【完結】その夏は、愛しくて残酷で

Ria★発売中『簡単に聖女に魅了〜』

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四章 大好き

---柊真視点⑤---

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 美月の四十九日には、飯田と俺も呼んで貰えた。
 葬儀に参列出来なかったから、これでちゃんと美月にお別れが言えると思った。

 散骨をすると言うことで、桟橋で待ち合わせすることになったが、家にじっとしていられず早く家を出ると、すでに飯田が来ていた。

 「ずいぶん早いんだな」

 「そういう西之園くんもね」

 「まぁな……」

 休みの日にお互い制服を着てるなんて変な感じだよなと思いながら、海を眺めた。
 ここに美月の遺骨を流すのか……

 「あら、あなたたちずいぶん早いのね」

 後ろから声をかけられ、振り返るとおじさんとおばさんが立っていた。
 みんな家でじっとしていられなかったのか……同じだな。

 「おじさん、おばさん、おはようございます」

 「おはようございます」
 
 飯田が挨拶をしたので、それに続いて挨拶をすると、穏やかな顔で「おはよう」と返してくれた。

 もっと憔悴してると思って心配したが、思ったよりも落ち着いていそうでよかったと思った。
 おばさんたちがどんどん窶れていったら美月が悲しむと思ったから。
 
 「香織ちゃん、これ貰ってくれるかしら? 美月が大事にしてたの。旅行にまで連れていってたのよ。おかしいでしょ?」

 そういって、パンダのぬいぐるみを飯田に手渡した。

 「これ……私があげた……」

 「美月、可愛いって気に入ってたよな。沖縄旅行に連れていって一緒に写真撮ったりしてさ」

 「うん、うん。とっても可愛がってくれてたね」

 泣かないようにと懸命に堪えながらも、震える声に頑張れと背中を叩いた。
 最後は、みんなで笑ってお別れをしよう。
 美月は、飯田の笑顔が好きだっただろ? 悲しい顔は似合わない。
 俺たちはもう十分泣いた。だから、笑ってお別れしよう。

 時間になり、小さなクルーザーに乗り込むと、ドローンが空を舞った。
 散骨の様子を撮影するなんて凝ったことするんだなと思った。

 クルーザーが所定の位置に着くまでに各自別れの言葉を書くようにと水に溶ける紙を渡された。
 散骨する時に、一緒にメッセージも流しお別れをするらしい。

 美月への最後のメッセージか……もうこれしかないよな。

 迷いなく、ペンを手に取り書き込んでいく。

 そして、船が止まると、みんなで外へと向かう。
 まだ残暑が厳しい時期だったが、午前中のため暑さもそこまでではなく風が気持ちよかった。

 目を閉じ、冥福を祈りながらみんなで海へとメッセージを流していく。
 そっと目を開け、ゆっくりと沈んでいく紙を見つめながら、紙にかいたメッセージを心の中で呟いた。

 ーー大好き

 ◆ ◆ ◆

 「うわっ、お前の待ち受けなんか女みたいだな」

 仕事が終わり、疲れたーと伸びをしていると、隣の席の同期が俺のスマホ画面を覗き込んでいた。

 「あぁ、これか? ピンクムーンっていうんだよ。彼女が撮った写真。まぁ、スマホで撮ったやつだからちょっとアレかもだけど、俺が気に入ってるからいいんだよ」

 美月が、沖縄旅行に行った時に撮ったやつだからな。
 なんかご利益ありそうだろ。

 「ふーん。で、今日は26歳の誕生日だから彼女とデートか?」

 「そういうこと。じゃ、お先ー」

 「おー、楽しめよー」

 同期に別れを告げ、コンビニに寄ってビールとつまみを買うといつものように海へと向かった。

 雲ひとつない夜空には月が輝き、まるで美月が誕生日を祝福してくれているような気持ちになった。

 プシュッと缶が開く音が静かな海へと消えていく。
 手すりに寄りかかり、ビールを一口のみ一息つく。

 まさか、毎年誕生日に美月から花が届くとは思わなかった。
 正確には、おばさんが美月の名前で俺に送ってるだけだが……多分これも美月の最後のお願いの一つなんだろうな。

 花束に添えられたメッセージカードをみながら、後何年分用意してるんだろうと思った。
 缶に詰められた美月の胸に秘めた想い『忘れないで』
 忘れるわけないだろ。美月はいつまでも俺の一番だよ。

 美月と乾杯するように、海に向かいビールを掲げる。

 「今年も誕生日祝ってくれてありがとな、美月。はぁ……全く、お前、全然、片隅にいねーじゃん……来年も花とメッセージ届くの待ってるからな!」

 そういうと、ぐいっとビールを飲み干した。

 柊真視点 end. 
 
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