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三章 新しい経験
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「いろはちゃん、今日からバイトだったよね。頑張ってね」
「うん、ありがとー! 瑠奈ちゃんも部活頑張ってね」
家に帰ると、白いシャツと黒いチノパンをバッグに詰め、自転車に乗りバイト先へと向かった。
店の裏口から中に入ると、すぐに休憩室がある。
そこに入ると、既に碧くんが着替えを済ませてスマホを弄っていた。
「碧くん、こんにちは」
「あぁ、柚木さん、今日からよろしく」
「よろしくお願いします」
「ロッカーはここを使って、鍵はこれね。で、更衣室はここ。一人用になってるから狭いけど、内鍵閉めるの忘れないようにね」
「はーい」
更衣室に入り、着替えを済ませると、ロッカーに荷物を入れる。
渡されたエプロンは落ち着いたカーキ色で、葉っぱのマークが一つシンプルに描かれていた。
髪は短いから結ぶ必要はないみたいだけど、顔はスッキリ出しておいたほうがいいかもしれないと思い、両サイドを軽く編み込んでピンで留めた。
「いんじゃない。エプロン地味だからどうかと思ったけど、まぁまぁ似合ってるか」
「まぁまぁね。ふふっ、褒めてくれて、ありがと」
「とりあえず、今日は声出しとかテーブル片付けたりとかがメインになるかな。空いてる時間にメニューを見て覚えるって感じでやってこうか」
「了解です」
「バイトしたことない人って、いらっしゃいませって声を出すのも結構恥ずかしいみたいでね。始め声が出せない子が多いから頑張って声出して行こうか」
「分かった。頑張ってみるね」
休憩室から出て店内へ行くと、落ち着いた音楽流れ、ゆったりとした時間が流れているようだった。
仕事帰りとかに寄ってコーヒーを一杯飲んで行く人もいれば、ここで夕食も食べて行く人もいるのだとか。
そして、店長が個人で所有している小説が店の一角に置いてあり、お客さんが自由に手に取り席で読めるようになっている。
漫画喫茶の小説版って感じかな。んー、本の量がそこまで多いわけじゃないから小説喫茶と言えるほどでもないか。
店のドアが開き、チリンとドアベルがなり来客を告げる。
碧くんが「いらっしゃいませ」と言った声に続くように私も声を出すが、少し照れが入ってしまい、小声になってしまった。
あぁ……さっき碧くんが言ってたことがわかった。
お客様が来たから言わなきゃって思うのに、照れが入ってしまって声が張れない。
駄目出しされるかなとチラリと碧くんを見上げると、握りしめた手の甲を口元にあてて、顔を背けていた。
……これ、笑われてない?
「碧くん……ひどい」
「いや、悪い。思った通りだなと思ったらおかしくて」
「次は頑張るもん」
「はいはい、期待しないで見てますよ」
もう大丈夫なはず。一度経験したし、開き直ることが大事な気がしてきた。
次はしっかり声を出せるはず。笑顔でうるさすぎない音量で声を出そう。
少し声を作るくらいでちょうどいいのかもしれない。
「ほら、次来るぞ」
「「いらっしゃいませ」」
碧くんと同じような音量でしっかりと声を出すことが出来た。
一度出せてしまえば、あとはもう大丈夫。
「順応早いのな」
「なんていうか、店員さんを演じる気持ちで声を出してみました」
「演じるっていうか店員だろ」
「まぁ、そうなんだけど……」
意外に碧くんツッコむな。もっと口数少ないかと思ったけど、会話のテンポも悪くないかもしれない。
結構話しやすくて良かった。
それから、お客様が帰るたびにテーブルの食器を片付け、拭いて綺麗にするなど精を出した。
一度に下げるお皿の量も多くないため、両手でしっかりと持てば落とす心配もないため助かった。
これがファミレスだったら、めちゃくちゃお皿を重ねたりして落とす心配があったかもしれない。
「柚木、休憩行ってきていいぞ」
「はーい」
学校帰りのため、バイト時間は四時間程だけど、十五分の休憩があるので、ちょこっとお菓子をつまんで飲み物を飲む。
この時間はお腹空くなーと思いながら、チョコを摘む。
土曜日は、八時間入ることになっているため、一時間の休憩があるみたい。
午前中から入るから、お昼を少しずらした時間に休憩を取る感じになるみたい。
お母さんがお弁当を作ってくれるって言ってたから、それに甘えちゃうことにしたけど、休みの日まで作ってもらうのは悪いなと思ってしまう。
お母さんは、「バイト頑張ってるんだから、応援させてね」と言っていたけど。
「休憩ありがとうございました」
「じゃ、俺休憩入るな。何かあれば父さんに言えよ?」
「うん」
十五分居ないだけで何かあったりとかしないでしょ。
この時間人少ないみたいだし、お客さん来ても店長が注文取るって言ってたから、私は様子を見て、帰るお客様のテーブルを綺麗にするだけ。
とりあえず、今は時間があるからメニューを見ていく。
アルコールはおいていなく、主にコーヒーとカフェオレ、ジュースという感じだった。
コーヒーは種類がいろいろあり、見慣れないため、覚えるのに時間がかかりそうかもと思った。
料理に関しては、朝だからとか夜だからとかでメニューが変わるわけじゃない為、覚えやすくて良かったと思った。
朝と夜でメニューが違ったら量が多くて覚えるのが大変そうだなって思ってたから。
メニューを眺めていると、あっという間に十五分が経ち、碧くんが戻ってきた。
「変わりなかったか?」
「うん。ちょうど誰も来なかったから、メニュー眺めてた」
「家でゆっくり覚えられるように、あとでメニューのコピーやるよ」
「いいの? ありがとう」
早くメニュー覚えて、注文受けられるようにならないとね。
「そんな焦らなくてもいいけどな。注文も言われたことをちゃんと聞き取れれば、覚えてないメニューでも俺たちがわかるからさ」
「了解。聞き逃さないように、ちゃんと聞いてメモします」
「まっ、とりあえず注文取るのは来週からな」
「はーい」
今週三日間は、声出しと後片付けを頑張ろう。
「うん、ありがとー! 瑠奈ちゃんも部活頑張ってね」
家に帰ると、白いシャツと黒いチノパンをバッグに詰め、自転車に乗りバイト先へと向かった。
店の裏口から中に入ると、すぐに休憩室がある。
そこに入ると、既に碧くんが着替えを済ませてスマホを弄っていた。
「碧くん、こんにちは」
「あぁ、柚木さん、今日からよろしく」
「よろしくお願いします」
「ロッカーはここを使って、鍵はこれね。で、更衣室はここ。一人用になってるから狭いけど、内鍵閉めるの忘れないようにね」
「はーい」
更衣室に入り、着替えを済ませると、ロッカーに荷物を入れる。
渡されたエプロンは落ち着いたカーキ色で、葉っぱのマークが一つシンプルに描かれていた。
髪は短いから結ぶ必要はないみたいだけど、顔はスッキリ出しておいたほうがいいかもしれないと思い、両サイドを軽く編み込んでピンで留めた。
「いんじゃない。エプロン地味だからどうかと思ったけど、まぁまぁ似合ってるか」
「まぁまぁね。ふふっ、褒めてくれて、ありがと」
「とりあえず、今日は声出しとかテーブル片付けたりとかがメインになるかな。空いてる時間にメニューを見て覚えるって感じでやってこうか」
「了解です」
「バイトしたことない人って、いらっしゃいませって声を出すのも結構恥ずかしいみたいでね。始め声が出せない子が多いから頑張って声出して行こうか」
「分かった。頑張ってみるね」
休憩室から出て店内へ行くと、落ち着いた音楽流れ、ゆったりとした時間が流れているようだった。
仕事帰りとかに寄ってコーヒーを一杯飲んで行く人もいれば、ここで夕食も食べて行く人もいるのだとか。
そして、店長が個人で所有している小説が店の一角に置いてあり、お客さんが自由に手に取り席で読めるようになっている。
漫画喫茶の小説版って感じかな。んー、本の量がそこまで多いわけじゃないから小説喫茶と言えるほどでもないか。
店のドアが開き、チリンとドアベルがなり来客を告げる。
碧くんが「いらっしゃいませ」と言った声に続くように私も声を出すが、少し照れが入ってしまい、小声になってしまった。
あぁ……さっき碧くんが言ってたことがわかった。
お客様が来たから言わなきゃって思うのに、照れが入ってしまって声が張れない。
駄目出しされるかなとチラリと碧くんを見上げると、握りしめた手の甲を口元にあてて、顔を背けていた。
……これ、笑われてない?
「碧くん……ひどい」
「いや、悪い。思った通りだなと思ったらおかしくて」
「次は頑張るもん」
「はいはい、期待しないで見てますよ」
もう大丈夫なはず。一度経験したし、開き直ることが大事な気がしてきた。
次はしっかり声を出せるはず。笑顔でうるさすぎない音量で声を出そう。
少し声を作るくらいでちょうどいいのかもしれない。
「ほら、次来るぞ」
「「いらっしゃいませ」」
碧くんと同じような音量でしっかりと声を出すことが出来た。
一度出せてしまえば、あとはもう大丈夫。
「順応早いのな」
「なんていうか、店員さんを演じる気持ちで声を出してみました」
「演じるっていうか店員だろ」
「まぁ、そうなんだけど……」
意外に碧くんツッコむな。もっと口数少ないかと思ったけど、会話のテンポも悪くないかもしれない。
結構話しやすくて良かった。
それから、お客様が帰るたびにテーブルの食器を片付け、拭いて綺麗にするなど精を出した。
一度に下げるお皿の量も多くないため、両手でしっかりと持てば落とす心配もないため助かった。
これがファミレスだったら、めちゃくちゃお皿を重ねたりして落とす心配があったかもしれない。
「柚木、休憩行ってきていいぞ」
「はーい」
学校帰りのため、バイト時間は四時間程だけど、十五分の休憩があるので、ちょこっとお菓子をつまんで飲み物を飲む。
この時間はお腹空くなーと思いながら、チョコを摘む。
土曜日は、八時間入ることになっているため、一時間の休憩があるみたい。
午前中から入るから、お昼を少しずらした時間に休憩を取る感じになるみたい。
お母さんがお弁当を作ってくれるって言ってたから、それに甘えちゃうことにしたけど、休みの日まで作ってもらうのは悪いなと思ってしまう。
お母さんは、「バイト頑張ってるんだから、応援させてね」と言っていたけど。
「休憩ありがとうございました」
「じゃ、俺休憩入るな。何かあれば父さんに言えよ?」
「うん」
十五分居ないだけで何かあったりとかしないでしょ。
この時間人少ないみたいだし、お客さん来ても店長が注文取るって言ってたから、私は様子を見て、帰るお客様のテーブルを綺麗にするだけ。
とりあえず、今は時間があるからメニューを見ていく。
アルコールはおいていなく、主にコーヒーとカフェオレ、ジュースという感じだった。
コーヒーは種類がいろいろあり、見慣れないため、覚えるのに時間がかかりそうかもと思った。
料理に関しては、朝だからとか夜だからとかでメニューが変わるわけじゃない為、覚えやすくて良かったと思った。
朝と夜でメニューが違ったら量が多くて覚えるのが大変そうだなって思ってたから。
メニューを眺めていると、あっという間に十五分が経ち、碧くんが戻ってきた。
「変わりなかったか?」
「うん。ちょうど誰も来なかったから、メニュー眺めてた」
「家でゆっくり覚えられるように、あとでメニューのコピーやるよ」
「いいの? ありがとう」
早くメニュー覚えて、注文受けられるようにならないとね。
「そんな焦らなくてもいいけどな。注文も言われたことをちゃんと聞き取れれば、覚えてないメニューでも俺たちがわかるからさ」
「了解。聞き逃さないように、ちゃんと聞いてメモします」
「まっ、とりあえず注文取るのは来週からな」
「はーい」
今週三日間は、声出しと後片付けを頑張ろう。
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