上 下
60 / 106
二章 精霊姫 人間界に降りる

手当てする

しおりを挟む
 ソロ冒険者と見つめ合ってるわけにも行かないので、声を掛ける。

 「セーフティーエリアでも会ったのですが、覚えていますか?怪我をされてるようですが」

 私が声を掛けると、隣にいるロイ義兄様の気配がまた鋭くなり、魔力が揺らぎ始める。
 えー、声掛ける位は許して欲しい。

 「・・・あぁ、覚えている。これくらいの怪我は怪我とも言えない」

 「確かにポーションを使う程ではないかも知れませんが、傷をそのまま放置していると化膿したりして悪化する場合もあり、死に至る場合もあります。それで、お節介かも知れませんが、手当てさせて頂けますか?傷に特化した塗り薬でして、今の傷程度であれば、明日の朝には綺麗になっていると思います。」

 傷薬を掌に乗せて、彼に見えるようにする。
 手に浄化魔法を掛け、蓋を開け指で薬を掬う。それを私の腕に塗って害がない事を証明する。
 これで、毒でも入っていれば塗った部分が赤くなったりする。

 それを見た彼は、私に近寄って・・・こようとしたが、ロイ義兄様が私の前に立ち、威圧する。
 
 「ロイ義兄様、彼は薬を見ようとしただけです。これを彼に渡して貰えますか?」

 私が彼に近寄ることを良しとしないので、ロイ義兄様に薬を渡すようにお願いする。
 ロイ義兄様は、チラリと視線を寄越して手を出し、薬を受け取る。
 静かに彼の方に歩いて行き、無言で薬を差し出すと、彼がそれを受け取り、私と同じ様に手に浄化魔法を掛けて、指で薬を掬い、腕に塗る。それで、害がないと判断したのか、「試させてもらう」と言った。

 彼の言葉を聞き、ロイ義兄様が薬を受け取り、腕を出すように言う。

 「・・・まさかと思うが、こいつが手当てするのか?」

 流石にロイ義兄様が手当てをすると思わなかった様で、私を見て声を掛けてくる。
 
 「えぇ・・・ロイ義兄様は手慣れているので、安心してください」

 「いや・・・手慣れてるとかそういう問題じゃ・・・」

 彼は、未だに魔力が揺らめているのを呆れた様に見えいる。
 物凄いイヤイヤ感が・・・。

 「大丈夫です。心配しないでください。」

 「・・・分かった。じゃ、宜しく頼む」

 「・・・あぁ、腕を出せ」

 ロイ義兄様は、彼の傷口と自分の手に浄化魔法を掛けて薬を塗っていき、包帯を巻く。
 頬の傷は、包帯が巻けないので、薬をたっぷり塗った状態で触らない様にお願いをする。

 「これ・・・痛み止めの効果もあるのか?ピリッとした痛みが無くなった」

 「ちゃんと痛み止めの効果も効いているみたいで良かったです。やっぱり擦り傷とはいえ、ピリッとした痛みはありますし、そう言った小さな痛みでも持続しているとイライラするものですし、気持ちの良い物ではないですからね。傷薬の中に痛み止めの効果も入れておいたのです」

 「へぇ、考えてるんだな。確かに、大したことない怪我だが、痛みがないわけではないからな。助かった」

 「そう言って貰えて良かったです。それで、えっとあなたも次のセーフティーエリアでテント張りますよね?」

 「あぁ、俺はオズだ。その予定だな」

 「それでは、また私達と同じ場所でテントを張る事になりますね。朝起きて傷の具合を見させて頂きたいのですが良いですか?」

 「別にそれぐらいは構わない」

 「良かった。では、明日の朝声を掛けさせて頂きますね。その時にもし今後も薬を使いたいと言う事であれば、お売りする事も出来ますので、言ってくださいね」

 「あぁ、分かった」

 私と彼が話してる間、ロイ義兄様は静かーに私の隣に佇んでいた。
 あまりに会話をしていると魔力がパチパチと弾けてきそうなので、これでささっと会話を切り上げることにする。

 「それでは、また会いましょう」

 「じゃーな」

 そういうと、ロイ義兄様は私の腰に手を当てて、歩く様に促してくる。
 
 「あの薬、痛み止めの効果も入ってるんですね。掴みも上々みたいでしたし、今回は声を掛けて正解だったみたいですね。きっとオズとかいう冒険者、その傷薬買うと思いますよ」

 「私もフォルスの言う様に、彼は買うと思いますわ。痛み止め効果が入っているって言うのは大きいと思いますわ」

 「ふふっ、2人ともありがとう。明日の朝が楽しみね。ロイ義兄様も彼の手当てをしてくれてありがとうございました」

 「リアの為を思えばあれ位お安い御用だよ」

 ・・・あれ位とは思ってない様な態度だったけれど。
 魔力揺らめかせて威嚇していたよね・・・。

 「それに・・・」と呟くと私の耳に口を寄せて小声で囁く。

 「今夜たっぷりお礼をして貰えるからね」

 うん、そう言う約束でしたね・・・。
 今日も朝までコースですね。

 そんなこともあり、順調にダンジョンを進めて行き、25階層下のセーフティーエリアに着いた。

 昨日居た迷惑なパーティーは見掛けないけど、私達は進みが早かったからまだ着いていないだけかも知れない。
 んー・・・でも、ハービーのエリアで撤退してそうな気がする。
 ハービーが思ったよりも群れの数が多かったので、彼らでは対応出来ないのではないかなと思った。

 今セーフティーエリアにいるのは、上級冒険者と思われるソロ冒険者が2人、そして中級冒険者のパーティーが1組といったところか。
 これから人が増えることも考えると、彼らからは離れた場所にテントと結界を張った方が良さそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...