【完結】愛犬との散歩は、恋の予感

Ria★発売中『簡単に聖女に魅了〜』

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一章 初恋

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 翌日、学校から帰るとお母さんがキーホルダー片手に出迎えてくれた。

 「見てみて! お昼頃に届いたのー! 可愛いわねー」

 「……お母さん。えっと、まず靴脱がせてね。リビングでゆっくりみたいな」

 「あら、そうよね。早く見せてあげたくて」

 「あははっ、お母さんらしいけどね。ただいま」

 「ごめんなさいね。茉莉絵ちゃん、おかえりなさい」

 お母さんは歳を重ねても学生のようにはしゃぐ。
 そんなお母さんを可愛いというお父さん。両親が仲良くて何よりですよ。
 私もお父さんみたいに、結婚してからも可愛いって言ってくれる人と恋がしたいな。

 「合皮で出来てるから、チャーム同士がぶつかってもカチャカチャうるさくなくていいね」

 「そうなのよ。キーホルダーってどうしてもうるさいイメージがあったけど、合皮だからそういうのがなくていいわよね」

 肉球のチャームも可愛いし、骨のチャームにCookieの名前が書いてあるのが一番お気に入りだったりする。
 学校の鞄につけたいけど、明日土曜日だから、お散歩用のバッグにつけようっと。
 
 「お父さんはブラウンで、お兄ちゃんはブラックにしたんだね」

 「お父さんは、派手なのは好きじゃないし、お兄ちゃんは黒が好きじゃない?」

 「確かに……でも、色は黒だけど、肉球とか骨のチャームとか付いてるのは可愛すぎない?」

 「そうかしら?」

 お兄ちゃんがあの見た目で、この可愛いキーホルダーを鞄につける……似合わないけど……うーん。

 「え? 何あれ。可愛いー! ギャップがやばいー」

 って騒いでる女子たちが想像出来てしまった。
 あぁ、有りだ。きっと女子ウケが余計に上がる気がする。

 お兄ちゃんもクッキーのこと可愛がってるし、普通に鞄につけて学校行きそう。
 
 案の定、帰ってきたお兄ちゃんにキーホルダーを渡したところ、「ありがとう」と言って、当たり前のように鞄につけていた。
 月曜日学校に行ったら、騒がれそうだねって心の中で思った。

 ◆ ◆ ◆

 翌日、土曜日だったこともあり、朝ゆっくりと起き、朝食を取ってからクッキーと散歩に行く。
 
 散歩用のバッグを肩にかけ、キーホルダーをひと撫でする。可愛いなー。

 「ほら、クッキー、これ可愛いでしょー? ここにあなたの名前が書いてあって、ここにあなたのシルエットがあるんだよー」

 「わふっ?」

 「ふふっ、わからないよね。さて、今日はいつもの公園の先にある公園まで行ってみようか」

 「わふっ!」

 いつもは近くの公園や河原にいくことが多いが、休みの日は時々、少し遠くまで散歩したりしている。
 最近こっちの方まで来ていなかったから……一月ぶりくらいになる。
 まだ六月なのに、じんわりと汗が滲み出てくる。
 梅雨もこれから……お散歩出来ない日が多くなりそうだから、今のうちに沢山外で遊んでおかないとね。

 公園に着くと、入り口に可愛い子犬が座り込んでいた。
 あれは、ミニチュアピンシャーかな。
 可愛いー、小さいー、触りたい……っと、ダメダメ。

 飼い主さんは……と、視線を上に向けると、すぐ近くに青年が立っていた。
 黒いストレートの髪がサラサラと風に靡く。
 背は私と同じくらいで、整った顔立ちのせいか少し冷たい雰囲気がある。
 格好良い……

 「……何?」

 「あ、ごめんなさい。みたことない顔だなーって思ったから……」

 ジロジロ見過ぎちゃった。嫌な思いさせちゃったかな……

 「あぁ、最近親の転勤で引っ越してきたんだよ」

 「そうなんだ」

 初対面の相手に、何を話せば良いか分からず、会話が終了してしまった。
 彼も気まずいと思ったのか、ワンちゃんを抱いて去ろうとしていたが、彼の鞄に付いているものに気付き、声を掛けてしまった。

 「あのっ、そのキーホルダー!」

 「は?」

 「えっと、その犬の……」

 「あぁ、これ?」

 「そう。私も同じの持ってるから……ほら、これ」

 「本当だ……」

 まさか色違いでお揃いのキーホルダーを持ってるなんて。
 私のはピンクだけど、彼のはネイビーでイメージ通りだなと思った。
 名前……なんて言うんだろう。
 初めて会ったばかりだけど、もう少し話してみたい。

 「これ、お母さんが見つけて可愛いからって買ってくれたんだよね」

 「あー、俺も母さんが同じ理由で買ってたな」

 ふふっ、理由も同じだ。
 彼が自分で買ったなんて想像できないから、納得ね。

 「獅子丸……この子は獅子丸くんって言うんだね」

 「あぁ、そっちはクッキーか」

 「うん。あの……私、相沢あいざわ 茉莉絵まりえっていうの。名前を聞いてもいいかな?」

 「……佐伯さえき かなでだ」

 「奏くんって言うんだね。素敵な名前だね」

 「どーも。母親が楽器を吹いてるから、納得の名付けだな」

 お母さんが楽器をやってるから奏と名付けたんだね。
 彼の言うとおり、なんか納得しちゃう。

 「楽器を吹いてるって、フルートとか?」

 「そう、プロとかじゃなくて、趣味で吹いてるだけなんだけど。学生の頃から吹奏楽部でやってたみたいだし、長いな」

 学生の時から続けてるなんて、相当長い。ずっと続けられる趣味っていいな。
 私は何も趣味と言えるものがないな……
 特技と言えるものもないし、私って何も出来ないんだなぁ……

 「素敵……奏くんも何か楽器やってたりするの?」

 「俺は……ピアノが少し弾ける程度だな」

 「すごい! ピアノ弾けるの格好良いね! コンクールとかそう言うのに出たりとかはしてるの?」

 「いや、目立つのは好きじゃないから、そう言うのは出てない。趣味として家で弾いてるだけだな」

 「そうなんだ。でも、良い趣味だね」

 奏くんもピアノが弾けるんだ……凄いな。
 きっと小さい頃から続けているんだろうな。
 何も誇れるものがない自分が急に恥ずかしくなった。
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