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三章 精霊姫 側妃になる
束の間の逢瀬
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ロイ義兄様の少し後ろを歩くように、庭園へと向かう。
手が触れてしまいそうな程近くにいるのに、その熱を感じることは出来ない。
「リアがこちらで大事にされているようで、安心したよ。もしかしたら、王太子妃様の侍女達から何かしらされているのではと心配したが、杞憂で良かった」
「私もこんなに大事にして頂けるとは思っていなかったので、驚きましたわ。水晶宮で働く使用人達は、私が快適に過ごせるように、働いてくれています」
「殿下の様子を見てれば、使用人の選別も自分でされたのではないだろうかと思ったよ」
「ふふっ、流石に分かりましたか? そうなんです。ヴァン様が私に何かあったら困るからと、自ら選ばれたのですよ」
王太子が側妃の使用人を選別するなんて、過保護にも程があるわね。
そんな会話をしていると、ロイ義兄様が内ポケットから何かを取り出した。
「先日、リッドラン辺境伯領に行ってきたんだよ。リアに似合いそうだと思って、簪を買ったんだが・・・受け取って貰えるか?」
「まぁ、素敵・・・」
透明度の高い水晶で作られた簪は、陽の光を浴び、きらきらと輝きを放つ。そして、うっすらとピンクに色付いた花が揺れ、シャラリと心地よい音を奏でる。
「本当は、これだけじゃなく、リアに似合いそうだと思って、浴衣を何着かと・・・簪も木彫りのものをいくつか買ったのだが・・・流石に、殿下の前でお渡し出来ないと思って、その簪だけ持ってきたんだよ」
「そうだったのですね・・・。折角、ロイ義兄様が私に似合うと思って買ってくださったものですし、後日、届けて頂くことは出来ますか?」
「しかし、殿下が気にされるのでは?」
「ヴァン様には、私からちゃんと言っておきますので、大丈夫です」
浴衣・・・懐かしいわ。
ロイ義兄様と別荘で過ごした日々を思い出し、触れ合えない今がとてももどかしい。
「分かった。明日にでも届けさせるよ。つい買いすぎてしまってね。どうしたものかと思っていたんだよ」
「そんなに買ったのですか?」
「・・・あの別荘で一人で過ごすには寂しすぎてね。リアとの思い出を巡り街を歩いてると、ついつい買いすぎてしまってね」
ロイ義兄様は、私の別荘に行っていたの?
てっきり、マグニート家の別荘に行ったのとばかり思っていた・・・
確かに、ロイ義兄様には、いつでも使っていいとは言っていたけれど。
昼夜問わず愛し合ったあの別荘で一人で過ごすのは、どれだけ寂しかったことか・・・
ロイ義兄様を抱きしめたい衝動に駆られ、一歩踏み出すも、逆に一歩下がられてしまった。
「リア、だめだよ」
そういうと、視線を窓へと向けた。
その視線の先を見ると・・・ヴァン様が執務室の窓からこちらを眺めていた。
「あ・・・ヴァン様・・・」
自分で側妃になると選んだのに、ロイ義兄様への気持ちが、私を苦しめる。
身動きの取れない今の状況に、なぜか涙が溢れそうになり、喉の奥が締め付けられる。
「リア、大丈夫だよ」
「私・・・ロイ義兄様に酷いことをしていますね」
「リアが悪いわけじゃない。もっと早く出会えていたならば・・・出会った時に、婚約者が居なければ・・・なんて、たらればを言ったところで、どうにかなるわけでもない。ただただ巡り合わせが悪かっただけなんだよ」
「そうですが・・・」
「この話は終わりだ。せっかく、二人で会えたのに、リアのそんな顔は見たくないな。ほら、笑って」
この状況で、笑うのは難しいけれど・・・笑え、笑うのよ。
ロイ義兄様への気持ちを込めて、一番の笑顔を見せる。
「ありがとう、リア。愛しているよ」
ーー私も愛しているわ。ロイ義兄様。
暫く、見つめ合っていると、カツカツとヒールの音が響く。
他にも庭園に誰か居たのねと思って、振り返ると、そこには、侍女を連れた女性が立っていた。
亜麻色の髪に、琥珀色の瞳。彼女は・・・王太子妃殿下だわ。
手が触れてしまいそうな程近くにいるのに、その熱を感じることは出来ない。
「リアがこちらで大事にされているようで、安心したよ。もしかしたら、王太子妃様の侍女達から何かしらされているのではと心配したが、杞憂で良かった」
「私もこんなに大事にして頂けるとは思っていなかったので、驚きましたわ。水晶宮で働く使用人達は、私が快適に過ごせるように、働いてくれています」
「殿下の様子を見てれば、使用人の選別も自分でされたのではないだろうかと思ったよ」
「ふふっ、流石に分かりましたか? そうなんです。ヴァン様が私に何かあったら困るからと、自ら選ばれたのですよ」
王太子が側妃の使用人を選別するなんて、過保護にも程があるわね。
そんな会話をしていると、ロイ義兄様が内ポケットから何かを取り出した。
「先日、リッドラン辺境伯領に行ってきたんだよ。リアに似合いそうだと思って、簪を買ったんだが・・・受け取って貰えるか?」
「まぁ、素敵・・・」
透明度の高い水晶で作られた簪は、陽の光を浴び、きらきらと輝きを放つ。そして、うっすらとピンクに色付いた花が揺れ、シャラリと心地よい音を奏でる。
「本当は、これだけじゃなく、リアに似合いそうだと思って、浴衣を何着かと・・・簪も木彫りのものをいくつか買ったのだが・・・流石に、殿下の前でお渡し出来ないと思って、その簪だけ持ってきたんだよ」
「そうだったのですね・・・。折角、ロイ義兄様が私に似合うと思って買ってくださったものですし、後日、届けて頂くことは出来ますか?」
「しかし、殿下が気にされるのでは?」
「ヴァン様には、私からちゃんと言っておきますので、大丈夫です」
浴衣・・・懐かしいわ。
ロイ義兄様と別荘で過ごした日々を思い出し、触れ合えない今がとてももどかしい。
「分かった。明日にでも届けさせるよ。つい買いすぎてしまってね。どうしたものかと思っていたんだよ」
「そんなに買ったのですか?」
「・・・あの別荘で一人で過ごすには寂しすぎてね。リアとの思い出を巡り街を歩いてると、ついつい買いすぎてしまってね」
ロイ義兄様は、私の別荘に行っていたの?
てっきり、マグニート家の別荘に行ったのとばかり思っていた・・・
確かに、ロイ義兄様には、いつでも使っていいとは言っていたけれど。
昼夜問わず愛し合ったあの別荘で一人で過ごすのは、どれだけ寂しかったことか・・・
ロイ義兄様を抱きしめたい衝動に駆られ、一歩踏み出すも、逆に一歩下がられてしまった。
「リア、だめだよ」
そういうと、視線を窓へと向けた。
その視線の先を見ると・・・ヴァン様が執務室の窓からこちらを眺めていた。
「あ・・・ヴァン様・・・」
自分で側妃になると選んだのに、ロイ義兄様への気持ちが、私を苦しめる。
身動きの取れない今の状況に、なぜか涙が溢れそうになり、喉の奥が締め付けられる。
「リア、大丈夫だよ」
「私・・・ロイ義兄様に酷いことをしていますね」
「リアが悪いわけじゃない。もっと早く出会えていたならば・・・出会った時に、婚約者が居なければ・・・なんて、たらればを言ったところで、どうにかなるわけでもない。ただただ巡り合わせが悪かっただけなんだよ」
「そうですが・・・」
「この話は終わりだ。せっかく、二人で会えたのに、リアのそんな顔は見たくないな。ほら、笑って」
この状況で、笑うのは難しいけれど・・・笑え、笑うのよ。
ロイ義兄様への気持ちを込めて、一番の笑顔を見せる。
「ありがとう、リア。愛しているよ」
ーー私も愛しているわ。ロイ義兄様。
暫く、見つめ合っていると、カツカツとヒールの音が響く。
他にも庭園に誰か居たのねと思って、振り返ると、そこには、侍女を連れた女性が立っていた。
亜麻色の髪に、琥珀色の瞳。彼女は・・・王太子妃殿下だわ。
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