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三章 逢瀬

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 「あのさ、さっきから勝手なこと言わないでくれない? 俺、あんたたちと回る気ないから」

 困っていると、奏くんがキッパリと彼女たちに断ってくれた。
 もしかしたら、このまま五人でお祭り回ることになるのかなって思ってたから、良かった。

 「えー、そんな冷たいこと言わなくても……あ、それじゃ、記念に一緒に写真撮っちゃだめ? 佐伯くんの浴衣姿レアすぎてやばい」

 「それいいじゃん! まぁ、一緒に回るのは諦めるから、写真くらいいいよね?」

 「私も……一緒に写真撮りたいな。佐伯くん、だめかな?」

 もー、次から次へと……私はこれにだめと言える立場でもないから、ただ側で見ていることしかできない。
 やだな。私もまだ奏くんと写真撮ったことないのに。
 あとで……私とも写真撮ってくれるかな。

 「はぁ、いい加減にしてくれ。付き合い切れない。じゃあな」

 そういうと、奏くんは私の手を引いて強引に彼女たちの前から立ち去る。
 あの様子だと、中々解放してくれなさそうだったから、強引に立ち去ったのは正解だったと思う。
 彼女たちから十分離れたところで立ち止まり「ごめんな」と言った。

 「奏くんが悪いわけじゃないよ」

 「でも、俺のせいで絡まれたわけだし……嫌な思いさせたよな」

 「……ううん。大丈夫。ずっと手を繋いでてくれたから、心強かったよ」

 「俺も茉莉絵と手繋いでたから、キレそうになるの我慢できたかも……」

 「……ふふっ、何それ」

 「よし、じゃかき氷でも買って少し休むか」

 「うん、そうしよう……痛っ」

 歩き出したところで、足に痛みが走る。
 さっき急いで立ち去ったから、靴擦れしちゃったみたい……

 「どうした?」

 「それが……靴擦れしちゃったみたいで。でも、ゆっくり歩けば大丈夫だと思う」

 せっかくのデートなのに、こんなことで終わりなんてやだ。
 まだ帰りたくない……

 「……少し歩けるか? 隣の公園行こう」

 「え?」

 お祭りの会場に隣接している公園に向かおうと言い出した。
 一体どうして……?

 「そのままだと痛いと思うから、絆創膏貼ったりしたほうがいいだろ」

 「あ、でも、私持ってきてない」

 「俺が持ってるから大丈夫」

 奏くん準備が良すぎない? 私がだめ女子なだけ?
 気が利きすぎててすごい。

 「いつも持ち歩いてるの?」

 「あー、妹が小さい頃からよく転んだりしてたから、癖で今でも持ち歩いてるな」

 「良いお兄ちゃんだね」

 「まぁな。じゃ、ゆっくりでいいから行こうか」

 「うん」

 靴擦れにあまり当たらないようにゆっくりと歩き、公園へと向かう。
 ベンチに腰をかけてサンダルを脱ぐと皮がべろりと剥けていた。

 見てるだけで痛い……

 「ちょっと待っててな。そこの自販機行ってくる」

 「……うん?」

 喉乾いたのかな?
 あ、先に絆創膏もらって置けば良かったかな。
 今のうちに自分で貼っておけたな。

 「お待たせ。足、触るな?」

 「え?」

 そういうと、奏くんはしゃがみ込み私の足を手に取ると買ってきたミネラルウォーターで傷を洗い流してくれた。

 「えっ、ちょっ、奏くんっ!」

 「痛いか?」

 「え……いや、少し痛いけど……ってそう言うことじゃなくて」

 「どうした?」

 恥ずかしすぎる。そんな汚れた足を触られるなんて……
 奏くんは抵抗ないのかな……

 「絆創膏するから、ハンカチ当てるけど、少し痛いかもしれないが我慢な?」

 「待って‼︎  奏くん、私のハンカチを使って欲しい」

 流石に、奏くんのハンカチを汚すわけにはいかない。
 
 「え? 俺のハンカチも綺麗だけど……」

 「いや、そういうことじゃなくて……奏くんのハンカチを汚したくないの」

 「別に洗濯すればいいだけだけど」

 「いいの! お願い! 私のハンカチ使って!」

 「まぁ、そこまで言うなら……」

 そういうと、傷にはあまり触れないように水分を拭き取り、絆創膏を二重で貼ってくれた。
 二重で貼るあたり、普段からそう言うことをしてあげてたんだなと感じられた。

 絆創膏一枚だとサンダルに当たって痛かったりするから、二重になってるとだいぶ違うので助かる。
 中身までイケメン過ぎて……自分のダメさに釣り合いがとれていないのではと不安になってしまう。

 「今度は、何に凹んでる?」

 「え……?」

 「茉莉絵って結構わかりやすいよな。理由はなんだかわからないけど、凹んでるのはわかるな」

 「私ってそんなにわかりやすかったんだ……」

 「で? 今度はどうした?」

 折角のデートなのに、ウジウジしたこと言いたくない。
 けど、言うまで逃してくれなさそう……

 「あのね、奏くんはこんなにできた人なのに、私は何も誇れるものがないし、奏くんと一緒にいてもいいのかなって思って……」

 「なんだ……そんなの良いに決まってるだろ。なんで誇れるものがないといけないんだ?」

 「奏くんと釣り合いがとれてない気がして」

 「釣り合いって何? 茉莉絵の中で俺ってそんなにすごい人なわけ? 別に普通の中学三年生ですけど?」

 「格好良くて、頭も良くて、ピアノも弾けて、気もきく優しい人だよ。私は特技も何もない。ただ受験勉強を頑張ってるだけ」

 本当に私は何もないな……
 趣味もなければ、特技もない。

 「特技なんて別になくてもいいだろ。みんながみんな特別な何かを持ってるわけじゃないし、何もないことの何が悪い? 俺は、茉莉絵と一緒に過ごす時間が楽しいと思うし、これからも一緒に居たいって思ってる。それだけで十分じゃないか?」

 「……ありがとう。私も奏くんと一緒に過ごす時間が楽しくて大切な時間だよ」

 「もう同じことで凹むなよ?」

 「うん」

 奏くんのことになるとマイナス思考になる私をすぐに引き上げてくれる。
 本当に同じ年なのかと疑いたくなるほどだ。
 お兄ちゃんという立場が彼を大人びた感じにしているのだろうか。

 

 
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