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三章 新しい経験
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今日は土曜日ということで、初めて長時間勤務の日だ。
平日二回の勤務をこなし、碧くんの後ろでメニューを取る様子を勉強した。
メニューはまだ完璧とは言えないけど、よく注文されるものは覚えた。
初めて一人で注文を受けるんだと思うと、楽しみなようで、大丈夫かと心配とで気持ちが忙しかった。
「緊張しすぎ」
「いや、だって、お客様にとろいなこいつとか思われたくないし……」
「初めから完璧にしようって思うと失敗するから、力まず笑顔だけを心がけてやってみ」
「笑顔だけ?」
「そっ、ほら、笑ってみ」
「急にそんなこと言われても……」
とりあえず、口角をあげてニッと笑ってみせると、「なんだよそれ」と笑われてしまった。
「笑えって言ったの碧くんなのに……」
「はいはい、ごめんな? そうだ、ちょっと待ってな」
そういうと、スマホを取り出し、何やら写真を探しているようだった。
急にどうしたんだろう。
「ほら、これ、どうよ?」
「ん? ラテアート? お腹ぽっこりパンダ可愛すぎるー!」
「だろ? これ、俺が作ったラテアート」
「え……えっ⁉︎」
この可愛いパンダのラテアートが碧くん作⁉︎
イメージと違いすぎて、驚いた。
「親が店やってると自然とこういうのに興味持つようになるんだよなー。中学の時から練習してたから、今はいろんな種類のラテアート作れるんだ」
「すごい……」
「よしっと、これで少し力抜けただろ。休憩の時におんなじの作ってやるから今日一日頑張れよ」
「あ……ありがとう。がんばるね」
私が緊張してたから、気を逸らせるために写真を見せてくれたんだね。
優しいな……
あの可愛いラテアートのカフェラテが飲めると思えば、頑張らないとだね。
「「いらっしゃいませ」」
一人目のお客様が来店された。よしっ、笑顔笑顔っと……
この木漏れ日では常連のお客様が多く、好きな席に腰をかけたところで、お冷をお出しするとそれと同時にすぐにコーヒーを注文される。
コーヒーが来るまでの間にメニューを見て何を食べるのか選ばれるので、とりあえずは落ち着いて注文を受ければ問題ない。
「失礼致します。お冷とおしぼりをお持ちしました」
「あぁ、ありがとう。それと、コーヒーブラックで頼むよ」
「ブラックでございますね。かしこまりました」
やりとりは本当に一瞬で少し言葉を交わしただけで終わった。
はぁ、緊張した。声裏返ったりしてなかったよね。大丈夫だったよね?
「はい、おかえり。注文なんだって?」
「ブラックって言ってた」
「了解。今入れるから待ってな」
「はーい」
この店は、豆から挽いてコーヒーを入れているため、コーヒーの注文が入ると店内に良い香りが広がる。
お客様はその香りを楽しみにしているのもあるかもしれない。
急いでコーヒーを持ってきてという方はいない。
このゆったりと待つ時間をも楽しんでいらっしゃるので、本当に大人なお店だなと感心してしまう。
ほら、今も先ほどのお客様が店の一角に置いてある小説コーナーに本を取りに行っている。
普段小説とか読まないけど、なんとなく私も読んでみようかなって気にさせるから不思議なものだ。
お店を手伝ったり、ラテアートの練習をしたりしてたから、碧くんはこの店を継ぐってことなんだろうな。
そうなると、大学とかってどうするんだろう? いくのかな?
「ねね、碧くんって大学ってどうするかとかもう決めてたりする?」
「ん? あー、大学はいっとけっていうから、とりあえず経営学を学ぼうかなって思ってるけど、どこの大学にするかはまだ決めてないな」
「なるほど。店長が大学行けって言わなかったら、そのままここで働いてた?」
「そうだな」
「もし、私がずーっとここでバイト続けてたら、店長が碧くんに変わったなんてこともあるのかな」
「柚木が大学卒業後もここでバイトしてたら、俺が雇うことになってるかもな?」
「おぉー、なんかすごい」
同級生に雇ってもらうってなんか面白い。
碧くんは、将来のイメージがしっかりと固まってるみたいで羨ましい。
って、私この前から人のこと羨んでばかりじゃない……?
でも、他のバイトする気にはならないと思うから、受験の時に一旦お休みさせてもらったとしても、大学生になってもここで働いてると思うな。
悠は、きっと大学でもバスケやると思うから、バイトとかする暇もないんだろうな。
地区大会優勝してインターハイに進めば、大学から推薦の誘いとかもあると思う。
悠ならきっと大丈夫。自然とインターハイの舞台で走り回ってる姿が目に浮かぶもの。
平日二回の勤務をこなし、碧くんの後ろでメニューを取る様子を勉強した。
メニューはまだ完璧とは言えないけど、よく注文されるものは覚えた。
初めて一人で注文を受けるんだと思うと、楽しみなようで、大丈夫かと心配とで気持ちが忙しかった。
「緊張しすぎ」
「いや、だって、お客様にとろいなこいつとか思われたくないし……」
「初めから完璧にしようって思うと失敗するから、力まず笑顔だけを心がけてやってみ」
「笑顔だけ?」
「そっ、ほら、笑ってみ」
「急にそんなこと言われても……」
とりあえず、口角をあげてニッと笑ってみせると、「なんだよそれ」と笑われてしまった。
「笑えって言ったの碧くんなのに……」
「はいはい、ごめんな? そうだ、ちょっと待ってな」
そういうと、スマホを取り出し、何やら写真を探しているようだった。
急にどうしたんだろう。
「ほら、これ、どうよ?」
「ん? ラテアート? お腹ぽっこりパンダ可愛すぎるー!」
「だろ? これ、俺が作ったラテアート」
「え……えっ⁉︎」
この可愛いパンダのラテアートが碧くん作⁉︎
イメージと違いすぎて、驚いた。
「親が店やってると自然とこういうのに興味持つようになるんだよなー。中学の時から練習してたから、今はいろんな種類のラテアート作れるんだ」
「すごい……」
「よしっと、これで少し力抜けただろ。休憩の時におんなじの作ってやるから今日一日頑張れよ」
「あ……ありがとう。がんばるね」
私が緊張してたから、気を逸らせるために写真を見せてくれたんだね。
優しいな……
あの可愛いラテアートのカフェラテが飲めると思えば、頑張らないとだね。
「「いらっしゃいませ」」
一人目のお客様が来店された。よしっ、笑顔笑顔っと……
この木漏れ日では常連のお客様が多く、好きな席に腰をかけたところで、お冷をお出しするとそれと同時にすぐにコーヒーを注文される。
コーヒーが来るまでの間にメニューを見て何を食べるのか選ばれるので、とりあえずは落ち着いて注文を受ければ問題ない。
「失礼致します。お冷とおしぼりをお持ちしました」
「あぁ、ありがとう。それと、コーヒーブラックで頼むよ」
「ブラックでございますね。かしこまりました」
やりとりは本当に一瞬で少し言葉を交わしただけで終わった。
はぁ、緊張した。声裏返ったりしてなかったよね。大丈夫だったよね?
「はい、おかえり。注文なんだって?」
「ブラックって言ってた」
「了解。今入れるから待ってな」
「はーい」
この店は、豆から挽いてコーヒーを入れているため、コーヒーの注文が入ると店内に良い香りが広がる。
お客様はその香りを楽しみにしているのもあるかもしれない。
急いでコーヒーを持ってきてという方はいない。
このゆったりと待つ時間をも楽しんでいらっしゃるので、本当に大人なお店だなと感心してしまう。
ほら、今も先ほどのお客様が店の一角に置いてある小説コーナーに本を取りに行っている。
普段小説とか読まないけど、なんとなく私も読んでみようかなって気にさせるから不思議なものだ。
お店を手伝ったり、ラテアートの練習をしたりしてたから、碧くんはこの店を継ぐってことなんだろうな。
そうなると、大学とかってどうするんだろう? いくのかな?
「ねね、碧くんって大学ってどうするかとかもう決めてたりする?」
「ん? あー、大学はいっとけっていうから、とりあえず経営学を学ぼうかなって思ってるけど、どこの大学にするかはまだ決めてないな」
「なるほど。店長が大学行けって言わなかったら、そのままここで働いてた?」
「そうだな」
「もし、私がずーっとここでバイト続けてたら、店長が碧くんに変わったなんてこともあるのかな」
「柚木が大学卒業後もここでバイトしてたら、俺が雇うことになってるかもな?」
「おぉー、なんかすごい」
同級生に雇ってもらうってなんか面白い。
碧くんは、将来のイメージがしっかりと固まってるみたいで羨ましい。
って、私この前から人のこと羨んでばかりじゃない……?
でも、他のバイトする気にはならないと思うから、受験の時に一旦お休みさせてもらったとしても、大学生になってもここで働いてると思うな。
悠は、きっと大学でもバスケやると思うから、バイトとかする暇もないんだろうな。
地区大会優勝してインターハイに進めば、大学から推薦の誘いとかもあると思う。
悠ならきっと大丈夫。自然とインターハイの舞台で走り回ってる姿が目に浮かぶもの。
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