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三章 精霊姫 側妃になる

剣術授業の終わり

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 「母上・・・。私は、母上と一緒に剣術を習うのは難しそうです」

 剣術を習い始めて、1週間ほど経った頃、レオンが肩を落としながら、声を掛けてくる。

 「レオン・・・」

 母が優秀すぎるばかりに、あなたにそんな顔をさせてしまうなんて・・・
 私と比べるから自分が不甲斐ないと思ってしまうのであって、レオンの年頃の子達と比べれば、十分優秀なのよね。
 ここは、先生にフォローして頂きたいわね・・・と、チラリと視線を向ける。
 すると、先生はこくりと頷き、レオンの肩に手を置いた。

 「レオンハルト様、貴方は十分に優秀です。ただ・・・側妃様が規格外だっただけであって・・・。その年齢で、剣を持って7日程で、そんなに筋が良いのは中々ないことですよ。だから、落ち込まず、修練に励みましょう」

 「はい・・・」

 「それで、側妃様ですが・・・もうお教え出来ることがありませんので、今日で剣術の授業は終わりとさせて頂きたいと思います。これからは、レオンハルト様に専念したいと思います」

 「まぁ・・・そうね。それがいいわね」

 レオンの士気を下げちゃいけないものね。
 私は早々に立ち去った方が良さそうね。
 まさか、1週間で剣術をマスターしてしまえるとは思わなかったけれど・・・まぁ、人間じゃないものね。

 「レオン、しっかり先生に教えて貰うのですよ」
 
 「はいっ!」

 「ふふっ、良い返事ね。それじゃ、頑張りなさい」

 さて、午前中の予定が空いてしまったわね。
 下の子たちの様子でも見てこようかしら。

 「他の子達は、今の時間何をしているかしら?」

 「アルフレッド様とリリアーナ様は、マナーの授業中で、ウェンディ様は庭園を散策されていらっしゃると思います」

 5歳になる双子のアルフレッドとリリアーナは、仲良く一緒にマナーの授業なのね。ウェンディは、まだ2歳だから、絵本を読んだり、お散歩したりよね。

 双子の授業の邪魔は出来ないから、ウェンディの様子を見にいきましょう。

 「ウェンディのところに行くわ」

 「あの・・・それが・・・」

 「ん・・・?」

 「殿下が、側妃様の剣術の授業が無くなったと知らせを聞き、お茶の準備をするようにと指示がありまして・・・」

 「えっ!?」

 今、授業が無くなったばかりなのに、何でヴァン様が知ってるの?
 あれ? もしかして、先生が授業前に、ヴァン様のところに寄ってから来たのかしら。
 だから、ヴァン様がこんなに早く知ることが出来たのね・・・

 「それじゃ、庭園に寄ってウェンディを連れて行くわ。三人でお茶をしましょう」

 「畏まりました」

 水晶宮でしか過ごすことが出来ない私の為に、庭園は、とても美しく整えられている。
 国内でも中々見かけることが出来ない貴重な花や隣国の植物なども植えられ、日々、私を楽しませてくれる。
 そんな美しい庭園で、キャッキャと賑やかな声が響く。

 「ふふっ、機嫌が良さそうね。ウェンディ」

 私の声に気付き振り返ると、短い足で一生懸命駆け寄ってくる姿は愛らしい。
 黒髪金眼で、ヴァン様似のウェンディは、成長したら凛々しい美人になりそうだ。

 しゃがみ込み、ウェンディを抱き上げると、軽いけれど、しっかりとした重みを感じ、成長しているなと思う。

 「まぁま」

 「はい、お母様ですよ。お父様に呼ばれているから、このまま一緒に行きましょうね。あなたたちも急でごめんなさいね。ヴァン様に呼ばれているから、このままこの子も連れて行くわね」

 「畏まりました。お供いたします」

 ウェンディ付きの従者達には、急な訪問で、驚かせてしまったわね。
 それでも、嫌な顔ひとつせずに、従ってくれる彼らには感謝ね。
 本当に、水晶宮の使用人達は教育がしっかりされていて、側妃だからと邪険に扱われることはない。
 ヴァン様が、そうさせない環境を作っているのだろうけれど。
 まぁ、ヴァン様が、あれだけ人目を憚らず、私を溺愛していれば、周りの人達も下手な事しようと思わないわよね。

 お茶が準備されている温室へと向かうと、既にヴァン様が席についていた。
 その手には、書類が握られている・・・もう、忙しいのに、私に時間割かなくてもいいのに。

 私とウェンディが来たと声をかけられたヴァン様は、すぐに席を立ち、私たちを出迎えてくれる。

 「おや、ウェンディも一緒とは珍しいものだ」

 「ちょうど、この子の様子を見に行こうと思っていたので、せっかくならと一緒に連れてきましたわ」

 「そうか。お母様に抱っこされて良かったな。それじゃ・・・」

 そういうと、ヴァン様が、ウェンディを抱っこしている私ごと抱き上げた。

 「きゃっ!ヴァン様!危ないですわ」

 「ははっ、落とさないから安心するといい。それに、この子は嬉しそうだぞ?」

 「う・・・」

 もう、子供達の前では、色々と控えて欲しいのに。
 ウェンディはまだ2歳だから・・・まぁ、喜んでいるし、いいということにしましょう。

 ヴァン様は、私とウェンディを下ろすことなく、そのままソファーに腰掛け、可笑しなお茶会が始まった。

 私がウェンディにお菓子を食べさせてあげ、ヴァン様が私の口にお菓子を運ぶ・・・
 ヴァン様が選ぶお菓子が、蜜がたっぷりで、口の端に着いてしまったりする。いや、これはわざとつけてるわよね?
 その度に、ヴァン様が舐めとるので、本当に困る!

 「ヴァン様・・・子供達の前では、そういうことはやめて欲しいと言いましたよね?」

 「これくらい大したことじゃないだろう。口付けしたわけでもあるまいし」

 「ヴァン様っ!」

 「分かった、分かった。これで、我慢するとしよう」

 そういうと、ヴァン様は、指で私の口元を拭いペロリと舐めた。
 うー・・・確かに、これくらいなら・・・良いのかしら?
 

  
 
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