上 下
44 / 46
四章 結実

---奏視点11---

しおりを挟む
 合否結果発表の日、すぐに確認をすると『合格』の文字がすぐ飛び込んでくる。
 受かるだろうと予想をしていたが、この文字を見た途端に安堵する。
 なんだかんだ、少し心配だったのは否めないよな。

 きっと今頃茉莉絵も確認が済んでいるはずと思い、すぐにメッセージを送った。
 大丈夫。きっと受かってるはずだ。俺は、そう信じてる。

 すると、すぐに受かったと返事が来て、ホッとした。
 これで、一緒の高校に通えるな。お互いに努力が報われたことに力が抜け、ソファーに寝そべる。

 「受験が終わったからってだらけすぎじゃない?」

 「この一年頑張ったんだからいいだろ」

 「まぁ、それもそうね。お疲れ様でした。合格おめでとう」

 「母さんも色々サポートしてくれて、ありがとな」
 
 「母親ですからね。当然よ」

 夏期講習と冬季講習に通わせてくれた親には感謝だ。受講料結構高かったからな……
 これからは少しずつ親孝行もしていかないとな。

 ◆ ◆ ◆

 「え? 付き合って記念すべき初デートなのに、獅子丸も連れて行くの?」

 「茉莉絵が、獅子丸とクッキーを連れてドッグカフェに行きたいって言ってたからさ」

 「そう、茉莉絵ちゃんがそれでいいならいいけど。二人じゃなくていいのかなって思ったから」

 「俺もちょっと思ったけど、なんとなくそうした理由も想像ができるんだよな」

 多分だけど、獅子丸とクッキーが縁で仲良くなれたからとか思ってそうな気がするんだよな。
 俺たち考え方が似てるから、なんとなく想像つくんだよな。

 「なーに?」

 「んー……やめとく」

 「もったいぶっちゃって。でも、そういうことなら獅子丸もオシャレしましょうねー」

 「え?」

 そういうと、獅子丸を抱っこして家を出て行ってしまった。
 まさか、獅子丸に服でも着せるつもりなんじゃ……

 ゴテゴテした格好にならないといいけどなと思っていると、獅子丸が新しい首輪をつけて帰ってきた。
 ボルドーの首輪が黒い毛と良く合っていて、一気にオシャレな子犬になった。

 「少し心配だったけど、良いな。獅子丸、似合ってるぞー」

 わちゃわちゃと体を撫でてやると、やめろよーと言わんばかりに体を捩らせていた。
 俺はシンプルな服が多いから、黒いコートの袖口のところがチェック柄になっているものを買って貰っていた。
 母さんが言うには、「良いアクセントになってオシャレに見えるわよ」とのことだった。

 オシャレには疎いけど、茉莉絵の隣に立っても恥ずかしくないようにしないとな。

 デート当日は、だいぶ冷え込んでいたが、昼頃になると日も高くなってきて、寒さが少し和らいでくる。

 今日はいつもの公園とは反対方向の店にいくため、茉莉絵の家まで迎えに行く。
 玄関先にある花壇に悪さをしたら大変だとすぐに獅子丸を抱き上げて、インターフォンを鳴らす。

 すると、茉莉絵のすぐ後ろにお母さんと思われる人が立っていた。
 いつもお世話になっていますと挨拶をしただけで彼女に連れ出されたため、本当に一瞬のことだったが、言葉を交わすことになるとは思っていなかったから驚いた。
 
 流石に、彼女の親と会うのは緊張するな。
  
 茉莉絵はデートだからか、寒いのにスカートを履いていて心配になったけど、似合ってるし可愛い。
 女の子は大変だなと思いつつ炬燵席で良かったと思った。これなら茉莉絵も脚が寒くなさそうだよな。

 フレンチトーストが配膳されると、店員さんが写真を撮りましょうかと声を掛けてくれた。
 撮りたそうにこちらを見た彼女に同意するように、店員さんにスマホを渡し写真を撮って貰った。

 返してもらったスマホの画面を見れば、獅子丸とクッキーが仲良くもこもこのハウスで寄り添っていて、満面の笑みを浮かべた茉莉絵が写っていた。
 控えめにいって最高の写真だな。待ち受けにするか。いや、流石にそれは……まぁ……するか。
 別に彼女と愛犬たちを待ち受けにするくらい……まぁ……だいぶ恥ずかしいからロック画面にはやめてホーム画面にしておこう。
 初デートの記念になったなと、店員さんにお礼を言う。

 店を後にして、隣の公園に行くと多くの犬たちが元気に走り回って遊んでいて、ドッグランに来たのかと思ったほどだった。
 いつも遊んでる公園の何倍もの広さがあり、遊具もない広々とした空間なだけあって、サッカーボールを蹴ったり、キャッチボールしたりしている親子もいた。

 ふと、今日は、獅子丸たちを連れていたため、手を繋いでなかったなと思った。
 今なら両手が空いてるし……一応デートだし、いいよな?
 そう思い、そっと手を握ると驚いたようにこちらを振り返る。
 
 すると、「うん……奏くん。大好きだよ」と彼女が言った。
 不意打ちのように言われ、思わず照れて吃ってしまった。

 素直に言葉にしてくれたのに、俺も返さないのは男らしくないよな。
 と思いつつも照れてしまい、「いや、まぁ……俺も好きだけど」となんとも格好つかない言い方になってしまった。

 だけど、茉莉絵はそれでも嬉しそうに微笑んだので、俺たちはこれでいいのかもしれないと思った。

 大変だった受験勉強も茉莉絵がいたから頑張れた。
 ありがとうな。大人になっても一緒にいられるように、俺頑張るから、これからもよろしくな。

 end.
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

きんのさじ 上巻

かつたけい
青春
時は西暦2023年。 佐治ケ江優(さじがえゆう)は、ベルメッカ札幌に所属し、現役日本代表の女子フットサル選手である。 FWリーグで優勝を果たした彼女は、マイクを突き付けられ頭を真っ白にしながらも過去を回想する。 内気で、陰湿ないじめを受け続け、人間を信じられなかった彼女が、 木村梨乃、 山野裕子、 遠山美奈子、 素晴らしい仲間たちと出会い、心のつぼみを開かせ、強くなっていく。 これは、そんな物語である。

歌にかける思い~Nコン最後の夏~

ユキウサギ
青春
学校の中でも特に人気のない部活、合唱部。 副部長の時田 優良(ときた ゆら)は合唱部がバカにされるのが嫌だった。 気がつけばもう3年生。 毎年出てたNコンに参加するのも、もう今年で最後。 全部員11名、皆仲がいい以外に取得はない。 そんな合唱部の3年生を中心に描いた、Nコンにかける最後の夏の物語。

処理中です...