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三章 精霊姫 側妃になる

ロイ義兄様の懇願

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 ロイ義兄様は、無言でツカツカとベッドまで歩いてくると、ガバッと勢い良く私を抱き締めた。

 再度声をかける。

 「ロイ義兄様?」

 顔を私の髪に埋めながら一言。

 「側妃になるって本当かい?」

 (あー・・・もうお義父様から聞いちゃったか。)

 「・・・はい」

 ロイ義兄様は、顔を上げ悲しげに瞳を揺らして私を見つめる。

 「あの、既に私が側妃になる事が、議会で決まっていた様で、決定事項として通達が来ました」

 「・・・分かっている。拒否権が無い事位・・・はぁ」

 本当は、そんな事どうとでも出来る。
 人間が精霊姫に何かを強要する事など出来ないのだから。
 だけど、思ってしまったのだ。
 この世界に私が生きた証を残したいと。それが、王族として残せるのであれば、良いのでは無いかと。
 子供を産むだけならば、相手はロイ義兄様でも良いが・・・いかんせん、ロイ義兄様は結婚していて、子供もいる。私は不義の子を産む事は出来ない。
 皆に望まれ、祝福される子を産みたい。だから、王家からの通達は、丁度良いとも言えた。

 ただ、ロイ義兄様と離れるのも寂しい。
 今まで沢山の愛を囁き、愛し合ってきた。簡単に切り捨てられる程、浅い仲でも無い。
 ロイ義兄様の悲しげな顔も見たくない・・・。

 「リア、お願いがあるんだ」

 「お願い?」

 「リアは、これから側妃になるから愛し合えないのも理解している。だが・・・リアに会えなくなるなんて考えられないんだ」

 「ロイ義兄様・・・」

 「頻度は少なくても良いんだ。時々は会って、抱き締めるそれだけでもいいんだ。お願いだ。私の細やかな願いを叶えておくれ」

 (ロイ義兄様・・・私も会えなくなるのは寂しい。たまに会って、お茶をするだけでも良いから会いたいとは思う)

 「えっと、では、会えそうな時は、此方からご連絡しますので、鳥籠でお会いしましょう?」
 
 通信用魔道具のピアスを触り答える。
 この魔道具は、私の専属侍女サラも着けている。
 離れていても声を出さずに念話が出来る、私のお手製魔道具。

 「ありがとう。リア、本当にありがとう。愛しているよ」

 いつもの様に髪を一房掬い、口付けを落とす。いつもの儀式。

 それから、私が王宮に行く日まで、毎夜ロイ義兄様は私を抱き潰した。
 日中も時間があれば、私とお茶をし、隙を見ては口付けを落として・・・。

 ◇◇◇

 王太子殿下からは、日々ドレスやらアクセサリーやらが届いていたが、そんなに要らないし、出来れば王都のお店ではなく、我が領のお店に仕立てて欲しい。

 部屋の内装については、希望を伝えて任せる事にした。
 結界も張って良いと許可を貰った。コレについては、王太子殿下が是非にと言う事だった。
 理由は、自分以外の男が私に会えない状況を作るのは、喜ばしいという事だった・・・。

 え?男を入れない為の結界じゃないんだけどな。
 まぁ、いいや。
 結界に入れるのは、私の使用人達と王太子殿下だけに限定した。
 王太子妃殿下が訪ねて来られても困るしね。
 というか、基本的に、王太子妃殿下と側妃は会わない。公の場に出るのは、正妃である王太子妃殿下だけなので、側妃と会う機会はない。わざわざ会いに行かなければ。

 王太子妃殿下は、幼少の頃に婚約者に決まって、度々親睦を深めるお茶会をして、関係は良好と聞いている。何でも皇太子妃の初恋の相手が王太子殿下だと言う事だ。
 
 王太子殿下としては、魔力量も多く、高位貴族であった為、政略結婚相手として妥当と考えているだけだった。日々勉学に励んできたので、同士という思いはある。
 
 そこで、王太子殿下と王太子妃殿下の温度差がはっきりと分かる。
 今は、結婚して3年半程というところか。
 何故子供が居ないのだろうか。もしかしたら、王太子殿下の方に問題があるかもしれない。

 ちょっとお義父様に聞いてみよう。
 お義父様の執務室をノックする。

 「スティーリアです。今宜しいでしょうか?」

 「入れ」

 「お義様、お仕事中申し訳ありません」

 「いや、いい。丁度休憩しようと思っていたところだ。座りなさい」

 「ありがとうございます」
 
 「わざわざここにきたと言う事は何か話があるんだろう?」

 「はい・・・。あの、聞きにくいのですが、王太子妃殿下にお子が授からないのは何か理由があるのでしょうか?えっと、例えば、王太子殿下が不能とか、男色とか・・・」

 「っ!なっ、なんて事を考えているっ」

 「申し訳ございません。3年半も子が授からないので、何が原因なのかなと、色々考えてしまいまして・・・」

 「はぁー、そうだな。まず、殿下は男色ではない。勿論不能でも無いが・・・。あー、女性には言いにくい事ではあるのだが」
 
 「気にしないで下さい。簡潔にスパッと話して頂きたいです」

 「分かった。実は、側妃の通達が来た時に、その説明も書いてあった。妃殿下は、美しく教養もあり、令嬢達の見本とも言える方だ。ただ、殿下にとっては、学友の様なものらしくてな。月に一度、子が出来やすい日に、寝室に訪ねる程度だったらしい。まぁ、言うなれば、ねやの回数が少な過ぎて、子が授からなかったと」

 「なるほど?王太子殿下は、淡白な方なのですね?えーっと、私が側妃として王宮に出向いたとして、その回数では、私も子が授からないのでは?」

 「いや、大丈夫だろう。なんと言っても、殿下がスティーリアを見染めたのだ。毎日の様にスティーリアの宮に足を運ぶのでは無いかと、殿下の側近たちも期待している」

 「・・・そ、そうですか。聞きたかったのは、それだけなので、コレで失礼します。お時間ありがとうございました」

 (えー、本当に?望まれて嫁ぐのに冷遇されないよね?王太子殿下はお勤め果たしてくれるよね?)
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