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一章 告知
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高校受験が終わり桜が咲き乱れる中で、それはあまりにも残酷な告知だった。
大好きな幼馴染の柊真と同じ高校に行くために猛勉強をし、合格を勝ち取った。
受験勉強で無理をしすぎたのか、最近体が怠くて疲れやすいな。なんかお腹とかも張りやすいし、姿勢が悪かったのか背中にも痛みを感じる。そして、何故か体重は減っていく。
勉強の合間にお菓子とか食べてたはずなのに……そんな体調の変化にどこか悪いのかもしれないとお母さんと病院に行くと詳しく検査が必要と言われてしまった。
なんだろう……そんなに悪い病気なのかなと不安が押し寄せる。
そんな中で下された病名は「膵臓がん」だった。
あまりにも聞きなれない言葉に、どんな臓器だったっけ? と他人事のように思ってしまった。
すでに身体中に転移しており、手術は難しいとのこと……どうしてこんなことに、そう思うものの涙は出てこなかった。
あまりにも実感が沸かなかったから……
それなのに、隣で「どうしてうちの子が! 高校受かったばかりなんです! 先生……どうにか出来ませんか。この子がいなくなったら生きていけません……」と啜り泣くお母さんを見て……あぁ、親不孝な娘でごめんねと涙が溢れた。
これから徐々に体の痛みが強くなっていくとのことだったので、化学療法で痛みを緩和する治療をしていくことになった。
放射線治療については、やめることにした。
したところで、ほんの少し寿命が伸びる程度で体に負担が掛かるのならば、無理に治療する気にはなれなかった。
お母さんはできる治療はなんでも試しましょうって言ったけど……残された時間を治療に費やしたくなかった。
数ヶ月、何事もなかったかのように普通の高校生として学校生活を楽しみたかった。
私の人生まだまだこれからだったんだけどな……自分の病気なのに、何故か実感がわかなくて、先生の話を聞きながらも泣くことはなく、淡々と話を聞いていた。
でも、先生の話の後、看護師さんと二人で話していると涙がポロポロと溢れてくる。
どうしてだろう……告知されても涙は出なかったのに……
「辛いことがあったらなんでも連絡してもらって大丈夫だから。些細なことでも大丈夫。これから一緒に治療していきましょうね」
「……はい」
「ティッシュしかないんだけど、良かったら使って」
そういって差し出されたティッシュで涙を拭うも、なかなか止まらない涙に、「焦らなくていいからね」と優しく声をかけてもらえ、また涙が溢れてきてしまった。
ケア看護師さんとの話が終わり、待合室に戻るとお母さんがぎゅっと抱きしめてくれた。
「こんなに目を真っ赤にして……さっきは取り乱してごめんね。辛いのは美月なのに……お母さんも一緒に頑張るから」
「お母さん……」
「もうすぐ学校始まるけど、無理しなくていいからね。体育も先生に説明しておやすみさせて貰うから」
学校は行きたい。柊真と同じ高校行くために頑張ってきたんだもん。
体が動くうちは学校生活を満喫したい。私の最後の青春……
体育は多分無理そうな気がするから見学させて貰うことになるけど……みんなには体が弱いとか適当に嘘つくしかないかな。
病気のこと知られて気を遣われるのも居心地悪そうだから……
悔いなく過ごしたい。
この想いが実らなくても、私の気持ちを知ってほしい。
そう思い、告知されたその日の夜、柊真を公園に呼び出した。
桜が街頭に照らされ、風が吹くたびにひらひらと舞い落ちる花びらを見ながら、私の命もゆっくりと散っていってるんだなと思った。
「美月、待たせたか?」
「ううん。大丈夫」
「春とはいっても夜は冷えるんだから、風邪ひくぞ」
そういうと、羽織っていたパーカーを脱ぎ、私の肩にかけてくれた。
優しいな。柊真のそういうところ好きだよ。
「それで? わざわざ会って言うほどのことってなんだ?」
そうだよね。私が柊真のこと好きだなんて気付いてないもんね。
驚くかな? 嫌がられるかな? それとも……どっちでもいい。気持ちを伝えたい。
「柊真、あのね。私、ずっとあなたのこと好きだったの。付き合ってくれる?」
「え……? あ、マジ? うわっ、マジか……え、いや、その俺でいいなら……」
口元を手で覆い、驚きを隠せないようだったが、何故か了承してくれた。
これは……本当に良いのかな。
「いいの?」
「いや、ごめ、ちょっと驚いただけ。俺も……その、好きだったから、付き合って欲しい」
「……え? そうなの?」
「あー……、いや、なんかこの関係壊すのが勿体無くて、言えなかったんだよな。だから、美月から言われて驚いたって言うかさ。美月から言わせてダセェなって思った……」
うそ……両思いだったなんて……こんなことならもっと早く気持ちを伝えておけばよかった。
そうしたら、もう少し長く恋人として過ごすことができたのに……
柊真、病気のこと何も告げずに、告白してごめんね。
あなたに何も告げずに逝くことになるだろう。残酷なことをしているとわかってる。
でも、少しでもあなたの心に住まわせて欲しいの。私を忘れないで……
大好きな幼馴染の柊真と同じ高校に行くために猛勉強をし、合格を勝ち取った。
受験勉強で無理をしすぎたのか、最近体が怠くて疲れやすいな。なんかお腹とかも張りやすいし、姿勢が悪かったのか背中にも痛みを感じる。そして、何故か体重は減っていく。
勉強の合間にお菓子とか食べてたはずなのに……そんな体調の変化にどこか悪いのかもしれないとお母さんと病院に行くと詳しく検査が必要と言われてしまった。
なんだろう……そんなに悪い病気なのかなと不安が押し寄せる。
そんな中で下された病名は「膵臓がん」だった。
あまりにも聞きなれない言葉に、どんな臓器だったっけ? と他人事のように思ってしまった。
すでに身体中に転移しており、手術は難しいとのこと……どうしてこんなことに、そう思うものの涙は出てこなかった。
あまりにも実感が沸かなかったから……
それなのに、隣で「どうしてうちの子が! 高校受かったばかりなんです! 先生……どうにか出来ませんか。この子がいなくなったら生きていけません……」と啜り泣くお母さんを見て……あぁ、親不孝な娘でごめんねと涙が溢れた。
これから徐々に体の痛みが強くなっていくとのことだったので、化学療法で痛みを緩和する治療をしていくことになった。
放射線治療については、やめることにした。
したところで、ほんの少し寿命が伸びる程度で体に負担が掛かるのならば、無理に治療する気にはなれなかった。
お母さんはできる治療はなんでも試しましょうって言ったけど……残された時間を治療に費やしたくなかった。
数ヶ月、何事もなかったかのように普通の高校生として学校生活を楽しみたかった。
私の人生まだまだこれからだったんだけどな……自分の病気なのに、何故か実感がわかなくて、先生の話を聞きながらも泣くことはなく、淡々と話を聞いていた。
でも、先生の話の後、看護師さんと二人で話していると涙がポロポロと溢れてくる。
どうしてだろう……告知されても涙は出なかったのに……
「辛いことがあったらなんでも連絡してもらって大丈夫だから。些細なことでも大丈夫。これから一緒に治療していきましょうね」
「……はい」
「ティッシュしかないんだけど、良かったら使って」
そういって差し出されたティッシュで涙を拭うも、なかなか止まらない涙に、「焦らなくていいからね」と優しく声をかけてもらえ、また涙が溢れてきてしまった。
ケア看護師さんとの話が終わり、待合室に戻るとお母さんがぎゅっと抱きしめてくれた。
「こんなに目を真っ赤にして……さっきは取り乱してごめんね。辛いのは美月なのに……お母さんも一緒に頑張るから」
「お母さん……」
「もうすぐ学校始まるけど、無理しなくていいからね。体育も先生に説明しておやすみさせて貰うから」
学校は行きたい。柊真と同じ高校行くために頑張ってきたんだもん。
体が動くうちは学校生活を満喫したい。私の最後の青春……
体育は多分無理そうな気がするから見学させて貰うことになるけど……みんなには体が弱いとか適当に嘘つくしかないかな。
病気のこと知られて気を遣われるのも居心地悪そうだから……
悔いなく過ごしたい。
この想いが実らなくても、私の気持ちを知ってほしい。
そう思い、告知されたその日の夜、柊真を公園に呼び出した。
桜が街頭に照らされ、風が吹くたびにひらひらと舞い落ちる花びらを見ながら、私の命もゆっくりと散っていってるんだなと思った。
「美月、待たせたか?」
「ううん。大丈夫」
「春とはいっても夜は冷えるんだから、風邪ひくぞ」
そういうと、羽織っていたパーカーを脱ぎ、私の肩にかけてくれた。
優しいな。柊真のそういうところ好きだよ。
「それで? わざわざ会って言うほどのことってなんだ?」
そうだよね。私が柊真のこと好きだなんて気付いてないもんね。
驚くかな? 嫌がられるかな? それとも……どっちでもいい。気持ちを伝えたい。
「柊真、あのね。私、ずっとあなたのこと好きだったの。付き合ってくれる?」
「え……? あ、マジ? うわっ、マジか……え、いや、その俺でいいなら……」
口元を手で覆い、驚きを隠せないようだったが、何故か了承してくれた。
これは……本当に良いのかな。
「いいの?」
「いや、ごめ、ちょっと驚いただけ。俺も……その、好きだったから、付き合って欲しい」
「……え? そうなの?」
「あー……、いや、なんかこの関係壊すのが勿体無くて、言えなかったんだよな。だから、美月から言われて驚いたって言うかさ。美月から言わせてダセェなって思った……」
うそ……両思いだったなんて……こんなことならもっと早く気持ちを伝えておけばよかった。
そうしたら、もう少し長く恋人として過ごすことができたのに……
柊真、病気のこと何も告げずに、告白してごめんね。
あなたに何も告げずに逝くことになるだろう。残酷なことをしているとわかってる。
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