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第1章 同居

「なんか、良いな」*蓮

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 オレが顔を寄せると、樹は唇が触れる前に目を伏せる。


「――――……」


 目を閉じて、キスを受けてくれる樹を見るのが、好き。
 ――――……キスするのは、そんな、理由、かもしれない。


 最初にキスした時は、何だか急に、触れたくなった、としか言えない。


 樹は何も、聞かないし、言わない。
 それを良い事に、オレも、何も言わない。


 別に、これ以上何かしたい訳でも、ない。


 だけど、何となく、日常でふっと、
 樹にキスしたい瞬間があって。


 それを、樹が、何も言わずに許してくれているので、
 それに甘えて、もう、どれくらい、経ったっけ――――……。




「……ごはん、食べよっか」

 唇が離れると、樹がそう言って、ふっと離れていく。


「――――……ん」


 一緒に夕飯の準備をしながら、また、全然別の話をする。



 ――――……これは、何なんだろう。
 
 唇を重ねても。
 ディープキスに持ち込もうとか、そういう衝動は、沸かない。

 激しい欲情を感じる訳でも、ない。

 でも、なんとなく。
 なんとなく、樹に触れたい。

 受け入れてくれる、瞳を伏せる樹の顔を、見たい。



 自分でも、謎すぎて、どうしたらいいのか、よく分からない。


◇ ◇ ◇ ◇



 オレが、樹と初めて話したのは、大学の入試の日だった。
 高校時代は、まったく接点が無かったので、バス停で降りて目が合った時、話しかけていいのか、一瞬はためらった。


「――――……横澤、だよな?」

 そう言ったら、よくオレの事知ってるね、と言ってきた。


 うん。まあ。
 ……知ってた。

 樹には、イケメンで有名、とか言ったけど。
 少し違う。


『囲碁の大会で、個人戦でいいとこまでいった奴の顔が綺麗』

 そんな事を、クラスの奴らが話してた事があって。

「綺麗って、男なんだろ?」

 そう聞いた。 男と綺麗がいまいち結びつかなかった。

「でもほんとになんか、綺麗なんだよな」
「一回見て来いよ、蓮」

「はー?いらねーよ。男の綺麗なんか、必要ない」

 思ったままに言うと、「言ったオレらがバカでした」と返ってくる。

「蓮の彼女、綺麗な子が多いもんな……」
「オレ、綺麗な子好き。ちょっとキツイ顔の――――……」
「はいはい。……あ、蓮! あいつあいつ!」
「ん?」

 教室の脇の、廊下を通り過ぎていく奴を指されて、そちらを見る。


「綺麗だったろ?」
「……全然見えなかった」
「見てこいよ、今ならすぐ見れるじゃん」

「つーか、何でオレが男追いかけて顔見なきゃいけないんだよ」

 めんどくさい。

 そんな会話を聞いてた周りの女子たちが、クスクス笑う。


「樹くんの事でしょ? 確かに綺麗だよね、皆言ってる」
「うん。頭よさそうだし。囲碁、なんか、似合うもんね」

 そんな事を女子達まで言い出し、ふーん、と少しの興味が湧いた時。

「あ。戻ってきた。蓮、見てて。私ちょうど用があったんだ」

 女子の一人が小走りで廊下の方に向かい。

「樹くーん!」

 そう呼ぶと、廊下を歩いてたそいつは、ふ、と気づいて、こちらに向かってきて、ドアの所で止まって、女子と何か話し始める。


「蓮、見えた?」
「隠れてて、見えね。 もー見てくるわ」

 立ち上がって、ドアに近づく。

「ごめん、ちょっと通して」

 言うと、「樹くん」は、ふい、と蓮を振り仰いだ。
 ぱちっ、と視線が絡む。


「――――……」

 一瞬、何かが、よぎった。


 ――――…綺麗。
 まあ。 それは、確かに。そうかも。



「あ、ごめん」

 合った視線はすぐに逸らされて、そう言うと、女子と二人で廊下に出ていった。

 
 肌白い。 なんか、全体的に色素が薄い気がする。髪も、茶色い。
 確かに――――… うん、まあ、綺麗かも。


「どーだった、蓮?」

「……まあまあ……?」

「まあまあって……そりゃお前の付き合う美人達に比べたら、そりゃ違うだろうけどさー」
「つか、お前、ほんと上から目線な。まあまあって、何だよ」

 やいのやいのうるさい外野には適当に答えながら。
 ――――……うん、まあ、確かに綺麗、ではあった。3年近く、まるで見たことが無かったのが、不思議。

 …まあでも、男だしな。
 オレ、男の顔なんか、いちいち見ねえし。知らなくて、当たり前か。


 とまあ。
 そんな経緯で、「綺麗」と呼ばれているのを知っていて。「綺麗」を言うのはどうかと思ったので、「イケメンで有名」と言ったら、「嫌味にしか聞こえない」と突っ込まれた。


 あ、そういう風にしゃべるんだな。

 ――――……見た目から言ったら、すげえ静かそうなのに。
 何も余計な事話さず、静かに紅茶でも飲みながら、読書でもしながら、座ってそう。
返って
 鋭い突っ込みが返って来たのが、イメージと違って、面白かった。

 第一志望と聞いて、もし縁があったら、一緒になれるだろうかと。
 咄嗟に思ってそう言ったら、樹は、ふんわりと、笑んだ。


「――――……」

 初めて目が合った時に、よぎった何かがまたよぎった。
 ……それが何の気持ちかは、よく分からないけど。

 一瞬、そわそわする感覚。というのか。
 はっきり言葉にできない、何か。


 お互いの合格を何となく祈りながら過ごしていたら、発表当日、高校の職員室の前で会った。それぞれの担任に報告して、何となく一緒に帰る事になって。

 そしたら、お互い、一人暮らしはしたいけど、やり慣れない家事があって、どうしようかと、同じような事を思っているのを知った。

 オレの料理と、こいつの掃除や洗濯、合わせて協力してけば、ちょうどいいんじゃないか?

 すぐそう思ったけれど、何と言っても知り合ったばかり。
 いや、知り合いとも呼べない位の、トータル数分程度しか話してない奴に、そんなこと言ったら、絶対警戒されそうだと思って。


 迷っていたら、樹が、言った。


「……同居、してみる?」


 と。

 さらっとそう言ってくれた樹の事を、なんだか一瞬で、好きになって。


 こいつ、なんか、良いな。
 そう思った。


 親は、友人となら、という事で、即決してくれた。話して数分の奴が相手だとはもちろん言わなかったので、その日のうちに同居が決まった。


 卒業式のすぐ後に引っ越して、二人で暮らし始めた。





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