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三章 精霊姫 側妃になる

正妃と側妃の初対面

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 「あら? 側妃様ではなくて?」

 そういうと、王太子妃殿下は、扇子を口元に当てながら、優雅に微笑んだ。
 亜麻色の髪に、琥珀色の瞳は、柔らかな印象を人に与える。
 声も高過ぎずきつく感じず、どちらかというと、おっとりとした話し方だと思った。
 彼女に対する私の第一印象は、良い人そうだった。

 「妃殿下、お初にお目に掛かります。スティーリアと申します」

 私が、挨拶するとロイ義兄様も続いて挨拶を交わす。
 
 「あなたの話は聞いていますが、お会いするのは初めてですね」

 「はい」

 「噂通り、とても美しい方ね……。レオニード様が一目惚れしたと聞いた時は、何をふざけたことをと思っていたけれど……」

 「恐れ入ります」

 気不味い……
 どうしようかしら。
 ヴァン様は、まだ窓から見てるかしら? と先ほどの窓を見上げるも、ヴァン様は居なかった。
 
 妃殿下は、ヴァン様の事を愛してるのよね……
 ということは、私は、彼女にとって邪魔な人間。今のところ、敵意は感じないけど……

 「ねぇ、せっかく、会えたんだもの。少しお茶でも如何かしら?」

 これは、どう考えても、ロイ義兄様抜きで、二人でお茶したいっていうことよね。
 どうしよう……

 「……それでは、私は、これで失礼致します。どうぞお二人でお楽しみ下さい」

 ロイ義兄様も妃殿下の意思を汲み取り、場を辞することにしたみたいだ。
 ほんのひと時しか言葉を交わすことは出来なかったけれど、それでも大事な時間だった。
 
 「ロイ義兄様、今日は、ありがとうございました」

 そして、頂いた簪を撫で、心の中で「大事にしますね」と呟く。
 心の声が届いたと言わんばかりに、優しく微笑み、ロイ義兄様は去っていった。

 さて、どんなお茶会になるのだろうか……

 「さぁ、こちらへ。私のお気に入りの場所があるのよ」

 そう案内された場所は、思っていたのとは少し違っていた。
 もっと、華やかで庭園の中心などでお茶をするのかと思っていたけれど……

 この場所は……水晶宮へ向かう通路のすぐ近くにあるガゼボだ。
 何故、水晶宮の近くなのか。
 私の近くにいることは嫌じゃないのだろうか。

 「ふふっ、不思議そうな顔をしているわね。どうしてこんなところが、お気に入りの場所なのかって思っているのよね」

 「その……」

 「レオニード様が、毎日あなたの宮へ通っていることは知っているわ。知りたくなくても、自然と耳に入って来てしまうから」

 「……」

 「だから、この場所にガゼボを建てたのよ」

 「え……?」

 だからとは? どういう意味だろう。

 「レオニード様の姿を見るために、あなたの宮の近くにガゼボを建てたのよ。毎朝、ここに出てきて、あなたの宮から出てくるレオニード様を眺めているのよ。私が見ることが出来ない、優しそうな顔をして出てくるのよ。その笑顔を見つめていたいの」

 ……それは、なんとも辛い理由だ。
 好きな人が、他の女のところから幸せそうな顔をして出てくるのを眺めることの何が楽しいのだろう。
 わざわざガゼボを建ててまですることなの?
 自分で自分を傷つける行為ではないの?

 「その……辛くはないのですか? 私が聞くのもおかしなことではあるのですが……」

 彼女を悲しませてる元凶である私が聞くことではないかもしれないけど、こんな話をされたら、聞かずにはいられない。

 「辛い……ね。もうその段階は過ぎてしまったの。結婚しても彼が私を愛していないことは分かっていたの。それでも、執務を通じて良好な関係は築けていたから、それで十分だったの。あなたが来るまではね……」

 そういうと、瞳の輝きが陰る。
 敵意は感じないと思っていたけれど、それを隠すだけの矜持があったのね。
 今は、私のことが憎いのだとはっきりと感じることが出来る。

 「あなたのデビュタントで、レオニード様があなたに一目惚れをして、側室として迎えると聞いた時は、耳を疑ったわ。あの女性に一切興味を示さなかった彼が? と」

 「え……ヴァン様は、女性に興味がなかったのですか?」
 
 そんな風には、全然感じなかったから驚いた。
 まぁ、私は水晶宮から出ないから、ヴァン様が他の女性にどのように接しているのか知らないし、女性に興味がなかったなんて知らなかったわ。

 「ヴァン様……あなたは、レオニード様のことをヴァン様と呼んでいるのね」

 「あの……ヴァン様がそう呼ぶようにと……」

 「そう。ヴァン様……いいわね。私はその名を呼ぶことを許されていないから、羨ましいわ」

 あー……やっちゃった。
 でも、ヴァン様の話をするのに、彼の名前を呼ばずに会話をすることは無理だし……
 レオニード様なんて呼んだことないから……

 「あの、私そろそろ失礼しますね」

 このまま会話を続けるのは、得策ではないと思い、失礼ながらも席を立つことにした。
 
 だが、彼女の細い手が私の腕を掴んで離さない。
 その顔は微笑んでいるのに、掴んだ手は爪を立てて、力が込められている。

 「あの……」

 「ねぇ、あなた、死んでくれないかしら?」

 一瞬、聞き間違えたのかと思う程に、彼女の微笑みは優しく、その声色も柔らかかった。

 

 
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