6 / 46
一章 初恋
1−4
しおりを挟む「わふっ!」
あ、クッキーと遊ぼうと思って公園に来たのに、つい彼と話し込んでしまった。
「ごめんね。ボール持ってきたから遊ぼうね」
ボールを取り出すと、獅子丸くんが前足を伸ばし取ろうと彼の腕の中で踠く
「ん? 獅子丸くんも一緒にボール遊びがしたいのかな?」
「くぅん」
「か、可愛い……」
「なんだ、お前もボールで遊びたかったのか?」
そういうと、彼が獅子丸くんを地面に下ろしたので、ボールを獅子丸くんとクッキーの間に転がす。
様子を見守っていると、クッキーが優しくボールを獅子丸くんの方に転がした。
それを、上手に前足でキャッチすると、ボールと一緒にコロコロと転がり戯れていた。
クッキーも今日は新しいお友達と遊びたいと思ったのか、走り回ることなく、前足でボールを優しくコロコロとして遊んであげていた。
「お前の犬、随分面倒見がいいんだな」
「ふふっ、クッキーは大きな体だけど、穏やかで優しい子だからね。小さくて可愛い獅子丸くんを見守ってくれてるのかも」
「飼い主に似るっていうし……お前が優しいからってことか」
「えっ⁉︎ 何を言って……っていうか、お前じゃなくて名前で呼んで欲しいな……」
急に、そんなこと言われるとどう反応していいか分からない。
名前呼んで欲しいなんて、困らせたかな……
「あー……相沢だっけ」
「相沢……茉莉絵」
流石に、下の名前では呼んでくれないかー。
そりゃそうだよね。
さっき会ったばっかりだし……私はちゃっかり奏くんって下の名前で呼んじゃってるけど、図々しかったかな。
距離を縮めるためには、名前で呼んだ方が良いと思ったんだけど……
「そうそう、相沢茉莉絵な。覚えたよ」
「あの、奏くんも良かったら、茉莉絵って呼んで欲しいな」
よしっ! 勇気出して言えた!
ダメかな……? なんか奏くんの眉が下がってるような気がするけど……
「え? あ、いや、えーっと嫌ってわけじゃないんだけど……女の子を名前で呼んだことないから、なんか照れくさいな」
「あっ、そうだよね。ごめんね。急にこんなこと言われても困るよね。折角だから仲良くしたいなって思って……」
「いや、別に謝るようなことじゃ……。はいはい、茉莉絵な? 獅子丸もクッキーに遊んでもらって嬉しそうだし、良かったらまた遊んでやってくれると嬉しいかな」
「もちろん! クッキーも獅子丸くんのこと可愛がってるみたいだから、また週末連れてくるね」
やった! 名前で呼んで貰えた!
なんか奏くんと会いたいからクッキーをここに連れてくるみたいになっちゃってるけど、時々は連れてきてあげてたし……いいよね?
ボールを投げてあげると、クッキーが大きくジャンプをして駆け出していく。
それを追いかけるようにちょこちょこ走る獅子丸くん。
クッキーは、ボールに追いつくと、いつものようにすぐに口に咥えることなく、獅子丸くんが追いつくのを待っていた。
本当に、微笑ましい光景だなーと癒される。
「はぁ、帰ったら勉強しないとなー」
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
これから、過去問を解いたりしないと。
「宿題か?」
「ううん、一応受験生なので、受験勉強だね」
「まじか。俺も受験生だ。同じ年なんだな」
「やっぱり同じだったんだ。なんとなく同じ年くらいかなーって思ってたんだよね」
「俺も帰ったら勉強しないとだな」
この辺に家があるなら、きっと学区が同じはず。
志望校とかって聞いてもいいかな。
流石に初対面の相手にズカズカ行き過ぎ?
うーん、悩んでるくらいなら聞いちゃえっ!
「奏くんは、どこ志望なの? 私はねー、桜ヶ丘高校だよ」
「は? マジで?」
え? このマジで? は、なんだろう……
学区一の偏差値高い学校受けるってマジ?ってこと?
「えーっと、一応そうだね。だから、勉強頑張らないといけなくて……」
「マジかー、いや被り過ぎだろ」
「え?」
「いや、俺も……桜ヶ丘高校志望なんだよ」
「えっ⁉︎ 本当に⁉︎」
「あぁ、マジだな」
うそうそうそうそー‼︎
え、本当に? こんな幸運いいの?
あれ、私ちょっと運使い過ぎてない?
え……受験が心配になってきた。
いやいや、ちょっと落ち着こう。
頭の中がごちゃごちゃしてきちゃった。
「えっと、それじゃ、二人とも受かったら同じ高校に通えるんだね」
「そうなるな」
「ふふっ、なんか嬉しいかも」
嬉しいかもじゃなくて、嬉しい!
今日出会ったばかりなのに……こんな気持ちになるのは変なのかな。
正直に言うと……彼の顔がタイプだ。
お兄ちゃん以外の男の子を初めてイケメンだと思ったんだもん。
というか、私ってイケメン好きだったのか……
話してみると、話しやすいし、このクールな見た目でピアノも弾けちゃうなんて……弾いてる姿を想像するだけで、素敵すぎる。
でも、流石にちょっと暴走し過ぎかな。
グイグイ行き過ぎて引かれてないかな……?
少し心配になり、彼の顔を伺うも特に嫌がってる様子はみられない。
ポーカーフェイスなのかな。
「まぁ、お互い頑張ろうぜ」
「うん」
それから二時間ほど公園で遊んでから家路に着いた。
奏くんに社会が中々暗記できなくて苦手と言ったら、なんと……
「え? 暗記なんてリズムだろ」
と、まさかのお兄ちゃんと同じ発言をしていた。
32
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
坊主頭の絆:学校を変えた一歩【シリーズ】
S.H.L
青春
高校生のあかりとユイは、学校を襲う謎の病に立ち向かうため、伝説に基づく古い儀式に従い、坊主頭になる決断をします。この一見小さな行動は、学校全体に大きな影響を与え、生徒や教職員の間で新しい絆と理解を生み出します。
物語は、あかりとユイが学校の秘密を解き明かし、新しい伝統を築く過程を追いながら、彼女たちの内面の成長と変革の旅を描きます。彼女たちの行動は、生徒たちにインスピレーションを与え、更には教師にも影響を及ぼし、伝統的な教育コミュニティに新たな風を吹き込みます。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
真夏の温泉物語
矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
夏の決意
S.H.L
青春
主人公の遥(はるか)は高校3年生の女子バスケットボール部のキャプテン。部員たちとともに全国大会出場を目指して練習に励んでいたが、ある日、突然のアクシデントによりチームは崩壊の危機に瀕する。そんな中、遥は自らの決意を示すため、坊主頭になることを決意する。この決意はチームを再び一つにまとめるきっかけとなり、仲間たちとの絆を深め、成長していく青春ストーリー。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる