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三章 逢瀬

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 「どうするか。このままかき氷買ってきてやりたいけど……一人で置いてくわけにもいかないしな」

 「ゆっくり歩けば大丈夫だから戻ろう?」

 「大丈夫か?」

 「うん」

 「じゃ、ゆっくりな。痛くなったら我慢せず言えよ?」

 「分かった」

 ゆっくり歩きながら、私の様子を伺っているのがわかる。
 奏くんは本当に優しいな。どうしたらこんな素敵な男子に育つんだろう。

 「お、かき氷の屋台の裏に飲食スペースがちょうどあるな。すぐ近くだから、席を取っておいてもらおうかな。何味がいい?」

 「ハワイアンブルーがいいな。それじゃ、私は席取っておくね」

 席を取っておいてなんて言いながらも、私の足を気にして座らせておこうという気遣いが伺える。
 良いお兄ちゃんなんだろうな。
 妹ちゃんとはどんな風に過ごしてるんだろう。見てみたいな。
 
 「あれ、一人なの? 君、かわいいねー。俺たち二人で回ってるんだけど、一緒にどう?」

 「マジでかわいいな。いくつ? 高校一年生くらいか?」

 奏くんを待っていると、お兄ちゃんと同じ歳くらいの男子二人組に話しかけられた。
 明るい髪にピアスがいくつも……怖い……

 「そんな怯えなくても大丈夫だよ。俺たち怖くないから」

 「そそっ、こんなかわいい子が一人でお祭り回ってるなんて、可哀想すぎるっしょ。だから、ね?」

 「……いえ、あの……一人じゃ……」

 どうしよう。怖くて声が……
 まさか絡まれるなんて思ってなかった。

 「え? 何? 聞こえないんだけど」

 「何食べたい? 奢ってあげるよ」

 断らないと……人を待ってるって言わないと……
 どうしよう……

 怖くて声が出せないでいると、肩に手を置かれ、びっくりして見上げると奏くんが立っていた。

 「お待たせ。大丈夫?」

 「奏くん……」

 来てくれた……
 奏くんの姿を見ただけで、さっきまで怖かった気持ちが安心に変わっていく。
 肩に乗せられた手に手を重ねると、グッと引き寄せてくれた。

 「お兄さんたち、悪いんだけど、俺たちデート中なんで」

 奏くんはここでもはっきりと言ってくれた。
 怖くないのかな……

 「あー、そういうこと。流石に一人なわけないか」

 「まじかよー。めっちゃかわいい子いるって思ったのによー」

 「まっ、行くか。彼女も怖がらせてごめんな」

 「残念だけど、彼氏いるならしょうがないか。まじで彼女一人にしないほうがいいぞ」

 「ご忠告どうも」

 何か言われるかと思ったけれど、意外に? 良い人だったっぽくて、すぐに去ってくれた。
 必要以上に怖がっちゃったかな。
 だって、見た目がいかつかったし、知らない男子に話かけられたら怖くて……

 「やっぱり一人にしない方が良かったな」

 「あ、心配かけてごめんね」

 「いや、すぐ近くだし、目に入る場所だから大丈夫かなって思ったけど、流石に一人にしたのは不味かったな。次からは少し我慢してもらうことになるかもしれないけど、一緒に並ぼうな?」

 「うん、私もその方がいいな」

 一人で怖かったから、もう奏くんから離れたくないと思った。
 それからかき氷を食べ、ゆっくりとお祭りを周り、最後に金魚掬いをすることにした。

 これでもう終わりか……
 楽しかっただけに、この時間が終わってしまうと思うと、なんか寂しいな。
 
 「なんか……寂しいな」

 「え……?」

 一瞬私が言ったのかと思うほど、奏くんと同じことを考えていた。
 奏くんも寂しいって感じてくれてたんだね。

 「いや、今日楽しかったなーって思って。もう終わるって思うと寂しいなって思って」

 頭を掻きながら照れたように言う奏くんは可愛い。
 こんなに素直に言葉にしてくれるのは本当に嬉しい。

 「私もね。今同じこと思ってたんだよ。だから、びっくりしちゃった」

 「本当に俺たちよく被るよな。考え方とか似てるのかもな」

 「そうだね」

 「ほら、金魚、どれがいい? 茉莉絵はもう三回失敗してるからな。代わりに俺が取ってやるよ」

 「うー……私って本当に下手すぎる。これ、この元気に泳いでる子がいいな」

 「こいつかー、動き過ぎてるから難しそうだけど、頑張ってみるか」

 そういうと、狙いを定めて挑戦してくれたが、一回目は逃げられて破れてしまった。
 二回目はどうだろうっと見守っていると、意外にもあっさりと取ってくれたので、奏くんは本当に器用なんだなと思った。
 射的も金魚掬いも上手いって凄いな。今日は奏くんに甘えて貰ってばかりだな。

 「奏くん、今日は本当にありがとう。羊ちゃんも金魚も取ってもらっちゃったね。何かお礼がしたいんだけど……何がいいかなって思って」

 「別に好きでやってるから礼なんて要らないけど……じゃあ、今度ビデオ通話しながら勉強しないか?」

 「え? それはお礼にならないんじゃ?」

 だって、それだと私が凄い嬉しい思いをするだけじゃ?
 お礼になっていないような気がするんだけど。

 「なんでもいいんだろ? 俺がそれでいいって言ってるからいいだろ?」

 「奏くんがそれでいいなら……」

 「じゃ、それで。同じ過去問とか使ってるし、わからないところ教え合ったりとかしてもいいかもな」

 「教え合うっていうか、私が教えてもらうだけになりそうだけど……」

 「人に教えるのも復習になって勉強になるからいいんだよ」

 「奏くん良い人過ぎる! お礼なのに、私の方が楽しみだよ」

 「俺も楽しみだからいいんだよ。じゃ、暗いし家まで送って行くな」

 「え? いいの?」

 「流石に夜道を女の子一人で帰らせるわけにはいかないでしょ」

 「ありがと」

 本当に、何から何まで私を喜ばせる天才だな。
 今日一日楽しくて、終わりが寂しいと思ったけど、ビデオ通話しながら勉強ができると思えば、気分が上がっていく。
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