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四章 行き着く先は
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今日は、悠と浴衣デートの日だ。
昨日から浴衣を眺めては、早く明日にならないかなって浮かれていた。
淡いピンク色にラベンダー色で模様が入っていて、桜の帯が可愛い。
着物屋さんで買った浴衣だから生地もしっかりとした作りでお気に入りだ。
インターハイはどうだったかというと、一回戦目は接戦の末、勝つことが出来たけど、二回戦目で相手のディフェンス力が高く、思うように得点を重ねることが出来ず敗退してしまった。
去年は足を踏み入れることも出来なかったインターハイという舞台に今年は立つことが出来た。負けて悔しくないわけじゃないけど、それでも楽しかったのだと悠は言った。
「いろはー、悠くんが迎えにきたわよー」
「はーい」
外に出ると、黒い浴衣をきた悠が待っていた。
小さい頃は甚平だったけど、浴衣姿格好良い……いつもと雰囲気が違って、大人な感じがしてドキドキしてしまう。
「浴衣……いいな。似合ってるよ、いろは」
「ありがとう。悠もすごい似合ってるね」
「そうか? 甚平は着たことあったけど、浴衣は初めてだから、なんか着慣れないな」
「子供の頃は甚平だったもんね。大きくなってからお祭りは普通に服で行ってたのかな?」
「そうだな。中学からは友達と祭りいくようになったから、みんな普通に服で行ってたな。いろはは、小さい頃、帯の後ろが金魚みたいにヒラヒラしてて可愛かったよな」
「スカートみたいな浴衣に後ろがヒラヒラしてたんだよね。よく覚えてるね! あの時は、ああいう浴衣が好きだったんだよね。流石に今は落ち着いた浴衣が好きだけどね」
「その時の年齢によって好みも変わっていくからな。あの頃のも可愛くて似合ってたけど、今日の浴衣もすごい似合ってるな」
「へへ、ありがと」
「じゃ、行こうか」
「うん」
当たり前のように差し出された手に、喜びを感じながら手を重ねた。
私と悠では身長差があるため、歩く速さも違うはずなのに、私に合わせてゆっくり歩いてくれてるんだなと、ちょっとしたことでも嬉しくなってしまう。
お祭りの会場に着くと、すぐにりんご飴の屋台が視界に入ってきた。
お祭りの思い出といえば、私の中ではりんご飴だ。だから、ついつい店を通り過ぎる時に目で追ってしまった。
「本当にいろはは分かり易いな。りんご飴買いたいんだろ?」
「今すぐ食べたいってわけじゃないんだけど、可愛いから持って歩きたいなって」
「じゃ、買ってくか。俺もあとでゆっくり食べるかな」
「え? りんご飴好きなわけじゃないって言ってなかったっけ?」
「いろはとベンチに並んで座りながら食べるりんご飴が好きなんだよ」
「覚えててくれたんだね……私もね、向こうにいる時、りんご飴食べながら悠と一緒に食べたなって思い出してたんだ」
「忘れるわけないだろ? 大事な思い出だよ」
「いつもお祭りでは全部食べきれなくて、家に帰ってから残りを食べたよね。お祭り楽しかったなって余韻を感じながら食べるりんご飴が本当に好きなんだよね」
「じゃ、今日も残りは家で食べないとな?」
「うん」
お祭りにきたばかりで、りんご飴なんて買ったら見て回るのに邪魔になりそうなのに、悠まで私に付き合って買ってくれた。
この後も、かき氷やたこ焼き、焼きそばと悠が奢ってくれた。
私もバイトしてるから大丈夫だって言ったんだけど、部活頑張ったご褒美だとお小遣いを貰ったから格好つけさせて欲しいって言われてしまった。
折角、悠が頑張ってインターハイ出場して得たお小遣いなのに、自分のために使わなくていいのかな。
でも、格好つけさせて欲しいと言われてしまえば、その言葉に甘えた方がいいのかなと思い、ご馳走になることにした。
「いろはには、今までカフェラテやレモネード作ってもらったり、リストバンドやお守りまでくれただろ? だから、お礼も兼ねて奢らせて欲しいんだ」
「私がしたくてしたことだから気にしなくていいけど……じゃあ、お言葉に甘えるね」
「たくさん甘えてくれて構わないけどな」
「甘やかしすぎは禁止! なんか駄目な子になりそう……」
「いろはがどうなろうと俺の気持ちは変わらないからな」
「うー……最近の悠って言うことが甘い気がする」
「数年分の想いが決壊して溢れてる感じなんだよな。気持ち伝えたいなっていう想いが強くなっていっててさ」
「そうなんだ……えっと、それは嬉しいかな」
「そろそろりんご飴食べるか?」
「うん、そうしよー」
お祭りの会場を後にし、公園のベンチに並んで腰をかけてりんご飴をを齧る。
しばらく持って歩いてたから、暑さで飴が溶けて食べやすくなっていた。
買ってすぐだと飴が硬くて少し食べにくいんだよね。
可愛い見た目で、ついつい買ってしまうけど、大きいから一度で全て食べるのは結構きついんだよね。
だから、今日も半分食べて、残りは家でクーラーで涼みながら食べることにした。
「今日は、いろはの浴衣姿も見れて、楽しかった」
「私もすごく楽しかった。昔を懐かしく感じながらも、恋人として初めてのお祭りを新鮮な気持ちでも過ごすことが出来て、本当に楽しかったよ」
「さてと、そろそろ帰るか。あまり遅くなるとおばさんが心配するからな」
「そうだね……」
楽しかった分だけ、終わりが近づくと寂しさが増していく。
名残惜しい気持ちを隠しつつ、家に入ろうとドアを開けたところで、「いろは」と悠に声をかけられ、振り返ると軽く触れるだけのキスを不意にされて、固まってしまう。
「いろは、おやすみ」
そういって、悠は隣の家へと入っていった。
え……? 今キスされたよね? え、うそうそ。
ファーストキス……嬉しい……嬉しいんだけど……もっと余韻に浸りたかった!
欲をいえば、キスの後抱きしめてくれたらもっと嬉しかったけど、ファーストキスに願望を抱きすぎているのかもしれない。
漫画の読みすぎかな……
今日は一日中悠のことで頭がいっぱいで、興奮して眠れそうにないなと思った。
シャワーを浴び、汗を流してさっぱりすると、クーラーの効いたリビングでりんご飴の袋を開ける。
いつもは、食べながらお祭りの時こうだったなあーだったなって思い返すのに……今日ばかりはどうしてもキスのことばかりが思う浮かんでしまう。
少し触れるだけで一瞬だったため、唇の柔らかさなど感じてる余裕もなかった。
セカンドキスは、もっとゆっくり……って何考えてるんだろう。もう、恥ずかしい……
男の人って感じがしたな……昔は、手を引いてお店を駆け回っていたのに。
何も知らない純粋に一緒にいることが楽しいだけだった幼き日々を懐かしく感じながら、りんご飴を食べた。
end.
昨日から浴衣を眺めては、早く明日にならないかなって浮かれていた。
淡いピンク色にラベンダー色で模様が入っていて、桜の帯が可愛い。
着物屋さんで買った浴衣だから生地もしっかりとした作りでお気に入りだ。
インターハイはどうだったかというと、一回戦目は接戦の末、勝つことが出来たけど、二回戦目で相手のディフェンス力が高く、思うように得点を重ねることが出来ず敗退してしまった。
去年は足を踏み入れることも出来なかったインターハイという舞台に今年は立つことが出来た。負けて悔しくないわけじゃないけど、それでも楽しかったのだと悠は言った。
「いろはー、悠くんが迎えにきたわよー」
「はーい」
外に出ると、黒い浴衣をきた悠が待っていた。
小さい頃は甚平だったけど、浴衣姿格好良い……いつもと雰囲気が違って、大人な感じがしてドキドキしてしまう。
「浴衣……いいな。似合ってるよ、いろは」
「ありがとう。悠もすごい似合ってるね」
「そうか? 甚平は着たことあったけど、浴衣は初めてだから、なんか着慣れないな」
「子供の頃は甚平だったもんね。大きくなってからお祭りは普通に服で行ってたのかな?」
「そうだな。中学からは友達と祭りいくようになったから、みんな普通に服で行ってたな。いろはは、小さい頃、帯の後ろが金魚みたいにヒラヒラしてて可愛かったよな」
「スカートみたいな浴衣に後ろがヒラヒラしてたんだよね。よく覚えてるね! あの時は、ああいう浴衣が好きだったんだよね。流石に今は落ち着いた浴衣が好きだけどね」
「その時の年齢によって好みも変わっていくからな。あの頃のも可愛くて似合ってたけど、今日の浴衣もすごい似合ってるな」
「へへ、ありがと」
「じゃ、行こうか」
「うん」
当たり前のように差し出された手に、喜びを感じながら手を重ねた。
私と悠では身長差があるため、歩く速さも違うはずなのに、私に合わせてゆっくり歩いてくれてるんだなと、ちょっとしたことでも嬉しくなってしまう。
お祭りの会場に着くと、すぐにりんご飴の屋台が視界に入ってきた。
お祭りの思い出といえば、私の中ではりんご飴だ。だから、ついつい店を通り過ぎる時に目で追ってしまった。
「本当にいろはは分かり易いな。りんご飴買いたいんだろ?」
「今すぐ食べたいってわけじゃないんだけど、可愛いから持って歩きたいなって」
「じゃ、買ってくか。俺もあとでゆっくり食べるかな」
「え? りんご飴好きなわけじゃないって言ってなかったっけ?」
「いろはとベンチに並んで座りながら食べるりんご飴が好きなんだよ」
「覚えててくれたんだね……私もね、向こうにいる時、りんご飴食べながら悠と一緒に食べたなって思い出してたんだ」
「忘れるわけないだろ? 大事な思い出だよ」
「いつもお祭りでは全部食べきれなくて、家に帰ってから残りを食べたよね。お祭り楽しかったなって余韻を感じながら食べるりんご飴が本当に好きなんだよね」
「じゃ、今日も残りは家で食べないとな?」
「うん」
お祭りにきたばかりで、りんご飴なんて買ったら見て回るのに邪魔になりそうなのに、悠まで私に付き合って買ってくれた。
この後も、かき氷やたこ焼き、焼きそばと悠が奢ってくれた。
私もバイトしてるから大丈夫だって言ったんだけど、部活頑張ったご褒美だとお小遣いを貰ったから格好つけさせて欲しいって言われてしまった。
折角、悠が頑張ってインターハイ出場して得たお小遣いなのに、自分のために使わなくていいのかな。
でも、格好つけさせて欲しいと言われてしまえば、その言葉に甘えた方がいいのかなと思い、ご馳走になることにした。
「いろはには、今までカフェラテやレモネード作ってもらったり、リストバンドやお守りまでくれただろ? だから、お礼も兼ねて奢らせて欲しいんだ」
「私がしたくてしたことだから気にしなくていいけど……じゃあ、お言葉に甘えるね」
「たくさん甘えてくれて構わないけどな」
「甘やかしすぎは禁止! なんか駄目な子になりそう……」
「いろはがどうなろうと俺の気持ちは変わらないからな」
「うー……最近の悠って言うことが甘い気がする」
「数年分の想いが決壊して溢れてる感じなんだよな。気持ち伝えたいなっていう想いが強くなっていっててさ」
「そうなんだ……えっと、それは嬉しいかな」
「そろそろりんご飴食べるか?」
「うん、そうしよー」
お祭りの会場を後にし、公園のベンチに並んで腰をかけてりんご飴をを齧る。
しばらく持って歩いてたから、暑さで飴が溶けて食べやすくなっていた。
買ってすぐだと飴が硬くて少し食べにくいんだよね。
可愛い見た目で、ついつい買ってしまうけど、大きいから一度で全て食べるのは結構きついんだよね。
だから、今日も半分食べて、残りは家でクーラーで涼みながら食べることにした。
「今日は、いろはの浴衣姿も見れて、楽しかった」
「私もすごく楽しかった。昔を懐かしく感じながらも、恋人として初めてのお祭りを新鮮な気持ちでも過ごすことが出来て、本当に楽しかったよ」
「さてと、そろそろ帰るか。あまり遅くなるとおばさんが心配するからな」
「そうだね……」
楽しかった分だけ、終わりが近づくと寂しさが増していく。
名残惜しい気持ちを隠しつつ、家に入ろうとドアを開けたところで、「いろは」と悠に声をかけられ、振り返ると軽く触れるだけのキスを不意にされて、固まってしまう。
「いろは、おやすみ」
そういって、悠は隣の家へと入っていった。
え……? 今キスされたよね? え、うそうそ。
ファーストキス……嬉しい……嬉しいんだけど……もっと余韻に浸りたかった!
欲をいえば、キスの後抱きしめてくれたらもっと嬉しかったけど、ファーストキスに願望を抱きすぎているのかもしれない。
漫画の読みすぎかな……
今日は一日中悠のことで頭がいっぱいで、興奮して眠れそうにないなと思った。
シャワーを浴び、汗を流してさっぱりすると、クーラーの効いたリビングでりんご飴の袋を開ける。
いつもは、食べながらお祭りの時こうだったなあーだったなって思い返すのに……今日ばかりはどうしてもキスのことばかりが思う浮かんでしまう。
少し触れるだけで一瞬だったため、唇の柔らかさなど感じてる余裕もなかった。
セカンドキスは、もっとゆっくり……って何考えてるんだろう。もう、恥ずかしい……
男の人って感じがしたな……昔は、手を引いてお店を駆け回っていたのに。
何も知らない純粋に一緒にいることが楽しいだけだった幼き日々を懐かしく感じながら、りんご飴を食べた。
end.
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