【完結】余韻を味わう りんご飴

Ria★発売中『簡単に聖女に魅了〜』

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四章 行き着く先は

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 悠の練習の邪魔になったら駄目だと思い、碧くんと一緒に観に行った日から体育館に行くのはやめた。
 だから、バイトがない日は家で悠の部活が終わるのをまったりと待っている。

 「暇なら練習観てから帰ってくれば良いのに」

 「邪魔したくないの!」

 「邪魔って言われたわけじゃないんでしょ?」

 「そうだけど……邪魔だと思ってても、そういうのって言いづらいでしょ? 少し察してあげないと」

 「お母さんは、察する方向が違うと思うけどね」

 「そうかなぁー」

 察する方向ってなんだろう。他にも察しないといけないことあるのかな。
 悠も何か悩んでるなら話して欲しいなって思うけど……私じゃ頼りないし、話せないか……

 なんだかんだで、明後日は母の日かー。
 カレーの材料はちゃんと買ってあるから、大丈夫。
 当日は小さなブーケを買って、テーブルに飾ったりすればいいかな。
 お母さんが食器好きだから、可愛い食器がたくさんあって、良い感じにテーブルセット出来そうで良かった。
 フルーツの盛り合わせは、透明のガラスの容器にして涼しげな感じにしよっと。

 日曜日のことをあれこれと考えていると、インターフォンが鳴った。
 きっと悠だ。
 この時間にインターフォンが鳴ると、お母さんは気を利かせてキッチンへと下がっていく。
 
 「悠、おかえり。お疲れ様」

 「ただいま」

 一度家に帰ってシャワーを浴びたからか、髪がまだしっとりしていた。
 ちゃんと乾かさないと風邪引いちゃうかもしれないのに。
 
 「悠、カフェラテ入れてる間、ドライヤー使って? 風邪引いたら大変だから」

 「あー……じゃあ、借りるな」

 「うん、持ってくるね」

 ゆっくり髪を乾かしてから来ても良かったのに、急いで来てくれたのかな。
 それにしても、一日おきにカフェラテ飲んでるわけだけど、飽きないのかな?
 私は毎日同じのでも大丈夫なタイプだけど……部活の後だし、レモネードとか作ってあげた方がいいかな。
 炭酸で作ってあげれば、さっぱりで飲みやすいし疲労回復にもいいと思うんだけどな。

 「悠、お待たせ。はい、どうぞ」

 「あぁ、いつもありがとな」

 「ねぇ、悠。こだわりがなければなんだけど、カフェラテじゃなくて、レモネードとかどうかな? 私シロップ作るから炭酸で割ったらどうかなって思って」

 「え……? カフェラテじゃなきゃいけない理由はないけど……いろはが作ってくれるならなんでもいい」

 「いいの? ほら、運動の後だし、レモンとかとったほうがいいかなって思ったんだけど」

 「いろはが俺のこと考えて、そうしたいって思ってくれるのであれば、レモネードでも歓迎だよ」

 「じゃ、次からレモネードにするね。カフェラテはたまに作る感じにしようか」

 「任せる。……なぁ、いろは」

 「ん?」

 「最近、練習観に来ないのな」

 「え、あー……練習の邪魔になるかなって思って、控えてるんだよね」

 「邪魔なんて思ったことねーよ。なんでそう思ったんだよ」

 てっきり、邪魔になってるんだと思ってたから、いかないようにしてたんだけど、そんなことなかったのかな。
 この感じだと、なんで来ないんだよって言われてるのかな?

 「最後に観に行った時、嫌な顔してたなって思ったんだけど……それに気が散ってシュート外しちゃったりしたのかなって思ったんだけど……」

 「あー……あれはだな……はぁ、自分が情けないな」

 「悠……?」

 この話になると、なぜか歯切れが悪くなるんだよね。
 言いたいことがあるなら言ってくれればいいのに……

 「俺さ、いろはに誤解させるようなことばかりしてるな。はっきり言わない俺が悪いんだけどさ……」

 「誤解って?」

 「本当は、夏の大会が終わるまで待とうって思ってたんだ。でも……あいつの存在が気になりすぎて、無理」

 「あいつ? 悠、何を言ってるのか……」

 あいつって誰のことだろう。
 気になってるって……好きな人出来たのかな。

 やだなと、顔を俯けると、そっと悠が私の手を握った。
 
 「いろは、急にこんなこと言われて驚くかもしれないけど……俺、ずっといろはのこと好きだったんだ」

 「え……?」

 悠が私を好き? ずっと……? え、でも、瑞樹ちゃんと付き合ってたよね?
 どういうことなのかと、疑いの目をむけてしまった。

 「あー、そうだよな。信じられないよな……。俺さ、いろはのこと好きなのに、栗原と付き合ったんだ」

 「どうして……」

 「いろはがこっちに戻ってくるとは思わなかったから忘れようと思って、その時のノリでお試しで付き合うことになったんだ」

 「お試しって……瑞樹ちゃんはそれでオッケーしたの?」

 「栗原も俺が自分のこと好きじゃないことをわかった上で、お試しで付き合いを了承したんだよ。でも……結局、栗原を傷つけただけになったな」

 「そんな……」

 悠に好きって言われて嬉しいのに……素直に喜べない。
 瑞樹ちゃんはどれだけ傷ついたのだろう……
 だから、あんなにも私と悠の昔の話に過敏に反応していたんだね。

 悠も瑞樹ちゃんを傷つけたかもしれないけど、私も何も知らずに彼女を傷つけちゃってたんだな……

 「栗原と別れたばかりだし、夏の大会が終わるまで言うのは待とうと思ってたんだけど、あいつが……バイト先でも学校でも仲良さそうにしてるから我慢ならなくて……」

 「あいつって、碧くんのこと? 彼とは、別にそういうんじゃ……バイト先では、仕事教えてもらってるだけだし、この前だってたまたま出会して、バスケ観に行っただけで、待ち合わせとかしてたわけじゃないよ?」

 「そうなんだろうなってわかってはいるんだ。でも、二人で並んでる姿を見ると、どうにも……情けないだろ?」

 「悠……」

 「俺の気持ちを知って欲しかっただけなんだ。これから幼馴染としてだけでなく、男として意識してもらえるようにって思ってさ。大会が終わったら、改めて言わせて欲しい。そして、その時に返事が欲しい」

 「わかった……」

 既に悠を幼馴染としてだけでなく、一人の男性として好きだけど、今は言えない。
 どうしても瑞樹ちゃんの顔がチラついてしまうから……だって、まだ二人は別れたばかり……
 すぐに、私が悠と付き合ったら……ううん。今すぐじゃなくても後でも傷つけることには変わりないか……

 それでも、返事をするのが夏の大会の後になったのは、気持ちの整理をする上でもいいと思った。
 
 

 
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