【完結】その夏は、愛しくて残酷で

Ria★2巻発売中『簡単に聖女に魅了〜』

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三章 束の間

3−6

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 今日は気温も上がるみたいで、暑くなりそうだなと思った。
 でも、風があるお陰でテント内にある観覧スペースは気持ちが良いと感じた。

 「真夏だったらこんなに気持ちよく体育祭やれなかったよねー」

 「そうだね。6月だから雨が心配ではあったけど、梅雨が遅れてて助かったかもね」

 「ね。まだ雨降らないなーって思ってたよ。あっ、集合だ。行ってくるね」

 「うん。頑張ってね!」

 香織はハイタッチをすると競技に出るため集合場所へと向かった。
 競技に参加できなくても、みんなと同じ格好をしてうちわを振って応援していると、一つになれたようで気持ちが昂っていく。
 元々仲の良いクラスが体育祭を通じて一致団結し、声を掛け合う姿は青春そのもので、あまりにも眩しくて目を細めた。
 
 香織は、足が早いのもあったが、息が合っていて無事一位で二人三脚を終えた。

 「おかえりー! 息ぴったりで早かったね!」

 「ただいまっ! そりゃー、放課後練習したからね! 任せてって言ったでしょ?」

 「うん。格好良かったよ!」

 「ほら、次は西之園くんでしょ?」

 「うん。借り物競走って言ってたから、何引くのか楽しみなんだよね」

 毎年ネタを一つは入れているみたいだけど、柊真は何を引くんだろう。
 早く柊真の番にならないかとうちわをくるくる回しながら、グランドを眺めた。

 あっ、次、柊真だ。
 一斉に駆け出し、紙を選び取ると、柊真は紙を開いた瞬間に私のクラスの方を向いた。
 ん? なんだったんだろう?

 そう思っていると、こちらに走ってくるので、クラスが騒ついた。

 「美月、きて」

 「え?」

 「抱えるから、ちゃんと捕まってな?」

 そういうと、柊真は私を抱き上げ、走り出した。
 思わず落ちないようにと首にしがみつくが、後ろからはクラスメイトたちの冷やかしが聞こえてきて恥ずかしくて、柊真の胸に顔を埋めた。

 放送部の前につくと私を下ろし、くじの内容をチェックしてもらっていた。

 「おーっと、お題は『大事な人』だー! 友達でも良いのに敢えて彼女を選んだ理由はー!?」

 え……、そんなこと聞くの!?
 全校生徒の前で!? というか、めちゃくちゃ注目されてて恥ずかしい……
 マイクを手渡された柊真が何を言うのかとドキドキして待っていると「俺の彼女だから手を出すなよ」と言ったため、全校生徒が湧き立った。
 嬉しいけど……嬉しいけど……恥ずかしいよ!
 そっと柊真の背中に移動し、みんなの視界から隠れたが、移動するたびに「お幸せに」と声をかけられて恥ずかしくてしょうがなかった。

 「柊真……みんなの前であんな宣言みたいなのしなくても良かったのに」

 「あー、あれなー……。ちょっと牽制っていうかさ。美月のこと可愛いって言ってる奴がいたから、ちょっかいかけられないようにと思って」

 「え……」

 「ちょっとやりすぎたか。ごめんな?」

 「いや、まぁ、ちょっと恥ずかしかったけど……怒ってるわけじゃないから大丈夫だよ」

 「そっか。足痛むか? 急に抱きかかえたから足痛くなってないかなと思ってさ」

 「え、あっ、うん。大丈夫だよ」

 捻挫した設定にしてたことを一瞬忘れてた……危ない危ない。

 「あと、ちょっと痩せすぎじゃないか? ほら、腕なんかこんなに細くて……」

 ……腕かー。自分でも腕や脚が細いなって思うから、柊真も思うよね。
 ダイエットって言っとくほうが良いかな。

 「夏に向けてちょっとダイエットしてるんだよね。ほら、水着着るの恥ずかしくないようにね」

 「いや、ダイエットとか必要ないだろ。元々太ってなかったし、今も痩せてるだろ。な? ダイエットやめとけよ?」

 「うーん……」

 やめろと言われたところで、ダイエットしてないから……
 ダイエットやめると言っても、痩せていくことには変わりないから……どうしようかな。
 すぐには言い訳が思い付かず、とりあえずダイエットはやめるということで、この話を終えた。

 「美月、おかえり。なんか凄かったねー」

 「ただいま。もうめっちゃ恥ずかしかったよー」

 「だよねー。でも、ちょっと嬉しかったでしょ?」

 「いや、まぁ……それはね……」

 まるで全校生徒の前で大好きだと告白されたみたいで、嬉しかったのは事実だ。
 ただ、恥ずかしかっただけで……

 競技も中盤に差し掛かり、応援団の演舞がはじまった。

 男子も女子もキレが良く、拳を握り締め力強い演舞に、全校生徒が沸く。
 その力強さに生命を感じ、自分の拳をグッと握り締めるもあんな風には出来ないなと思った。

 優勝こそ逃したものの、みんなで声を出し合い楽しく体育祭を終えることが出来た。
 クラスのカメラ担当の磯村さんに香織とのツーショットを撮ってもらったり、クラスが違う柊真との写真も撮ってもらえたので、十分すぎるほどの思い出となった。

 さっきまでの賑わいが嘘のように静かになったグランドを眺め、これがこの学校で過ごす最初で最後の体育祭なんだなと思った。

 「美月ー? 帰ろー」

 「うん」

 グランドに後ろ髪をひかれるように、香織と学校を後にした。
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