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三章 新しい経験
---悠視点④---
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部活が終わり帰宅すると、まだいろはの部屋の明かりが消えていた。
バイトって言ってたけど、こんなに暗いのに大丈夫か?
迎えに行くか……いや、流石におかしいか……
ひとまずシャワーを浴びて部屋に戻り、いろはの部屋を見るとまだ帰ってきていなかった。
時計を見ると九時二十分。遅いな……そう思っていると、外からいろはともう一人男の声が聞こえた。
変なのに絡まれてるんじゃ……と思い、急いで玄関のドアを開けると、その男と楽しそうに話をしていて、思わず誰だと目で訴えてしまった。
バイト先のやつか。
いろはを送ってくれたのは助かるが……あまり親しくなるのは困るな。
俺が迎えに行けるのが一番良いが部活があるからなぁ……
いろはに、どこに行くのかと聞かれて、咄嗟に母さんが牛乳を買い忘れたと嘘をついてしまった。
話し声が聞こえて気になって出てきたなんて言えないよな。
疲れてるだろうし、早く家に入るように言い、いろはが家に入ったのを見届け、俺もそのまま家に戻った。
元々コンビニに用なんてないしな。
翌朝、隣のコートのバド部に視線を向けると栗原の姿は見えなかった。
まだ体調悪くて休んでるのか。
昨日は休むって連絡きてたけど、今日は特にきてなかったよな。
休み時間に、隣の教室の前を通ると、友達と話している栗原の姿を見つけた。
今日は、朝練を休んだだけで学校にはきてたのか。
後で……話をしよう。
いつまでも長引かせるわけにはいかない。
いろはのことが好きなまま栗原とお試しでも付き合ってるのは、失礼だよな。
お試しで付き合うってなった時は、いろはのこと諦めようと思ってたから、こういうのもありなのかもしれないと思ったけど……
二年生になって、いろはが転校してきたことで、その考えはひっくり返ってしまった。
昼休みに入るとすぐに隣のクラスへいき、栗原を呼び出した。
教室の前では話しにくいからと、渡り廊下までついてきてもらい、ベンチに腰をかける。
どう話を切り出そうかと悩んでいると、栗原が「宮本くん」と呼んだ。
俯き手を見つめていた視線を彼女の方に向けると優しく微笑んでいた。
「別れてあげる」
彼女は、もう何を言われるか分かってたのか……
俺がいつまでも言い出せずにいるから、彼女の方からこんなこと言わせて、俺、最悪だな。
「……ごめんな」
マジでごめんな……
話は終わったのに、すぐ教室に戻る気になれず、ぼんやりと外を眺めた。
栗原から別れを告げられた時、初めて彼女と向き合った気がした。
今まで付き合ってはいたけど、それはただ付き合っているという言葉が俺たちの関係に付与された形だけのものだった。
彼氏彼女という関係に対して、俺の気持ちが伴っていなかったから……
「あー……マジで最低だ、俺……」
ただ栗原を傷つけるだけになってしまった関係に自己嫌悪する。
安易にお試しで付き合うなんて、人の気持ちを弄ぶようなことするもんじゃないよな。
教室に戻るとすでに充はパンを食べ終えた後で、おせぇよと文句を言っていたが、今はそれを相手する気分にもなれなかった。
弁当を平らげた後は、いつもみたいに体育館に行くわけでもなく、机に突っ伏して目を閉じた。
この暗闇にモヤモヤしたこの思いが解けて無くなってしまえばいいのに……
放課後、部室へ向かう途中で充には報告しなければと思い、栗原と別れたことを告げた。
「え……? マジで? なんて振ったんだよ。彼女大丈夫そうだったか?」
「振ったというか、俺が振られた……かな」
「なんだよそれ」
「別れてあげるって言われたんだ。きっと俺がいろはのこと好きだって全部分かってたと思う」
「栗原……すごいな」
「すごいよな。笑顔で言うんだぜ。別れてあげるって。もう申し訳なくてさ……」
「それで昼元気なかったわけか……。栗原の優しさに感謝だな。マジで」
「だな……」
俺には勿体無いほど、相手のことを考えられる子だったなと今更ながら思う。
栗原、傷つけてごめんな。
「まぁ、切り替えて行こうぜ。終わったことは仕方ない。俺たちには地区大会突破っていう使命があるからな」
「そうだな。なんとか切り替えていくか……」
「あ、見ろよ。あそこ、ほら、二階の端にいろはちゃんいる」
「え……?」
充の指差した方を見ると、いろはが俺に気付き、小さく手を振っていた。
昔は、練習よく見にきてくれて、手を大きくブンブンと振って応援してくれてたなと思った。
今は、昔みたいに大きく手は振らなくても、俺を見つけると手を振るところは変わらないな。
いろはが見ていてくれると思えば、気合が入る。
俺って、本当に現金なやつだな。
「よしっ、気合い入れてくぞ」
「そうこなくっちゃ。いろはちゃん毎日練習見にきてくれないかなー。そしたら、悠が毎日気合い入るのに」
「馬鹿言うなよ」
「またまたー、そう言いながらもきてくれたら嬉しいくせに」
「うっせ。ほら、練習するぞ」
まだ栗原と別れたばかりで、すぐいろはに告白するというわけにはいかないが、どうか待っていて欲しい。
必ず、気持ちを伝えるから……それまでどうか、誰にも奪われませんように……
土曜日、部活が終わり家に帰り部屋に鞄を置くと、いろはの部屋の窓が開いたのが分かった。
何か話があるのかと思い、俺も窓を開けると、「お疲れ様」と言ってもらえ、疲れが飛んだようだった。
今日は初めてラテアートを作ったと嬉しそうに写真を送ってきたから、見てみると少し形の崩れた……えーっと、なんだ? パンダっぽいか?
思わず、ふっと笑い声が漏れそうになり、可愛いと言い直す。
いろはは可愛くないからと言っていたが、いろはが一生懸命作ったと思えば、このラテアートも愛おしく思える。
せっかく初めていろはが作ったのに、飲むことができなくて残念だけど、いろはが自分で飲んだんだろうなと思っていると、この前のあいつが飲んだと言った。
いろはは彼のことを碧くんと呼び、だいぶ親しくしてる感じだった。
このままでは、彼にどんどん惹かれていくんじゃないかと心配になり、少し素直になることにした。
だが、いろはに「彼女に誤解されちゃうよ」と言われ、俺の気持ちは一欠片もいろはに伝わってないんだなと実感する。
とりあえず、栗原と別れたことを話したが、詳しく話したくなくて逃げるように風呂へと向かった。
バイトって言ってたけど、こんなに暗いのに大丈夫か?
迎えに行くか……いや、流石におかしいか……
ひとまずシャワーを浴びて部屋に戻り、いろはの部屋を見るとまだ帰ってきていなかった。
時計を見ると九時二十分。遅いな……そう思っていると、外からいろはともう一人男の声が聞こえた。
変なのに絡まれてるんじゃ……と思い、急いで玄関のドアを開けると、その男と楽しそうに話をしていて、思わず誰だと目で訴えてしまった。
バイト先のやつか。
いろはを送ってくれたのは助かるが……あまり親しくなるのは困るな。
俺が迎えに行けるのが一番良いが部活があるからなぁ……
いろはに、どこに行くのかと聞かれて、咄嗟に母さんが牛乳を買い忘れたと嘘をついてしまった。
話し声が聞こえて気になって出てきたなんて言えないよな。
疲れてるだろうし、早く家に入るように言い、いろはが家に入ったのを見届け、俺もそのまま家に戻った。
元々コンビニに用なんてないしな。
翌朝、隣のコートのバド部に視線を向けると栗原の姿は見えなかった。
まだ体調悪くて休んでるのか。
昨日は休むって連絡きてたけど、今日は特にきてなかったよな。
休み時間に、隣の教室の前を通ると、友達と話している栗原の姿を見つけた。
今日は、朝練を休んだだけで学校にはきてたのか。
後で……話をしよう。
いつまでも長引かせるわけにはいかない。
いろはのことが好きなまま栗原とお試しでも付き合ってるのは、失礼だよな。
お試しで付き合うってなった時は、いろはのこと諦めようと思ってたから、こういうのもありなのかもしれないと思ったけど……
二年生になって、いろはが転校してきたことで、その考えはひっくり返ってしまった。
昼休みに入るとすぐに隣のクラスへいき、栗原を呼び出した。
教室の前では話しにくいからと、渡り廊下までついてきてもらい、ベンチに腰をかける。
どう話を切り出そうかと悩んでいると、栗原が「宮本くん」と呼んだ。
俯き手を見つめていた視線を彼女の方に向けると優しく微笑んでいた。
「別れてあげる」
彼女は、もう何を言われるか分かってたのか……
俺がいつまでも言い出せずにいるから、彼女の方からこんなこと言わせて、俺、最悪だな。
「……ごめんな」
マジでごめんな……
話は終わったのに、すぐ教室に戻る気になれず、ぼんやりと外を眺めた。
栗原から別れを告げられた時、初めて彼女と向き合った気がした。
今まで付き合ってはいたけど、それはただ付き合っているという言葉が俺たちの関係に付与された形だけのものだった。
彼氏彼女という関係に対して、俺の気持ちが伴っていなかったから……
「あー……マジで最低だ、俺……」
ただ栗原を傷つけるだけになってしまった関係に自己嫌悪する。
安易にお試しで付き合うなんて、人の気持ちを弄ぶようなことするもんじゃないよな。
教室に戻るとすでに充はパンを食べ終えた後で、おせぇよと文句を言っていたが、今はそれを相手する気分にもなれなかった。
弁当を平らげた後は、いつもみたいに体育館に行くわけでもなく、机に突っ伏して目を閉じた。
この暗闇にモヤモヤしたこの思いが解けて無くなってしまえばいいのに……
放課後、部室へ向かう途中で充には報告しなければと思い、栗原と別れたことを告げた。
「え……? マジで? なんて振ったんだよ。彼女大丈夫そうだったか?」
「振ったというか、俺が振られた……かな」
「なんだよそれ」
「別れてあげるって言われたんだ。きっと俺がいろはのこと好きだって全部分かってたと思う」
「栗原……すごいな」
「すごいよな。笑顔で言うんだぜ。別れてあげるって。もう申し訳なくてさ……」
「それで昼元気なかったわけか……。栗原の優しさに感謝だな。マジで」
「だな……」
俺には勿体無いほど、相手のことを考えられる子だったなと今更ながら思う。
栗原、傷つけてごめんな。
「まぁ、切り替えて行こうぜ。終わったことは仕方ない。俺たちには地区大会突破っていう使命があるからな」
「そうだな。なんとか切り替えていくか……」
「あ、見ろよ。あそこ、ほら、二階の端にいろはちゃんいる」
「え……?」
充の指差した方を見ると、いろはが俺に気付き、小さく手を振っていた。
昔は、練習よく見にきてくれて、手を大きくブンブンと振って応援してくれてたなと思った。
今は、昔みたいに大きく手は振らなくても、俺を見つけると手を振るところは変わらないな。
いろはが見ていてくれると思えば、気合が入る。
俺って、本当に現金なやつだな。
「よしっ、気合い入れてくぞ」
「そうこなくっちゃ。いろはちゃん毎日練習見にきてくれないかなー。そしたら、悠が毎日気合い入るのに」
「馬鹿言うなよ」
「またまたー、そう言いながらもきてくれたら嬉しいくせに」
「うっせ。ほら、練習するぞ」
まだ栗原と別れたばかりで、すぐいろはに告白するというわけにはいかないが、どうか待っていて欲しい。
必ず、気持ちを伝えるから……それまでどうか、誰にも奪われませんように……
土曜日、部活が終わり家に帰り部屋に鞄を置くと、いろはの部屋の窓が開いたのが分かった。
何か話があるのかと思い、俺も窓を開けると、「お疲れ様」と言ってもらえ、疲れが飛んだようだった。
今日は初めてラテアートを作ったと嬉しそうに写真を送ってきたから、見てみると少し形の崩れた……えーっと、なんだ? パンダっぽいか?
思わず、ふっと笑い声が漏れそうになり、可愛いと言い直す。
いろはは可愛くないからと言っていたが、いろはが一生懸命作ったと思えば、このラテアートも愛おしく思える。
せっかく初めていろはが作ったのに、飲むことができなくて残念だけど、いろはが自分で飲んだんだろうなと思っていると、この前のあいつが飲んだと言った。
いろはは彼のことを碧くんと呼び、だいぶ親しくしてる感じだった。
このままでは、彼にどんどん惹かれていくんじゃないかと心配になり、少し素直になることにした。
だが、いろはに「彼女に誤解されちゃうよ」と言われ、俺の気持ちは一欠片もいろはに伝わってないんだなと実感する。
とりあえず、栗原と別れたことを話したが、詳しく話したくなくて逃げるように風呂へと向かった。
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