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四章 大好き

---柊真視点②---

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 流石に、そろそろ休憩しないと美月も疲れただろ。なんだかんだであちこち店回ったからな。
 美月に休憩しようと声をかけると「うん。じゃー、かき氷食べながら休もうかな」と言った。
 さっき焼き鳥一本しか食べてないのに、かき氷だけか……。
 まぁ、暑いから食欲ないのもわかるけど……心配だな。

 楽しくて胸がいっぱいか、それは嬉しいけど……まぁ、あとでチョコバナナも食べるって言ってるし、いっか。
 椅子に座ると、そっと足を摩っていたので、やっぱり疲れてたんだなと思った。
 もう少し早く休ませてやればよかった。でも、楽しそうに回ってる美月を見てると嬉しくて、つい一緒に店を回ってしまった。

 お好み焼きを食べ終わると、美月もちょうどかき氷を食べ終えたところだった。
 美月は、ぶるりと体を震わせ、腕を摩り寒そうにしていて、唇も青くなっていた。
 かき氷一つでこんなにもなるのか……?

 あまりにも寒そうにしているから、美月の手を両手で握り温めた。
 ほっそりとした肉付きのない手に心配だなと思いながらも、顔には出さないように手を擦り温めた。

 美月の顔色も戻ってきたし、そろそろ行くかと席を立ち後ろを振り返ると美月が崩れ落ちるのが見え、咄嗟に腕を掴み抱き寄せる。
 地面に付かなくて良かったけど……急に体調悪くなったのか?
 とりあえず、座らせ、大丈夫かと声をかけると「今日はここまでにしよう」と言った。

 体調が悪いなら無理をさせたくないし、それでいいと思ったが、美月があまりにも悲しそうにしてたのが気になった。
 
 こんなにも体調を崩すなんて本当に風邪と言えるんだろうか。
 もしかして、何か違う病気なのか……?
 心配して聞いてみるも、まっすぐに俺を見つめ「夏バテ」なんだと言った。
 とても嘘をついてるようには見えなかったから、素直にその言葉を信じることにした。
 
 何もないからおばさんたちに連絡することはないだろうと思って祭りに来たが、まさか連絡することになるとはな。
 おばさんたちが来るまで、美月の肩を抱き寄せ、夏なのに異常に冷たい美月の手を温めた。
 俺の熱を全て奪ってもいいから、美月が元気になるようにと祈りながら。

 美月は、手に持った線香花火をゆらゆらと揺らしながら名残惜しそうに見つめていた。
 最後にやろうなって話してたんだよな……でも、美月体調悪そうだし……
 どうしたものかと悩んでいると、おじさんとおばさんの姿が見えた。早いな。本当に近くにいたんだな。
 もしかして、呼ばれるってわかっていた……?

 俺の手を離し、おじさんに抱き上げられた美月の悲しそうな顔に思わず「あのっ!」と呼び止めてしまった。
 体調が悪いのはわかってる。わかってるが……線香花火ならちょっと座ってればすぐ終わる。最後にやらせてあげられないだろうか。

 でも、美月の体調を考えれば、こんな提案するべきじゃ無かったか。
 そう思ったが、美月が「やりたい」と言った。
 でも、流石におじさんとおばさんが反対するだろうと思ったが、すんなり美月の願いを聞き入れているのに驚いた。
 美月の体調を最優先すると思ったから……

 二人が許してくれるならと、公園に向かい二人でベンチに座ると、おじさんは「これ使いなさい」と100円ライターを置いて離れていった。

 そばに美月の親がいると思うと少し恥ずかしかったが、あまり長居させるのも可哀想だと思い、線香花火を取り出した。

 「どっちが長く保つか勝負な」

 「いいよー」

 子供の頃のように、どちらが勝つが勝負をしながらパチパチと弾く火花の向こう側の美月の顔を見つめた。
 楽しそうにしていた美月の瞳にみるみるうちに涙が溜まっていくのに気付くと、ポトリと火の玉が落ちた。
 すると、その地面をポタポタと涙が滲んでいった。すぐに美月の顔をみるとポロポロと涙を溢していた。

 「ちょっ、美月⁉︎  いや、そんなに負けたのが悔しかったのか?」

 まさか泣くとは思わなくて、咄嗟に浴衣の袖で涙を拭ってから、いや、こういう時はハンカチだろって心の中で突っ込んでしまった。

 すぐにハンカチを取り出し、美月の手に握らせると、逆に俺の手をぎゅっと握りしめてきた。
 どうしたんだと思っていると、美月の顔が近付いてくる。

 なんの前触れもなく急にキスをされて、格好悪くも固まってしまった。
 一体どうしたんだ。いや、キスは嬉しいけど……
 なんかいつもと雰囲気が違うような……

 「美月……」

 「柊真、大好きだよ」

 俺も好きだよ! ずっと好きだったよ。だけど、本当にどうしたんだよ。
 嬉しいはずの言葉なのに、胸が締め付けられるのは何故だろう……
 その涙の意味はなんなのだろう。本当に勝負に負けたのが悔しかっただけで泣くのか……?
 俺は、美月の何に気付いていないんだろう。どうしたら……

 ぐるぐると頭を悩ませていると「じゃ、次は柊真からしてくれる? ほら?」と顔を上げる美月に、息を呑んだ。
 どれだけ俺が美月のことを大事に思っているのかこの気持ちが届くようにと、美月の頬に両手を添えて、二度目のキスをした。

 ーー早く元気になれ 


 
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