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三章 新しい経験
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「あ、いろはちゃん。さっき飲み物買いに行った時に、瑞樹ちゃんとすれ違ったよ」
「体調良くなったのかな」
「んー……顔色は悪くなかったと思うけど、表情が硬いのが気になったかな」
「何かあったのかな」
「わかんないけど、声掛ける雰囲気じゃなかったかなー」
「そっか……」
せっかく体調戻って学校来たのに何かあったんだろうか。
悠も昼休みに入ってすぐ教室を出て行っちゃったけど、どこ行ったんだろう。
悠がいないから、木村くんがつまらなさそうに一人でパン食べててちょっと可哀想かも。
「悠、おせーよー。どこまで飲み物買いに行ってるんだか……」
「宮本くん飲み物買いに行ってるの? 私さっき自販機行ったけど、宮本くんとはすれ違いもしなかったけど」
「えー……体育館のところまで買いに行ってるとかじゃないよな」
「そこにしか売ってない宮本くんが好きな飲み物でもあるわけ?」
「いや、ないな。どこ行ったんだよー」
昼休みに入って十分ほど経ってから悠が教室へと戻ってきたが、なんか表情が冴えない気がした。
瑞樹ちゃんといい、悠といい、みんな色々あるんだな。
そういうお年頃といえば、そうなのかもだけど。
「悠、どこ行ってたんだよ。遅すぎじゃね? 俺もう食べ終わったんだけど」
「充は食べるの早すぎなんだよ。もっとよく噛んで食べろよ」
「お前は、俺のオカンか」
「さてと、いただきます。充、食べ終わったなら、もう体育館行ってもいいぞ。俺、今日寝不足だから昼はちょっと寝る」
え……悠が寝不足?
朝練とかあるから夜は早めに寝るようにして体調整えてるっておばさん言ってたけど。
「まじで、どうした?」
「別に。ただ寝不足なだけだから、ほら、行ってこいよ」
「いや……俺も今日はやめとこ。昨日からこのゲーム始めてさ。今日はこれやるから、悠は寝てていいぞ」
「……そっか」
七月にある地区大会に向けて頑張ってるところだから、体調崩さないといいけど。
そういえば、引っ越してきてからまだ一度も悠がバスケをしてる姿を見ていなかったな。
今日はバイトないし、ちょっと体育館覗いてから帰ろうかな。
瑠奈ちゃんと別れ、体育館に向かうと、入り口に多くの女子が群がっていた。
どうしよう、これだと中が全然見れない……
二階の通路って上っちゃ駄目なのかな……
ちょっと、その辺の子に聞いてみようかな。
「ねぇねぇ、ちょっといいかな? どうしてみんな入り口にいるの? 二階の通路から見たら駄目なの?」
「え? あぁ、二階で見てもいいけど、練習の邪魔になるから一言も喋っちゃ駄目なの。だから、私たちはここからキャーキャー言いながら見てるってわけ」
「そうなんだ。教えてくれて、ありがとう」
「どういたしまして」
なんだ、二階行ってもいいのか。
みんな友達ときてるからお喋りしながら練習を見たいんだね。
私は一人だから、上から練習みよっと。
あ、悠と木村くんだ。本当に二人はいつも一緒にいるな。
これからシュート練習かなと眺めていると、木村くんがこちらを指差し、悠もこちらを向いた。
練習頑張ってと声を出すことができない代わりに手を小さく振る。
小さい頃は、バスケしてる悠に頑張れーって大きな声をあげて手をブンブンと振っていたなと懐かしくなる。
今もあの頃と変わらないはずなのに、少し距離ができてような気がして寂しくなる。
背が高いからセンターかと思いきや、悠はシューティングガード(得点を奪う役割)だった。
小学生の頃から、よくシュート練習してたもんね。リングに当たらずにザッとネットの音がなる瞬間が快感だと話していた。
ふざけて、センターラインから入るか試してみたりとかしてたな。
今は、センターラインからでも入れられるようになったんだろうか。
あの位置からシュートが安定して入れられるならだいぶ強みになるけど……流石に入ったとしても稀かな。
バスケをしている時の悠が一番好きだ。
真剣な目つきで熱心に打ち込む姿に心が揺さぶられる。
なんでもない時にかく汗は不快に感じるのに、どうして運動している彼らの汗は輝いて見えるのだろうか。
これこそ、高校生活での青春そのもののようで、羨ましくも焦りのような感情が生まれる。
私もこんなに一生懸命に打ち込める何かが欲しかった。
どうしてこんなに無関心に育ってきちゃったかなぁ……
お母さんは、何かしら私に興味を持たせようと、「ピアノやってみる?」とか「英語教室でハロウィンとかやってるみたいだよ?」とか声をかけてくれてたけど……何一つとして興味を示さなかった。
唯一していたのが、悠のバスケを見にいくことだけだった。
私が熱中できるものが昔から悠がバスケをしている姿ってことなのかな。
悠なしでの私ってなんなんだろう……
せっかく悠の頑張ってる姿を応援に来たのに、自分の気持ちが落ちていく気がして、早々に帰ることにした。
なりたい職業もないし、これといって専門的な何かにも興味がない。
大学は、家から通いやすいところに行きたいな程度にしか思っていない。
こんな時間に身を任せるだけの生活でいいのかな。
「体調良くなったのかな」
「んー……顔色は悪くなかったと思うけど、表情が硬いのが気になったかな」
「何かあったのかな」
「わかんないけど、声掛ける雰囲気じゃなかったかなー」
「そっか……」
せっかく体調戻って学校来たのに何かあったんだろうか。
悠も昼休みに入ってすぐ教室を出て行っちゃったけど、どこ行ったんだろう。
悠がいないから、木村くんがつまらなさそうに一人でパン食べててちょっと可哀想かも。
「悠、おせーよー。どこまで飲み物買いに行ってるんだか……」
「宮本くん飲み物買いに行ってるの? 私さっき自販機行ったけど、宮本くんとはすれ違いもしなかったけど」
「えー……体育館のところまで買いに行ってるとかじゃないよな」
「そこにしか売ってない宮本くんが好きな飲み物でもあるわけ?」
「いや、ないな。どこ行ったんだよー」
昼休みに入って十分ほど経ってから悠が教室へと戻ってきたが、なんか表情が冴えない気がした。
瑞樹ちゃんといい、悠といい、みんな色々あるんだな。
そういうお年頃といえば、そうなのかもだけど。
「悠、どこ行ってたんだよ。遅すぎじゃね? 俺もう食べ終わったんだけど」
「充は食べるの早すぎなんだよ。もっとよく噛んで食べろよ」
「お前は、俺のオカンか」
「さてと、いただきます。充、食べ終わったなら、もう体育館行ってもいいぞ。俺、今日寝不足だから昼はちょっと寝る」
え……悠が寝不足?
朝練とかあるから夜は早めに寝るようにして体調整えてるっておばさん言ってたけど。
「まじで、どうした?」
「別に。ただ寝不足なだけだから、ほら、行ってこいよ」
「いや……俺も今日はやめとこ。昨日からこのゲーム始めてさ。今日はこれやるから、悠は寝てていいぞ」
「……そっか」
七月にある地区大会に向けて頑張ってるところだから、体調崩さないといいけど。
そういえば、引っ越してきてからまだ一度も悠がバスケをしてる姿を見ていなかったな。
今日はバイトないし、ちょっと体育館覗いてから帰ろうかな。
瑠奈ちゃんと別れ、体育館に向かうと、入り口に多くの女子が群がっていた。
どうしよう、これだと中が全然見れない……
二階の通路って上っちゃ駄目なのかな……
ちょっと、その辺の子に聞いてみようかな。
「ねぇねぇ、ちょっといいかな? どうしてみんな入り口にいるの? 二階の通路から見たら駄目なの?」
「え? あぁ、二階で見てもいいけど、練習の邪魔になるから一言も喋っちゃ駄目なの。だから、私たちはここからキャーキャー言いながら見てるってわけ」
「そうなんだ。教えてくれて、ありがとう」
「どういたしまして」
なんだ、二階行ってもいいのか。
みんな友達ときてるからお喋りしながら練習を見たいんだね。
私は一人だから、上から練習みよっと。
あ、悠と木村くんだ。本当に二人はいつも一緒にいるな。
これからシュート練習かなと眺めていると、木村くんがこちらを指差し、悠もこちらを向いた。
練習頑張ってと声を出すことができない代わりに手を小さく振る。
小さい頃は、バスケしてる悠に頑張れーって大きな声をあげて手をブンブンと振っていたなと懐かしくなる。
今もあの頃と変わらないはずなのに、少し距離ができてような気がして寂しくなる。
背が高いからセンターかと思いきや、悠はシューティングガード(得点を奪う役割)だった。
小学生の頃から、よくシュート練習してたもんね。リングに当たらずにザッとネットの音がなる瞬間が快感だと話していた。
ふざけて、センターラインから入るか試してみたりとかしてたな。
今は、センターラインからでも入れられるようになったんだろうか。
あの位置からシュートが安定して入れられるならだいぶ強みになるけど……流石に入ったとしても稀かな。
バスケをしている時の悠が一番好きだ。
真剣な目つきで熱心に打ち込む姿に心が揺さぶられる。
なんでもない時にかく汗は不快に感じるのに、どうして運動している彼らの汗は輝いて見えるのだろうか。
これこそ、高校生活での青春そのもののようで、羨ましくも焦りのような感情が生まれる。
私もこんなに一生懸命に打ち込める何かが欲しかった。
どうしてこんなに無関心に育ってきちゃったかなぁ……
お母さんは、何かしら私に興味を持たせようと、「ピアノやってみる?」とか「英語教室でハロウィンとかやってるみたいだよ?」とか声をかけてくれてたけど……何一つとして興味を示さなかった。
唯一していたのが、悠のバスケを見にいくことだけだった。
私が熱中できるものが昔から悠がバスケをしている姿ってことなのかな。
悠なしでの私ってなんなんだろう……
せっかく悠の頑張ってる姿を応援に来たのに、自分の気持ちが落ちていく気がして、早々に帰ることにした。
なりたい職業もないし、これといって専門的な何かにも興味がない。
大学は、家から通いやすいところに行きたいな程度にしか思っていない。
こんな時間に身を任せるだけの生活でいいのかな。
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