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四章 結実

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 「夏休みも今日で終わりかー。なんか長かったようで短かったな」

 「わかる! 夏休み入った時は、こんなに休みがあるーって思ったのに、あれ? もう明日から学校? って思っちゃうから不思議だよね」

 「学校始まったら、また週末ここで獅子丸たち遊ばせるか?」

 「うん、そうしたいな。週末二時間くらい癒しの時間があってもいいと思うしね」

 「そうだな」

 この時間がなくなったら、勉強のモチベーションも落ちそうだし。
 勉強で疲れた心を癒してくれる大事な時間だ。
 
 美香には「少し頑張りすぎじゃない? 受験までまだあるのに」と言われたけど、頑張りすぎということはないと思う。
 確かに受験までまだ日数はあるけど、だからといって勉強しない理由にはならない。
 この限られた日数で万全にしておきたいから。
 とは言っても、受かる自信があるかと言われると……受かりそうな気がするけど……どうだろうって言ったところかな。
 過去問などを解いた感じだとそこそこ点は取れている。
 それでも、本番でうまくいくとは限らないから難しいよね。

 「あのさ……これ、要るか?」

 ちょっと言いにくそうにしながら、鞄から取り出したのは小さな羊のぬいぐるみだった。

 「これは……?」

 「あー……、塾の帰り道にゲーセンがあって、UFOキャッチャーがあったからやってみたら取れたから……その、祭りの時羊の置物欲しがってただろ? だから羊好きなのかなって」

 「私のために?」

 「いや、まぁ、羊のぬいぐるみが見えたから、茉莉絵を思い出して思わず取っちゃっただけなんだけど」

 「ありがとう……大事にするね」

 嬉しい。私と会っていない時も思い出してくれたってことだよね。
 特別羊が好きって訳じゃないけど、今この瞬間羊が大好きになった。
 家にいる羊ちゃんの隣に飾ってあげようっと。大事なものがまた一つ増えた。

 「そろそろ、水分補給タイムにするか」

 「そうだね。あ、今日、獅子丸くんにも氷持ってきたんだけど、獅子丸くんって氷食べる子かな?」

 「氷? あげたことないけど、クッキーは食べるのか?」

 「うちの子は好きでガリガリ食べるから、暑さ対策に丁度いいんだよね。獅子丸くんのはクッキーのより少し小さめのを持ってきたから喉には詰まらないかなって思うんだけど」

 「試しにあげてみるか。食べるか分からないしな」

 「うん」

 それぞれ水飲み用の器に水を注ぎ込むと氷を入れていく。水も冷え乾いた喉を美味しく潤せるだろう。
 思ったより氷が溶けるのが早くすぐ小さくなってしまったけれど、獅子丸くんも小さなお口でしゃりしゃり音をさせながら氷を食べていた。

 「お、お前も氷好きなのか? じゃ、次から獅子丸の分は俺が持ってきてやろうな」

 「獅子丸くんは小さいから食べ過ぎに注意だけどね。気にいってもらえたなら持ってきて良かったな」

 「荷物多いのに獅子丸の分まで悪かったな」

 「これくらい別に大丈夫だよ」

 そう、夏の散歩は、暑さ対策グッズなどを持ち歩いているため、荷物が多くなる。
 だから、家に帰ると鞄の重さで肩が痛かったりすることもあるんだよね。

 本当に楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
 名残惜しいけど、クッキーたちも涼ませてあげないといけないから、早く帰らないとだね。

 「それじゃ、奏くん。またね」

 「なあ、毎週水曜日ビデオ通話しながら勉強しないか?」

 「え?」

 「いや、週末しか会えないから、なか日に顔が見れたらなって思ったんだけど、邪魔になるか?」

 「ううん! 全然大丈夫! 私も週末まで会えないの寂しかったから嬉しい!」

 「そっか……じゃ、またな」

 「うん、またね」

 早く奏くんに会いたいなって思いながら一週間頑張ってたけど、これから毎週水曜日に顔が見れるなんて……
 奏くんは私を喜ばせすぎじゃないかな。幸せすぎて怖いくらい……

 数学が得意みたいだから、水曜日は数学の勉強しようかな。分からないところ教えて貰えるかもしれないって思うのは彼の勉強の邪魔になっちゃうかな?
 でも、前に、教えるのも勉強になるって言ってたからいいのかな……うーん。その時考えよう。

 今日は待ちに待った水曜日!
 夕食も済ませて、お風呂も入って、準備万端!

 二十一時から三時間、一緒に勉強することにしたため、二十時を過ぎたあたりから、そわそわしてしまう。
 あと一時間だ。参考書と問題集も用意したし、鉛筆もちゃんと削っておいた。飲み物もタンブラーに入れたし、いつでもテレビ通話できる準備は整っている。

 二十一時になった途端に着信音がなる。
 時間きっかりって奏くんって几帳面なのかな。

 「こんばんは」

 「おう……なんか照れくさいな」

 「夏期講習最終日に既に通話してるのに?」

 「あの時は疲れてて、顔が見たいだけだったから……こうやって改めて顔見ながら話すってなんかな」

 「ふふっ、私は奏くんの顔見れて嬉しいよ。そのうち慣れてこれが当たり前になるよ」

 「そうだな」

 それから、同じ問題集を開きながら勉強を進めていく。
 いつもであれば、スマホで音楽を流したり、わざと雑音を流したりしているけど、今日はそれも必要ない。
 スマホから奏くんが問題を解いていく音が聞こえてくるから。
 普段であれば、雑音だと思うこの音も、奏くんと一緒に勉強しているんだと思うと、この音すらも愛おしい。

 勉強を進めていると、どうしても分からない問題に当たってしまう。

 「うーん……」

 「どうした?」

 「あっ、ごめん。うるさかった?」

 何度計算し直しても、答えが合わずどうしたものかと、唸ってしまった。
 勉強の邪魔になってないかな?

 「いや、別にうるさくないけど、分からないところでもあったか?」

 「うん……120ページのここのところなんだけど……」

 問題集をスマホに向けながら説明をすると、あぁ、そこかと言いながら、奏くんはノートにスラスラと書き込んでいく。
 そして、私と同じようにスマホにノートを向けながら説明を始めた。

 「いいか、この公式を使うんだ。で、これをここに代入して……って聞いてるか?」

 「あっ、ごめん! 奏くん字綺麗なんだね」

 「え? あ、そうか?」

 「うん、ノートの字見て綺麗でびっくりしちゃった」

 「小さい頃習字やらされてたからかな。今はやってないけど」
 
 「そうなんだ」

 「じゃ、説明続けるからちゃんと聞けよ?」

 「はい、先生! お願いします。」

 それから、丁寧に説明してくれたおかげで、問題集を進めることができた。
 奏くんもお兄ちゃんみたいに人に教えるの上手だな。
 理解度が私と違うのかな。

 それから、毎週水曜日は、ビデオ通話しながら勉強するのが日常になったが、基本的に私が奏くんに勉強を教えてもらう形になっている。
 時々、英語の問題で分からないところを私が教えてあげる程度で、私が助けてもらっていることが多いため、いいのかなと思ってしまう。 

 

 


 
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