【完結】余韻を味わう りんご飴

Ria★発売中『簡単に聖女に魅了〜』

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四章 行き着く先は

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 「ここから二階の通路に行けるんだけど、今からお喋り駄目だからね?」

 「了解。それにしても、体育館の入り口女子の数が凄いな」

 「バスケ部ってモテるよね……」

 「ほら、行くぞ」

 「はーい」

 体育館の二階に上がりながら、入り口を見ると、学年問わず多くの女子が見学していた。
 この中のどれだけの人が悠のこと好きなんだろう……はぁ、ライバルがいっぱいだなー……

 あ、悠がこっちに気付いた。
 小さく手を振ると、眉間に皺を寄せて不機嫌そうな顔をした。

 あれ、今日は見にこないほうが良かったのかな……
 うーん……来たばかりだけど、帰ったほうがいいかなと思っていると、碧くんがスマホの画面を私に向ける。
 なんだろうと思っていると、メッセージが入力されていた。

 『彼のポジションってそういえばなんなの?』

 あー、喋ったらいけないから、スマホでやり取りしようってことか。
 私もスマホを取り出し、文字を入力してメッセージを送る。

 『悠は、得点を入れるのが役割だよ』

 すると、隣から「ふっ」っと笑い声が聞こえた。
 碧くんを見ると、コートに背を向け、口を押さえて笑いを堪えていた。
 えー? 笑うような会話してなかったと思うんだけど……

 『俺、先帰るな』

 え……? 早っ⁉︎  練習全然見てないのに?
 すると、去り際に私の耳元で「彼は分かりやすいね」と囁いて帰っていった。

 何が……? え? 碧くんは何を言ってるんだろう……
 むー、全然分からないよ。
 
 しばらく一人で、練習を見ていたけど、今日は調子が悪いのかシュートをよく外していた。
 もしかして、調子が悪かったから見にきて欲しくなかったとかなのかな。スランプじゃないといいけど……
 あとで、うちに来るし、今日はこの辺で帰っておこうかな。

 ◆ ◆ ◆

 部活終わりにうちに来た悠は、やっぱり元気がないみたいで心配。
 練習順調じゃないのかな……

 「悠、大丈夫?」

 「ん? 何が?」

 「その、練習見てたけど、調子よくないのかなって思って。今も元気なさそうに見えるから……」

 「あぁ……俺って、メンタル弱いんだなって実感したところだな」

 「え……」

 「どんな時でも心乱されることなく、シュート決めていかないといけないのにな」

 「あの、為になるアドバイスとか出来ないけど、応援してるから……」

 こういう時、何か良い言葉を掛けてあげられればいいのに、私には経験がないから、的確なアドバイスも出来ない……
 応援する事しかできないって歯がゆいな。

 「応援……いつも一人で来てたのに、今日はあいつと一緒だったな」

 「体育館行く時に、碧くんと会ったんだけど、バスケ部の練習見に行くって言ったら、彼も見に行きたいって言うから、一緒に行ったんだけど……駄目だったかな? 邪魔にならないように喋らないようにしてたんだけど……」

 二階で見るのは一人で見る人専用とかそういうのじゃなかったはずだけど……

 「はぁ……いや、別に駄目じゃないけど……もう帰るな。カフェラテご馳走様。いつもありがとな」

 「え……、あ、うん。どういたしまして」

 結局、悠を元気付けることは出来なかったな。
 碧くんと練習見に行ったの良くなかったかもしれないな。悠の反応がちょっと悪かったし……
 気が散っちゃったのかな。でも、入り口の大勢の女子たちを気にしないのに、碧くんが来たくらいで気が散るかな……うーん。わからない。

 「唸ってどうしたのよ」

 「あ、お母さん……悠の機嫌がよくなさそうだなって思って……。あと、今日調子が悪かったみたいでシュート外してたんだけど、良い言葉かけてあげることが出来なかったんだよね。なんかメンタル弱いとか言ってたかな」

 「メンタルが弱いなんて、そういうタイプには見えなかったけど、何があったのかしらね」

 「詳しく教えてくれないからわからないんだよね。でも、今日碧くんが練習見に来たこと少し気にしてたみたい」

 「え? 碧くんも一緒に見に行ったの?」

 「うん、行く途中であったんだけど、行くって言うから……え、駄目だったの?」

 「駄目っていうか……いや、駄目ね」
 
 「えっ⁉︎  なんで⁉︎  お喋りしてないし、邪魔してないんだけど……」

 「練習中に、いろはと碧くんが仲良く見に来て、気になっちゃったんじゃないの?」

 「仲良くって……普通に見てただけだけど……」

 「お母さん、悠くんの気持ちわかるわー。いろはは少し男心を学ぶべきね」

 「えー……」

 なんでお母さんが悠の気持ちわかるのよ。一緒にいた時間は私の方が長いのに。
 
 「悠くんのことを考えるなら、練習は一人で観に行くべきだったわね」

 「うーん、そうなのかな。次からは一人で観にいくね」

 「そうしてあげなさい。いろはが一人で観に来てくれたら、悠くん練習にも精が出ると思うわよ」

 「そうかな? 私が応援したら頑張れるって悠言ってくれてたんだよね。だから、時々練習見に行ってるんだけど……今日は本当にたまたま碧くんに会ったから一緒に行っただけなんだよね。お母さんのアドバイスをしっかり聞くことにするね」

 せっかく悠が練習頑張ってるのに、私がその邪魔をするようなことをしたら駄目だよね。
 見に行かない方が邪魔にならないのかも……? いや、応援してほしいって言われてるし……あれ? でも、練習見に来てほしいとは言われてないかな。大会応援来てほしいとは言われてたけど……

 あれ? 練習見に行かない方がいいってことじゃ…… 
 
 
 
 
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