヒーを淹れている時、樹が戻ってきた。
「良い匂い、コーヒー」
「――――……ん。 髪、乾かすから来な」
「うん」
リビングの椅子にすとん、と樹が座る。
「――――……」
ドライヤーを掛けてやるのが最近日課になってる。
濡れた髪が乾くにつれて、ふわふわした感触に変わっていく。
「お前の髪って、柔らかいよな……」
「え、そう?」
ふ、と笑いながら、振り返ってくる。
……樹の髪に触るのが、好き。柔らかくて。
そんな風に感じるのは、やっぱりおかしいんだろうか。
「なんか最近いつも乾かしてくれるけど……」
「ん?」
「面倒だったら、自分でやるからね」
「――――……いい。 面倒じゃねえし。てか、されたくなかったら言えよ」
「…人にやってもらうのって、気持ちいいんだな~て、いっつも思ってるよ」
クスクス笑う、樹。
「オレはすっごくらくちん……」
言いながらじっとしてる樹。ちょうど乾かし終わった頃。
「ありがと、蓮。 もう時間、ドラマ見よ」
「ん」
さっき淹れていたコーヒーをソファの前のテーブルに置いて、2人でソファに腰かける。
樹は、ドラマが好き。
サスペンス物が好きらしいけど、他のも結構見る。
オレは、ドラマはそんなに見てこなかった。
たまに映画を見る位。
じゃあ何で、今、樹とドラマを見てるか。
見たドラマの話を、樹がしてるのが面白いから。
見てなくても話は聞けるけど、見てた方が盛り上がる。
一緒に見始めたら、意外と面白いのもあって、最近割と楽しみにもしている。
「蓮、これ食べたい」
「チョコアイス?」
「うまそー」
コマーシャルを見て、明日買いに行こ、なんてウキウキしてる。
これだって、一緒にテレビ見てないと、出来ない会話。
別に無理して見てる訳じゃない。
樹と、同じ時間、同じものを楽しんで、話したりしたい。
なんだろう。
――――…どうしてオレ、こんなに樹と共有したいかな。
一緒に暮らし始めて、どんどんその傾向が顕著になっていく。
何でなのかは、よく分かんねえけど。
「うわー、やな奴ー…」
ドラマの仇役について、嫌そうに顔をしかめて、呟いてる。
険しい顔に、ふ、と笑ってしまう。
「樹、コーヒー冷める」
言いながら渡すと、受け取って、ありがと、と笑う。
「……なあ、蓮さ」
「――――……ん?」
「……オレと暮らしてて、疲れない?」
「……え、お前、疲れてんの?」
少なからずショックで。ドキドキしながら聞いてみると。
樹はすぐに、ぶんぶん首を横に振った。
「オレ、すごく楽ちんすぎてさ。 蓮が無理して色々やってくれてるからかなーとか思って。大丈夫?」
「――――……」
――――……さっき、まったく同じ事、思ってた。
「……快適すぎて困るくらい、快適」
「あ、ほんと?――――……じゃあ良かった。てか、何で困るの?」
樹はクスクス笑いながら、オレを見つめてくる。
「いや、困んないけど……」
――――……この同居をやめる時、困るかなと。
思ってしまったんだけど。
「無理しないでいこ、まだ4年間始まったばっかりだしさ」
「……そだな」
「やな事あったら早めに言ってよね。オレも言うから」
「ん」
そこまで言うと、もう樹はすっきりしたみたいで。
コーヒーを飲みながら、ドラマに入り込んでいる。
同じ事を考えてて。
お互いが、快適で居られる事が、なんだかすごく嬉しい。
……良かった、樹と同居できて。
毎日すごく穏やかで、幸せな感じ。
そんな風に、日々、思ってしまう。
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