【完結】その夏は、愛しくて残酷で

Ria★発売中『簡単に聖女に魅了〜』

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四章 大好き

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 「お母さん、このレースの可愛くない? これ下に敷いて、この上に卵と鳥飾って増加の植物を周りに飾って少し森っぽい雰囲気を作るのとかどうかな?」

 「葉と鳥の模様のレースだから、ぴったりね」

 「海に散骨もいいけど、森も捨てがたかったんだよね。でも、森は会いにいくのが大変でしょ? だからね。海ならすぐ会いに行けるかなって思って、海にしたの」

 沖縄旅行に行った時に、このまま自然の中に溶けてしまいたいと思うくらい緑の中は気持ちが良かった。
 それでも、海を選んだのは、お母さんたちがすぐ会いに来れそうだと思ったからだった。

 「そう……確かに海ならすぐ美月に会いに行けるわね。車ですぐだもの。毎日でも通っちゃうかもしれないわね」

 「毎日じゃなくてもいいのに」

 でも、お母さんが家に籠ってしまうよりはいいのかもしれない。
 そんな理由でも外に出るきっかけになるのであれば……

 「お母さん、毎日季節の果物を備えて欲しいな。傷むと勿体無いから、供えた後はお母さんに食べて欲しいんだけど、駄目かな?」

 きっと、私がいなくなった後、お母さんは食事も喉を通らなくなるだろう。
 だから、果物だけでも口にして欲しいとお願いをする。

 「駄目じゃないわよ。それくらいお母さん叶えてあげるから心配しないで」

 「ありがと。それじゃ、もう一つ。毎日可愛い花を飾って欲しいな。お母さんが庭で育ててるお花好きなんだよね。だからね。ガーデニングもやめないでね?」

 私がいなくなった後、お庭の花が枯れてしまうなんて悲しいことにはしたくない。
 お母さんが丹精込めて手入れをしていた庭を眺めるのが好きだった。

 なんでもいいから、お母さんの生きる理由を考えて、選んだのがこの二つだった。

 「美月にそう言われたら、お庭のお手入れも気合を入れないといけないわね。毎日綺麗な花を供えてあげるからね」

 「へへ、ありがと」

 そして、後ひとつ。柊真を苦しめるであろうお願いをする。

 「あのね……柊真の誕生日が11月でしょ? 私が直接プレゼントあげることはできないと思うから、お母さんに渡して欲しいの」

 「え……それは構わないけど……先に渡すのは駄目なの?」

 「それだとどうしてって聞かれちゃうでしょ?」

 「そうね……」

 柊真には最後の最後まで気付かれずに逝きたい。
 死に顔なんて見られたくない。可愛いと思ってくれていた私を最後に覚えていて欲しい。
 だから、葬儀も親族だけで行って欲しい……

 「それでね。11月だとどんどん寒くなっていくでしょ? だから、ネックウォーマーとかどうかなって思ったんだよね」

 「普段使いできるし、良いんじゃないかしら」

 「せっかくだから、生地を買って作ろうかなって思ってるんだよね。ミシン借りていい?」

 「あら、作るの? 大変じゃない? 大丈夫? ミシンを使うのは構わないけど……」

 「ちゃんと作り方ネットで調べたし、休みながらやるから大丈夫だよ。生地もお年玉あるから大丈夫だし」

 もう使うこともなくなるお年玉を思い残すことなく贅沢に使っていこうと思う。
 今までは、たくさん使ったら駄目だよねと節制してたけど、もう気にする意味がないから……

 「それなら、お母さんも一緒に作ろうかしら。生地もお母さんがまとめて買っちゃうわね」

 「えっ、いいのに! お年玉あるのに!」

 「お年玉は他のことに使えばいいじゃない。学校帰りに雑貨屋さん寄ったりカフェ寄ったりして好きに使えばいいのよ」

 「そうだけど……」

 「今は、大型の手芸屋さんも減ってきてるからネットで買った方がいいわね。ほら、こことかお母さんが良く利用してるお店だから一緒に選びましょうか」

 「はーい」

 生地の種類が多く、どれを選んでいいのかさっぱりわからなかったので、お母さんのおすすめの生地から色を選んでいった。
 毛糸もころんとしてて可愛いなー。でも、編み物は難易度高いからな……

 「あら、この毛糸綺麗な色ね。買おうかしら」

 「あ、それ、私も思った!」

 「そうなの? それじゃ、買っちゃいましょう。お母さんが美月のマフラーをこれで編んであげるわね」

 「うん……でも……」

 多分、これを使える季節に私はもう……

 「あっ、今のは忘れてね」

 そう気遣うお母さんに申し訳なく思う。折角、楽しい雰囲気だったのに、結局私が壊してしまう。
 悲しい顔をしないで欲しい。

 「ねぇ、お母さん。やっぱり、作って欲しいな。それでね。……火葬するときに、これを一緒に入れて欲しいの」

 「美月……」

 「もしかしたら、あっちは寒いかもしれないでしょ? これを持っていければ、安心だよ。ね?」

 泣かないで、大丈夫。
 私は大丈夫だから、残りの日々を悲しい思い出にしないで欲しいの。
 最後は、こんなことをして、どこに行って楽しかったねって言って終わりたい。

 「そっ・・・そうね。刺繍も入れたりして、とびっきり可愛いのを作ってあげるわね」

 そう言いながら涙を流す母をそっと抱きしめる。
 こんなにも早く逝く親不孝でごめんなさい。

 「うん、ありがとう」

 私は、お母さんの娘として生まれてこれて幸せだったよ。
 

 
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