22 / 33
四章 大好き
4−2
しおりを挟む
「お母さん、このレースの可愛くない? これ下に敷いて、この上に卵と鳥飾って増加の植物を周りに飾って少し森っぽい雰囲気を作るのとかどうかな?」
「葉と鳥の模様のレースだから、ぴったりね」
「海に散骨もいいけど、森も捨てがたかったんだよね。でも、森は会いにいくのが大変でしょ? だからね。海ならすぐ会いに行けるかなって思って、海にしたの」
沖縄旅行に行った時に、このまま自然の中に溶けてしまいたいと思うくらい緑の中は気持ちが良かった。
それでも、海を選んだのは、お母さんたちがすぐ会いに来れそうだと思ったからだった。
「そう……確かに海ならすぐ美月に会いに行けるわね。車ですぐだもの。毎日でも通っちゃうかもしれないわね」
「毎日じゃなくてもいいのに」
でも、お母さんが家に籠ってしまうよりはいいのかもしれない。
そんな理由でも外に出るきっかけになるのであれば……
「お母さん、毎日季節の果物を備えて欲しいな。傷むと勿体無いから、供えた後はお母さんに食べて欲しいんだけど、駄目かな?」
きっと、私がいなくなった後、お母さんは食事も喉を通らなくなるだろう。
だから、果物だけでも口にして欲しいとお願いをする。
「駄目じゃないわよ。それくらいお母さん叶えてあげるから心配しないで」
「ありがと。それじゃ、もう一つ。毎日可愛い花を飾って欲しいな。お母さんが庭で育ててるお花好きなんだよね。だからね。ガーデニングもやめないでね?」
私がいなくなった後、お庭の花が枯れてしまうなんて悲しいことにはしたくない。
お母さんが丹精込めて手入れをしていた庭を眺めるのが好きだった。
なんでもいいから、お母さんの生きる理由を考えて、選んだのがこの二つだった。
「美月にそう言われたら、お庭のお手入れも気合を入れないといけないわね。毎日綺麗な花を供えてあげるからね」
「へへ、ありがと」
そして、後ひとつ。柊真を苦しめるであろうお願いをする。
「あのね……柊真の誕生日が11月でしょ? 私が直接プレゼントあげることはできないと思うから、お母さんに渡して欲しいの」
「え……それは構わないけど……先に渡すのは駄目なの?」
「それだとどうしてって聞かれちゃうでしょ?」
「そうね……」
柊真には最後の最後まで気付かれずに逝きたい。
死に顔なんて見られたくない。可愛いと思ってくれていた私を最後に覚えていて欲しい。
だから、葬儀も親族だけで行って欲しい……
「それでね。11月だとどんどん寒くなっていくでしょ? だから、ネックウォーマーとかどうかなって思ったんだよね」
「普段使いできるし、良いんじゃないかしら」
「せっかくだから、生地を買って作ろうかなって思ってるんだよね。ミシン借りていい?」
「あら、作るの? 大変じゃない? 大丈夫? ミシンを使うのは構わないけど……」
「ちゃんと作り方ネットで調べたし、休みながらやるから大丈夫だよ。生地もお年玉あるから大丈夫だし」
もう使うこともなくなるお年玉を思い残すことなく贅沢に使っていこうと思う。
今までは、たくさん使ったら駄目だよねと節制してたけど、もう気にする意味がないから……
「それなら、お母さんも一緒に作ろうかしら。生地もお母さんがまとめて買っちゃうわね」
「えっ、いいのに! お年玉あるのに!」
「お年玉は他のことに使えばいいじゃない。学校帰りに雑貨屋さん寄ったりカフェ寄ったりして好きに使えばいいのよ」
「そうだけど……」
「今は、大型の手芸屋さんも減ってきてるからネットで買った方がいいわね。ほら、こことかお母さんが良く利用してるお店だから一緒に選びましょうか」
「はーい」
生地の種類が多く、どれを選んでいいのかさっぱりわからなかったので、お母さんのおすすめの生地から色を選んでいった。
毛糸もころんとしてて可愛いなー。でも、編み物は難易度高いからな……
「あら、この毛糸綺麗な色ね。買おうかしら」
「あ、それ、私も思った!」
「そうなの? それじゃ、買っちゃいましょう。お母さんが美月のマフラーをこれで編んであげるわね」
「うん……でも……」
多分、これを使える季節に私はもう……
「あっ、今のは忘れてね」
そう気遣うお母さんに申し訳なく思う。折角、楽しい雰囲気だったのに、結局私が壊してしまう。
悲しい顔をしないで欲しい。
「ねぇ、お母さん。やっぱり、作って欲しいな。それでね。……火葬するときに、これを一緒に入れて欲しいの」
「美月……」
「もしかしたら、あっちは寒いかもしれないでしょ? これを持っていければ、安心だよ。ね?」
泣かないで、大丈夫。
私は大丈夫だから、残りの日々を悲しい思い出にしないで欲しいの。
最後は、こんなことをして、どこに行って楽しかったねって言って終わりたい。
「そっ・・・そうね。刺繍も入れたりして、とびっきり可愛いのを作ってあげるわね」
そう言いながら涙を流す母をそっと抱きしめる。
こんなにも早く逝く親不孝でごめんなさい。
「うん、ありがとう」
私は、お母さんの娘として生まれてこれて幸せだったよ。
「葉と鳥の模様のレースだから、ぴったりね」
「海に散骨もいいけど、森も捨てがたかったんだよね。でも、森は会いにいくのが大変でしょ? だからね。海ならすぐ会いに行けるかなって思って、海にしたの」
沖縄旅行に行った時に、このまま自然の中に溶けてしまいたいと思うくらい緑の中は気持ちが良かった。
それでも、海を選んだのは、お母さんたちがすぐ会いに来れそうだと思ったからだった。
「そう……確かに海ならすぐ美月に会いに行けるわね。車ですぐだもの。毎日でも通っちゃうかもしれないわね」
「毎日じゃなくてもいいのに」
でも、お母さんが家に籠ってしまうよりはいいのかもしれない。
そんな理由でも外に出るきっかけになるのであれば……
「お母さん、毎日季節の果物を備えて欲しいな。傷むと勿体無いから、供えた後はお母さんに食べて欲しいんだけど、駄目かな?」
きっと、私がいなくなった後、お母さんは食事も喉を通らなくなるだろう。
だから、果物だけでも口にして欲しいとお願いをする。
「駄目じゃないわよ。それくらいお母さん叶えてあげるから心配しないで」
「ありがと。それじゃ、もう一つ。毎日可愛い花を飾って欲しいな。お母さんが庭で育ててるお花好きなんだよね。だからね。ガーデニングもやめないでね?」
私がいなくなった後、お庭の花が枯れてしまうなんて悲しいことにはしたくない。
お母さんが丹精込めて手入れをしていた庭を眺めるのが好きだった。
なんでもいいから、お母さんの生きる理由を考えて、選んだのがこの二つだった。
「美月にそう言われたら、お庭のお手入れも気合を入れないといけないわね。毎日綺麗な花を供えてあげるからね」
「へへ、ありがと」
そして、後ひとつ。柊真を苦しめるであろうお願いをする。
「あのね……柊真の誕生日が11月でしょ? 私が直接プレゼントあげることはできないと思うから、お母さんに渡して欲しいの」
「え……それは構わないけど……先に渡すのは駄目なの?」
「それだとどうしてって聞かれちゃうでしょ?」
「そうね……」
柊真には最後の最後まで気付かれずに逝きたい。
死に顔なんて見られたくない。可愛いと思ってくれていた私を最後に覚えていて欲しい。
だから、葬儀も親族だけで行って欲しい……
「それでね。11月だとどんどん寒くなっていくでしょ? だから、ネックウォーマーとかどうかなって思ったんだよね」
「普段使いできるし、良いんじゃないかしら」
「せっかくだから、生地を買って作ろうかなって思ってるんだよね。ミシン借りていい?」
「あら、作るの? 大変じゃない? 大丈夫? ミシンを使うのは構わないけど……」
「ちゃんと作り方ネットで調べたし、休みながらやるから大丈夫だよ。生地もお年玉あるから大丈夫だし」
もう使うこともなくなるお年玉を思い残すことなく贅沢に使っていこうと思う。
今までは、たくさん使ったら駄目だよねと節制してたけど、もう気にする意味がないから……
「それなら、お母さんも一緒に作ろうかしら。生地もお母さんがまとめて買っちゃうわね」
「えっ、いいのに! お年玉あるのに!」
「お年玉は他のことに使えばいいじゃない。学校帰りに雑貨屋さん寄ったりカフェ寄ったりして好きに使えばいいのよ」
「そうだけど……」
「今は、大型の手芸屋さんも減ってきてるからネットで買った方がいいわね。ほら、こことかお母さんが良く利用してるお店だから一緒に選びましょうか」
「はーい」
生地の種類が多く、どれを選んでいいのかさっぱりわからなかったので、お母さんのおすすめの生地から色を選んでいった。
毛糸もころんとしてて可愛いなー。でも、編み物は難易度高いからな……
「あら、この毛糸綺麗な色ね。買おうかしら」
「あ、それ、私も思った!」
「そうなの? それじゃ、買っちゃいましょう。お母さんが美月のマフラーをこれで編んであげるわね」
「うん……でも……」
多分、これを使える季節に私はもう……
「あっ、今のは忘れてね」
そう気遣うお母さんに申し訳なく思う。折角、楽しい雰囲気だったのに、結局私が壊してしまう。
悲しい顔をしないで欲しい。
「ねぇ、お母さん。やっぱり、作って欲しいな。それでね。……火葬するときに、これを一緒に入れて欲しいの」
「美月……」
「もしかしたら、あっちは寒いかもしれないでしょ? これを持っていければ、安心だよ。ね?」
泣かないで、大丈夫。
私は大丈夫だから、残りの日々を悲しい思い出にしないで欲しいの。
最後は、こんなことをして、どこに行って楽しかったねって言って終わりたい。
「そっ・・・そうね。刺繍も入れたりして、とびっきり可愛いのを作ってあげるわね」
そう言いながら涙を流す母をそっと抱きしめる。
こんなにも早く逝く親不孝でごめんなさい。
「うん、ありがとう」
私は、お母さんの娘として生まれてこれて幸せだったよ。
45
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
【完結】君への祈りが届くとき
remo
青春
私は秘密を抱えている。
深夜1時43分。震えるスマートフォンの相手は、ふいに姿を消した学校の有名人。
彼の声は私の心臓を鷲掴みにする。
ただ愛しい。あなたがそこにいてくれるだけで。
あなたの思う電話の相手が、私ではないとしても。
彼を想うと、胸の奥がヒリヒリする。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
生きづらい君に叫ぶ1分半
小谷杏子
青春
【ドリーム小説大賞応募作】
自分に自信がなく宙ぶらりんで平凡な高校二年生、中崎晴はお気に入りの動画クリエイター「earth」の動画を見るのが好きで、密かにアフレコ動画を投稿している。
「earth」はイラストと電子音楽・過激なメッセージで視聴者を虜にする人気クリエイターだった。
そんなある日、「earth」のイラストとクラスメイトの男子・星川凪の絵画が似ていることに気が付く。
凪に近づき、正体を探ろうと家まで押しかけると、そこにはもう一人の「earth」である蓮見芯太がいた。
イラスト担当の凪、動画担当の芯太。二人の活動を秘密にする代わりに、晴も「earth」のメッセージに声を吹き込む覆面声優に抜擢された。
天才的な凪と、天才に憧れる芯太。二人が秘める思いを知っていき、晴も自信を持ち、諦めていた夢を思い出す。
がむしゃらな夢と苦い青春を詰め込んだ物語です。応援よろしくお願いします。
私の隣は、心が見えない男の子
舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。
隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。
二人はこの春から、同じクラスの高校生。
一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。
きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
絢と僕の留メ具の掛け違い・・
すんのはじめ
青春
幼馴染のありふれた物語ですが、真っ直ぐな恋です
絢とは小学校3年からの同級生で、席が隣同士が多い。だけど、5年生になると、成績順に席が決まって、彼女とはその時には離れる。頭が悪いわけではないんだが・・。ある日、なんでもっと頑張らないんだと聞いたら、勉強には興味ないって返ってきた。僕は、一緒に勉強するかと言ってしまった。 …
「史上まれにみる美少女の日常」
綾羽 ミカ
青春
鹿取莉菜子17歳 まさに絵にかいたような美少女、街を歩けば一日に20人以上ナンパやスカウトに声を掛けられる少女。家は団地暮らしで母子家庭の生活保護一歩手前という貧乏。性格は非常に悪く、ひがみっぽく、ねたみやすく過激だが、そんなことは一切表に出しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる