上 下
3 / 33
一章 告知

1−1

しおりを挟む
 高校受験が終わり桜が咲き乱れる中で、それはあまりにも残酷な告知だった。

 大好きな幼馴染の柊真と同じ高校に行くために猛勉強をし、合格を勝ち取った。
 受験勉強で無理をしすぎたのか、最近体が怠くて疲れやすいな。なんかお腹とかも張りやすいし、姿勢が悪かったのか背中にも痛みを感じる。そして、何故か体重は減っていく。
 勉強の合間にお菓子とか食べてたはずなのに……そんな体調の変化にどこか悪いのかもしれないとお母さんと病院に行くと詳しく検査が必要と言われてしまった。

 なんだろう……そんなに悪い病気なのかなと不安が押し寄せる。

 そんな中で下された病名は「膵臓がん」だった。
 あまりにも聞きなれない言葉に、どんな臓器だったっけ? と他人事のように思ってしまった。

 すでに身体中に転移しており、手術は難しいとのこと……どうしてこんなことに、そう思うものの涙は出てこなかった。
 あまりにも実感が沸かなかったから……

 それなのに、隣で「どうしてうちの子が! 高校受かったばかりなんです! 先生……どうにか出来ませんか。この子がいなくなったら生きていけません……」と啜り泣くお母さんを見て……あぁ、親不孝な娘でごめんねと涙が溢れた。

 これから徐々に体の痛みが強くなっていくとのことだったので、化学療法で痛みを緩和する治療をしていくことになった。
 放射線治療については、やめることにした。
 したところで、ほんの少し寿命が伸びる程度で体に負担が掛かるのならば、無理に治療する気にはなれなかった。

 お母さんはできる治療はなんでも試しましょうって言ったけど……残された時間を治療に費やしたくなかった。
 数ヶ月、何事もなかったかのように普通の高校生として学校生活を楽しみたかった。

 私の人生まだまだこれからだったんだけどな……自分の病気なのに、何故か実感がわかなくて、先生の話を聞きながらも泣くことはなく、淡々と話を聞いていた。

 でも、先生の話の後、看護師さんと二人で話していると涙がポロポロと溢れてくる。
 どうしてだろう……告知されても涙は出なかったのに……

 「辛いことがあったらなんでも連絡してもらって大丈夫だから。些細なことでも大丈夫。これから一緒に治療していきましょうね」

 「……はい」

 「ティッシュしかないんだけど、良かったら使って」

 そういって差し出されたティッシュで涙を拭うも、なかなか止まらない涙に、「焦らなくていいからね」と優しく声をかけてもらえ、また涙が溢れてきてしまった。

 ケア看護師さんとの話が終わり、待合室に戻るとお母さんがぎゅっと抱きしめてくれた。
 
 「こんなに目を真っ赤にして……さっきは取り乱してごめんね。辛いのは美月なのに……お母さんも一緒に頑張るから」

 「お母さん……」

 「もうすぐ学校始まるけど、無理しなくていいからね。体育も先生に説明しておやすみさせて貰うから」

 学校は行きたい。柊真と同じ高校行くために頑張ってきたんだもん。
 体が動くうちは学校生活を満喫したい。私の最後の青春……

 体育は多分無理そうな気がするから見学させて貰うことになるけど……みんなには体が弱いとか適当に嘘つくしかないかな。
 病気のこと知られて気を遣われるのも居心地悪そうだから……

 悔いなく過ごしたい。
 この想いが実らなくても、私の気持ちを知ってほしい。
 そう思い、告知されたその日の夜、柊真を公園に呼び出した。

 桜が街頭に照らされ、風が吹くたびにひらひらと舞い落ちる花びらを見ながら、私の命もゆっくりと散っていってるんだなと思った。

 「美月、待たせたか?」

 「ううん。大丈夫」

 「春とはいっても夜は冷えるんだから、風邪ひくぞ」

 そういうと、羽織っていたパーカーを脱ぎ、私の肩にかけてくれた。
 優しいな。柊真のそういうところ好きだよ。

 「それで? わざわざ会って言うほどのことってなんだ?」

 そうだよね。私が柊真のこと好きだなんて気付いてないもんね。
 驚くかな? 嫌がられるかな? それとも……どっちでもいい。気持ちを伝えたい。

 「柊真、あのね。私、ずっとあなたのこと好きだったの。付き合ってくれる?」

 「え……? あ、マジ? うわっ、マジか……え、いや、その俺でいいなら……」

 口元を手で覆い、驚きを隠せないようだったが、何故か了承してくれた。
 これは……本当に良いのかな。

 「いいの?」

 「いや、ごめ、ちょっと驚いただけ。俺も……その、好きだったから、付き合って欲しい」

 「……え? そうなの?」

 「あー……、いや、なんかこの関係壊すのが勿体無くて、言えなかったんだよな。だから、美月から言われて驚いたって言うかさ。美月から言わせてダセェなって思った……」

 うそ……両思いだったなんて……こんなことならもっと早く気持ちを伝えておけばよかった。
 そうしたら、もう少し長く恋人として過ごすことができたのに……

 柊真、病気のこと何も告げずに、告白してごめんね。
 あなたに何も告げずに逝くことになるだろう。残酷なことをしているとわかってる。
 でも、少しでもあなたの心に住まわせて欲しいの。私を忘れないで……
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

彼とプリンと私と。

入海月子
青春
大学生の真央は広斗と同棲している。 でも、彼とは考え方も好みもなにもかも違って、全然合わない。 ある日、広斗から急に留学をすると聞かされて……。 Twitterのお題で書いてみました!

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。 ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...