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本編

想い

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 ガイルは、僕を抱きしめ、頭を優しく撫で、落ち着くまで側に居てくれた。

 「お前は、魔法陣を描いて売っているし、それで生活出来ているんだから、無理にどうこうしようと、しなくても良い。今は心を癒す時間だ。ゆっくり過ごせ」

 「でも・・・」

 「でも、じゃない。周りの事は気にするな。今までは、冒険者もして魔法陣も描いてと、忙しくしていただろ。仕事を魔法陣一本に絞っただけと、思えば良い。焦るな落ち着け」

 「・・・うん。分かった」

 「よし、じゃ朝飯食いに行くぞ、顔洗ってこい!」

 ガイルに促されて、洗面所に向かう。
 鏡を見ると、さっき泣いた所為で、目が赤くなっていた。

 はぁ、最近泣いてばかりだな。目冷やさないと。

 手に小さな氷を出し、ハンカチで包んで目に当てる。
 あまり長く冷やせないけど、何もしないよりはマシだと思いたい。

 少ししたら戻らないと、ガイルを待たせてしまう。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 イズが入って行った扉を見つめてため息を吐く。

 食堂で働くなんて、認める事は出来ない。
 顔見知りの冒険者ね・・・確かに、顔見知りの冒険者は、沢山居るだろう。

 イズが食堂なんかで働いてみろ、あいつら毎日の様に食堂に通うのが目に見えている。

 イズは何も分かっていない。
 自分が周りにどう見られ、どう思われているのか・・・。
 お前の事を狙っている冒険者は多いんだよ。俺が近くにいるから、下手に手に出せないだけで。
 出来るなら、部屋で魔法陣を描いていて欲しい。
 部屋から出ずに、俺の帰りを待っていて欲しい。
 俺はお前を誰にも渡す気はないのだから。

 ただ、今はまだお前には何も言えない。
 弱った所に付け入る様な真似はしたくない。
 それに、今、俺がお前に気持ちを伝えた所で、混乱するだろうし、また夜寝れなくなっても困る。

 俺は、早くお前が良くなるのを願っている。
 そして、お前の大事なクマさんが、早く元に戻ってくれることを、祈っているよ。

 お前にとって、生まれた時から一緒にいる大事な家族だからな。
 あいつが元の状態に戻って、やっとスタートラインに立てる。

 そしたら、イズの気持ちが、俺に向くように動くつもりだ。
 大事に大事にし、慈しむ。だから、俺を選べ。

 顔を洗って戻ってきたイズは、先程より少しだけ目の周りの赤みが引いていた。
 戻ってくるのが遅かったから、少し目を冷やしてから戻ってきたのかもな。

 うーん・・・それにしても、今日の服も可愛いな。
 これもあれか、使用人達が選んだとかいう服なんだろうな。
 昨日の寝巻きといい、今日の服といい・・・良く似合っている。似合っているから困る。
 他の奴らも見ると思うと・・・グッと眉間に皺が寄ってしまう。

 「ガイル、お待たせ」

 と、俺に駆け寄ってくるイズを見つめる。

 飴玉色の瞳から流れる涙は甘いのだろうかと、先程は思わず涙に唇を寄せそうになったことを思い出し、首を振る。
 余計なことを考えるのはやめよう。
 今は、まだ手を出さない。

 「よしっ、行くぞ」
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