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三章 逢瀬

---奏視点⑥---

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 茉莉絵をあまり歩かせたくないから、待ってて貰ってかき氷でも買ってこようかとも思ったが、流石にこんなところに彼女を一人おいて行くわけにもいかないので、一緒に行くことにした。

 痛みに顔が歪まないか確認しながら、彼女のペースに合わせてゆっくり歩いていく。
 幸いなことに、かき氷屋のすぐ裏が飲食スペースになっていたので、ここなら人も多いし、列からも彼女のことを確認することが出来るので、先に座ってて貰った。
 少しは足を休ませられるといいんだけどな。
 
 ちょうど会計をしていると、二人組の男たちが茉莉絵に話しかけていた。
 まじかよ……本当に少し離れただけで、声かけられちゃうんだな。
 まぁ、可愛いよな。俺も今日何度も思ってるからなー。

 茉莉絵は年の割に背も高いし、大人びた顔立ちだから、中学生には見られにくい。
 多分、彼らも茉莉絵のことを高校生だと思って声かけてるんだろうな。
 流石に中学生はナンパしないだろうし……

 すぐに彼女の元に駆け寄り、俺がきたから安心して大丈夫だよと伝わるように、彼女の肩に手を置いた。
 すると、相当怖かったのか、目を潤ませ、俺の手に手を重ねてきたので、思わず俺の方に引き寄せた。
 一人にしてごめん。怖い思いさせたよな。
 茉莉絵がそんな思いをしているのに、俺に縋るように見つめてくる茉莉絵が可愛いと思っちゃう俺を許して欲しい……
 あー、俺ってこんなダメな男だったのかー。

 早く安心させたくて、「お兄さんたち、悪いんだけど、俺たちデート中なんで」と、はっきり伝えると、意外にもあっさりと引き下がってくれた。
 もっと絡んでくるかと思ったけど、見た目のいかつさとは違い、悪い人ではなかったようで安心した。

 茉莉絵にとって今日のデートが嫌な思い出にならないといいなと思いながら、かき氷を平らげた。

 最後に金魚掬いをしに行ったが、ここでも茉莉絵は一匹も取ることが出来ずに、俺に交代した。
 ここで良いところ見せて、楽しく今日のデートを締めよう。

 そう思ったのに、思いの外金魚が元気で一回目は失敗してしまった。
 でも、二回目で無事に取ることができて、茉莉絵にプレゼントことが出来た。
 すると、彼女は、羊と金魚を貰ったから何かお礼がしたいと言った。
 こんなの大したことないんだけどなとは思ったけど、貰いっぱなしだと気を使うというのであれば、その気持ちを軽くしてあげるためにも、何か考えようと思った。

 ……お礼か。何か良いのあるかな。

 それなら……今度ビデオ通話しながら勉強するのはどうだろうかと思いついた。
 お互いに励まし合いながら、教え合いながら勉強するのもたまには良いんじゃないかなと。

 茉莉絵はそんなのお礼にならないと言ったが、俺にとっては十分だと思った。
 一人で黙々と勉強するのも大事だけど、ずっとそれだとモチベーションも続かない。
 たまには、こうやってご褒美があっても良いと思うんだよな。
 
 夜道を一人で帰すのは危ないので、送っていくことにしたが、もう別れる時間なんだなと寂しさが湧き上がる。
 つい「なんか……寂しいな」と言葉が出てしまった。
 少し女々しかったかなと思ったが、茉莉絵も同じ気持ちだと言ってくれたので、言葉にして良かったと思った。

 出口に向かっていると、イケメン三人組が現れた。
 次は誰だと思っていると、茉莉絵の兄とその友達だという。
 茉莉絵の兄は、彼女によく似た柔らかく少し茶色い髪をしていた。そして、彼女同様に少し堀が深く、日本人っぽくない顔立ちだなと思った。

 背高いな……両親の身長が高い遺伝子をしっかりと引き継いでいるみたいだが、茉莉絵は流石にこんなに伸びないよな?
 
 イケメンの周りにはイケメンしかいないのだろうか。
 友達二人もタイプは違えど、モテるだろうなと思わせる整った顔をしていた。
 この三人が歩いていたら、だいぶ目立つ……

 通り過ぎる女の子たちも「ねぇねぇ、見て、あの人たちカッコ良いー」と言いながら去っていく。
 モテるだろうに、なんで男三人で祭りに来てるんだろう。

 とりあえず、俺と茉莉絵は先に帰ると告げ、去ろうとしたら、お兄さんから待ったが掛かった。
 少し歩いてるところ見ただけで、彼女が怪我をしているとすぐに気付いたみたいで、流石に兄なだけあるなと思った。
 彼女のこと大事にしてるんだなと温かい気持ちになっていたら、お兄さんが茉莉絵を連れて帰ると言い出して固まってしまった。

 もう少し一緒に居たかったけど、彼女の事を思えば、お兄さんに任せるのが一番だと思い、ここで別れることにした。
 俺では彼女をおぶって連れて帰ることはまだ出来ない。
 お兄さんみたいに大きな体であれば、彼女を家までおぶっていけるのになと思いながらも、まだ中学生だから仕方がないと諦める。
 高校生になれば、俺ももっと成長していくはず。その時、同じようなことがあれば、譲らずに俺が彼女を最後まで送り届けたいと思った。
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