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一章 初恋

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 「わふっ!」

 あ、クッキーと遊ぼうと思って公園に来たのに、つい彼と話し込んでしまった。
 
 「ごめんね。ボール持ってきたから遊ぼうね」

 ボールを取り出すと、獅子丸くんが前足を伸ばし取ろうと彼の腕の中で踠くもがく

 「ん? 獅子丸くんも一緒にボール遊びがしたいのかな?」

 「くぅん」

 「か、可愛い……」

 「なんだ、お前もボールで遊びたかったのか?」

 そういうと、彼が獅子丸くんを地面に下ろしたので、ボールを獅子丸くんとクッキーの間に転がす。
 様子を見守っていると、クッキーが優しくボールを獅子丸くんの方に転がした。
 それを、上手に前足でキャッチすると、ボールと一緒にコロコロと転がり戯れていた。
 
 クッキーも今日は新しいお友達と遊びたいと思ったのか、走り回ることなく、前足でボールを優しくコロコロとして遊んであげていた。

 「お前の犬、随分面倒見がいいんだな」

 「ふふっ、クッキーは大きな体だけど、穏やかで優しい子だからね。小さくて可愛い獅子丸くんを見守ってくれてるのかも」

 「飼い主に似るっていうし……お前が優しいからってことか」

 「えっ⁉︎ 何を言って……っていうか、お前じゃなくて名前で呼んで欲しいな……」

 急に、そんなこと言われるとどう反応していいか分からない。
 名前呼んで欲しいなんて、困らせたかな……

 「あー……相沢だっけ」

 「相沢……茉莉絵」

 流石に、下の名前では呼んでくれないかー。
 そりゃそうだよね。
 さっき会ったばっかりだし……私はちゃっかり奏くんって下の名前で呼んじゃってるけど、図々しかったかな。
 距離を縮めるためには、名前で呼んだ方が良いと思ったんだけど……

 「そうそう、相沢茉莉絵な。覚えたよ」

 「あの、奏くんも良かったら、茉莉絵って呼んで欲しいな」

 よしっ! 勇気出して言えた!
 ダメかな……? なんか奏くんの眉が下がってるような気がするけど……

 「え? あ、いや、えーっと嫌ってわけじゃないんだけど……女の子を名前で呼んだことないから、なんか照れくさいな」

 「あっ、そうだよね。ごめんね。急にこんなこと言われても困るよね。折角だから仲良くしたいなって思って……」

 「いや、別に謝るようなことじゃ……。はいはい、茉莉絵な? 獅子丸もクッキーに遊んでもらって嬉しそうだし、良かったらまた遊んでやってくれると嬉しいかな」

 「もちろん! クッキーも獅子丸くんのこと可愛がってるみたいだから、また週末連れてくるね」

 やった! 名前で呼んで貰えた!
 なんか奏くんと会いたいからクッキーをここに連れてくるみたいになっちゃってるけど、時々は連れてきてあげてたし……いいよね?

 ボールを投げてあげると、クッキーが大きくジャンプをして駆け出していく。
 それを追いかけるようにちょこちょこ走る獅子丸くん。
 クッキーは、ボールに追いつくと、いつものようにすぐに口に咥えることなく、獅子丸くんが追いつくのを待っていた。

 本当に、微笑ましい光景だなーと癒される。

 「はぁ、帰ったら勉強しないとなー」

 楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
 これから、過去問を解いたりしないと。

 「宿題か?」

 「ううん、一応受験生なので、受験勉強だね」

 「まじか。俺も受験生だ。同じ年なんだな」

 「やっぱり同じだったんだ。なんとなく同じ年くらいかなーって思ってたんだよね」

 「俺も帰ったら勉強しないとだな」

 この辺に家があるなら、きっと学区が同じはず。
 志望校とかって聞いてもいいかな。
 流石に初対面の相手にズカズカ行き過ぎ?
 うーん、悩んでるくらいなら聞いちゃえっ!

 「奏くんは、どこ志望なの? 私はねー、桜ヶ丘高校だよ」

 「は? マジで?」

 え? このマジで? は、なんだろう……
 学区一の偏差値高い学校受けるってマジ?ってこと?
 
 「えーっと、一応そうだね。だから、勉強頑張らないといけなくて……」

 「マジかー、いや被り過ぎだろ」

 「え?」

 「いや、俺も……桜ヶ丘高校志望なんだよ」

 「えっ⁉︎  本当に⁉︎」

 「あぁ、マジだな」

 うそうそうそうそー‼︎
 え、本当に? こんな幸運いいの?
 あれ、私ちょっと運使い過ぎてない?
 え……受験が心配になってきた。

 いやいや、ちょっと落ち着こう。
 頭の中がごちゃごちゃしてきちゃった。

 「えっと、それじゃ、二人とも受かったら同じ高校に通えるんだね」

 「そうなるな」

 「ふふっ、なんか嬉しいかも」

 嬉しいかもじゃなくて、嬉しい!
 今日出会ったばかりなのに……こんな気持ちになるのは変なのかな。

 正直に言うと……彼の顔がタイプだ。
 お兄ちゃん以外の男の子を初めてイケメンだと思ったんだもん。
 というか、私ってイケメン好きだったのか……
 
 話してみると、話しやすいし、このクールな見た目でピアノも弾けちゃうなんて……弾いてる姿を想像するだけで、素敵すぎる。

 でも、流石にちょっと暴走し過ぎかな。
 グイグイ行き過ぎて引かれてないかな……?

 少し心配になり、彼の顔を伺うも特に嫌がってる様子はみられない。
 ポーカーフェイスなのかな。

 「まぁ、お互い頑張ろうぜ」

 「うん」

 それから二時間ほど公園で遊んでから家路に着いた。
 奏くんに社会が中々暗記できなくて苦手と言ったら、なんと……
 
 「え? 暗記なんてリズムだろ」

 と、まさかのお兄ちゃんと同じ発言をしていた。

 
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