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四章 結実

---奏視点⑩---

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 「奏、これ被っていきなさい」

 「帽子?」

 「もう少しで受験なんだから、出来るだけ暖かい格好して行きなさいよ」

 「おー、ありがと」

 黒いニット帽を深く被り耳を隠すとだいぶ暖かい。
 過保護だなと思うこともあるけど、感謝しないとな。

 この寒さの中、待たせたらかわいそうだと少し早めに出たが、すぐに茉莉絵が到着した。
 あっぶね。もう少し遅かったら待たせるところだったな。

 何度もあってるけど、今日の服は初めてみる服だなと思う。
 茉莉絵って結構お洒落だよな。センスがいいし、俺も少し雑誌とか見て勉強した方がいいのか?
 いや、俺がファッション誌とか読んでたらキモいだろ。
 茉莉絵の隣に並んで恥ずかしくない程度には気を使うか。

 お参りを済ませ、お守りを見てると、隣に文房具も売られていた。
 流石、学業の神様を祀ってるだけのことはあるか。ここで買った鉛筆で受験受けてげんを担ぐか。
 
 横を見ると、茉莉絵もまじまじと鉛筆を見ていたから、買いたいのと思い、お互いに贈り合わないかと提案した。
 茉莉絵からもらった鉛筆だと思えば、試験中も頑張れそうな気がしたから。
 マジで、俺ってこんなに恋愛脳だったのか……
 まぁ、これで受験が頑張れるんだから別にありか。

 家に帰り、鉛筆立てに見慣れない水色の鉛筆を並べる。
 ブラックやネイビーの鉛筆しかない鉛筆立ての中に水色がアクセントとなって、良いなと思った。
 勉強しながらも、ふと鉛筆立てに目が行けば、自然と茉莉絵を思い浮かべる。
 今頃、茉莉絵も勉強頑張ってるんだろうな。俺も負けずに頑張ろうと気合を入れ直し問題集と向き合う。

 恋愛って、邪魔になるものだとばかり思っていたけど、茉莉絵と良い感じに励まし合えて、こういう関係良いなと思うようになった。
 きっと、相手が茉莉絵だからなんだろうな。

 ◆ ◆ ◆

 試験当日になり、起きて早々、茉莉絵にメッセージを送る。
 すると、十分後くらいに返事が届いた。
 それを見て、よし、がんばるぞと気合を入れる。俺も茉莉絵もこの一年、今日のために頑張ってきた。
 いかに集中できるかが大事だ。

 過去問を何冊もやり込んだ甲斐があり、手応えは十分だった。
 体感全きょうか九十点以上は取れてるんじゃないか。
 結果は出てから出ないと確実なことは言えないが、自分の中では受かっていると思った。
 これで落ちたら笑えないが……まぁ、済んだことを考えてもしょうがない。

 迎えにきてもらった車の中でスマホがなり、『お疲れ様。あとはゆっくり休んで結果を待とうね』と茉莉絵からメッセージが届く。

 終わってすぐに連絡くれたことに、思わず顔がにやけそうになり、隣にいる母さんを思い出しきゅっと顔に力を入れ誤魔化す。
 せっかく試験も終わったことだし、軽い気持ちで茉莉絵の顔を見ながら話がしたいと思い、夜ビデオ通話をすることにした。

 相変わらず、部屋着姿のゆるっとした雰囲気が、公園であってる時とは違って良い……
 もちろん、公園であってるときもオシャレをしていて可愛いと思う。それはもう当然のことだが。
 それでも、いつもと違う雰囲気っていうのがまた別格というか。ゆるふわ感がいいよな。自然な感じがして。

 チョコレートは食べられるか聞かれて、まぁ、別に食べられるけど急にどうしたと思って、ピンと来た。
 あれか、来月バレンタインだからか。
 クリスマスを忘れてから、恋人らしい行事には気を使うようにしている。
 なんとなく、次はバレンタインかと思っていたから、茉莉絵の質問にもすぐ気付くことができたわけだが、まるで催促するような言い方になってしまい、格好悪いなと思った。
 
 そこは、何も聞かずにバレンタインデーまで待ってれば良かったよな……
 俺、だぜぇ。

 まぁ、くれるっていうんだから、楽しみに待つくらいいいだろ。
 バレンタインなんて今まで断るのだるいって思ってたのに、好きな子ができた途端、気持ちの持ちようが変わるから不思議だよな。

 茉莉絵が視線を彷徨いだしたので、何か言いたいことでもあるのかと聞いてみると、小さな声で「好き……」と聞こえた。
 聞き間違いかと思い、聞き直してみるもやっぱり……

 思わず、手で目を覆いまじかと呟いてしまった。
 それを茉莉絵が勘違いして、聞かなかったことにしてほしいと言ったのには、俺が悪かったと思った。
 勘違いさせるような態度を取るべきじゃなかった。
 一瞬でも嫌な思いをさせるなんて……俺、馬鹿だ。

 俺が先に告白したかったなんて茉莉絵が知る由もないのに。
 そんなくだらないことで、茉莉絵を傷付けたなんて、はぁ。

 ちゃんと言葉にして好きだと伝え、付き合ってほしいと伝えると、涙をポロポロと流しながら受け入れてくれた。
 なんで彼女は泣く姿も美しいんだろうと思いながらも、その涙を拭ってやれないことに悔しさが込み上げる。
 スマホ越しじゃなくて、直接言いたかったなと思ったが、まぁ、色々タイミングもあるしな。

 受験勉強からも解放され、可愛い彼女も出来て、今の俺は絶頂期かもな。
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