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二章 絡まる想い
---悠視点③---
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水族館の中に入ると、昔の面影は全くなく、完全にリニューアルされていた。
大きな水槽が目を引く作りで、大きなエイが悠々と泳いでいるさまを見て、気持ちよさそうだなと思った。
後ろで女子たちがきゃっきゃと楽しげな声をあげていて、引っ越してきたばかりで、もう遊びに行ける友達がいろはにできて良かったと心の底から思う。
せっかく帰ってきたのに、友達もできなくつまらないとか、あちらに戻りたいとか思われたくなかったから。
そんなことになったら、大学はあちらを受験してしまうんじゃないかと先のことまで心配してしまった。
「なー、せっかく女子ときてるのに、別々に見て回るってなんなわけ?」
「いやさー、瑠奈といろはちゃんが遊ぶのを俺らは邪魔したわけじゃん? そこは少し気を遣おうよ」
「だな」
「えー……、まぁ、いっか。どうせあとで昼食べたりってするし。いろはちゃんと喋りたかったなー」
こいつ……いろは狙いか……
まぁ、今日きてる女子でフリーなのはいろはだけだけど。
自分勝手だけど、あまりいろはには構わないでほしい。万が一佐藤に靡いてもしたら……平静でいられるのだろうか。
他の男にいろはを取られる前に、早く栗原と話をつけよう。
帰る途中で声をかけるか。
クラゲのエリアにくると、いろははゆっくりと見て回るだろうなと、後ろを振り返ると、いろんな角度から写真を撮っているのを見て、思わず吹き出しそうになった。
可愛いな……そっとスマホを取り出し、クラゲを撮るふりをして、写真を撮っているいろはを撮る。
真剣な表情で写真を撮っている姿が可愛らしい。
もう一枚と、水槽に手をつき、クラゲを見つめるいろはの写真を撮った。
スマホを買って初めて、人を撮ったなとカメラロールを眺める。
いつも食べ物とか景色とか写真に撮ることはあっても、人は撮ってこなかった。
友達が撮った写真を送ってもらうことはあっても、自分では撮ってこなかったから。
そろそろ次のエリアに移動するかとのんびりクラゲを眺めていると、目の端で栗原がいろはの手を払ったのが見えた。
ぱしんと割と大きな音がしたが、いろはは大丈夫だろうか。
すぐにかけようると、自分は大丈夫だから栗原のところに行けという。
手の甲が少し赤くなっていて、痛かっただろうに、人の心配をするいろはは相変わらずだなと思いながら、栗原の後を追った。
「具合悪いらしいけど、大丈夫か? ちょっと水買ってくるから座ってて」
ひとまず、ベンチに座らせ飲み物を買いに行くも具合悪そうな相手にあまり話しかけるのも良くないだろうと、隣で静かに待つことにした。
「宮本くん、迷惑かけてごめんね」
「え? いや、別に大したことじゃ……」
「……」
栗原は何か言いたげにしていたが、体調が悪いのだろう。その後、言葉が続くことはなかった。
具合もだいぶ良くなったからとみんなに合流すると、みんなでキーホルダー選びをしていた。
いろはは当然クラゲだろうなと思って見てみると、手には当然のようにクラゲを持っていた。
男子はシロクマか……
俺は……こいつにするかと、クラゲを手に取るも、後で何を買ったのか聞かれるのも気まずいなと思い、シロクマも買うことにした。
これで、みんなにはシロクマを見せればいい。
そう思い、会計を済ませるとクラゲのキーホルダーはそっとバッグにしまった。
栗原はまだ悩んでいるのかと思っていると、やっぱり具合が悪いから帰ると言い出した。
「え? そんなに体調悪いなら送っていくから」
「ううん。いい。そばにいると気を遣っちゃって疲れるし、それに今は気遣う余裕ないんだよね。だから、一人で帰るね」
「え、あー、じゃあ気をつけて帰れよ」
「うん、じゃあね」
体調良くなったのかと思ったけど、やっぱりまだ調子悪かったんだな。
俺がそばにいて気疲れするなら、一人の方が良いだろう。
あまりにも体調が悪ければ、親に連絡して迎えにきてもらうかもしれないしな。
みんなのところに合流すると、案の定何を買ったのか聞かれ、みんなでキーホルダーを写真に撮ることになった。
シロクマ買っておいてよかった……
「なー、さっきさ。お前たちがいない時なんだけど、佐藤といろはちゃん手繋ぎながら見て回ってたけど、いいのか?」
「は?」
「いや、なんていうか、いろはちゃんも嫌がってる感じじゃなかったし、良い感じなのかなって」
「今日初めて会ったのにか? まさか……ないだろ。佐藤が強引にいろはの手を取ったんだろ」
「なのかなー」
いろはと佐藤が……確かに佐藤はいろはと話したいとは言ってたけど、流石に手を繋ぐのは早すぎないか?
俺が想いを伝える前にいろはが他の男に取られるのは嫌だ……
早く栗原と話さなければと思うけれど、体調悪くて帰ったから今日話すこともできないわけで。
明日学校きたら伝えるか。
帰り際、佐藤がいろはを送りたいと言っていたが、俺がいるんでね。その必要ないんだよな。
当然のごとく、いろはと並んで歩くと、今日の水族館がとても楽しかったようで声が弾んでいた。
大きな目をキラキラと輝かせながら、どうよ? と言わんばかりのドヤ顔でクラゲの写真を見せてきた時は、可愛すぎてどうしようかと思った。
スマホの画面を見るために、そっといろはの手ごとスマホを手に取る。
今はまだ想いを伝えることは出来ないけれど、少しでも男として意識して欲しい。
こんな浅ましい俺でごめん。
家に帰り、シロクマのキーホルダーを机の上に置くと、いろはの楽しそうにしていた顔が思い出される。
「このキーホルダーの隣に今日撮ったいろはの写真を飾るか」
クラゲを撮ってる写真とクラゲを眺めている写真どちらも捨てがたい……二枚並べて飾れる写真立て買えばいいか。
そんなことを考えながらも、充が言っていたいろはと佐藤のことが気になっていた。
こんなに気になるならさっき聞いておけばよかった……
仕方ないと、いろはにメッセージを送る。
幸いなことに、いろはと佐藤はなんでもないのだと聞けて、安堵した。
これで、いろはが佐藤のことを少しでも気になっていると言われた日にはなんてメッセージを返したかわからない。
このままじゃだめだ、早く終わらせよう。
翌朝、栗原に話をしないとなと身支度を整えていると、「今日は学校休むね」と栗原からメッセージが届いた。
今日も体調良くないのか。早く良くなるといいな。
大きな水槽が目を引く作りで、大きなエイが悠々と泳いでいるさまを見て、気持ちよさそうだなと思った。
後ろで女子たちがきゃっきゃと楽しげな声をあげていて、引っ越してきたばかりで、もう遊びに行ける友達がいろはにできて良かったと心の底から思う。
せっかく帰ってきたのに、友達もできなくつまらないとか、あちらに戻りたいとか思われたくなかったから。
そんなことになったら、大学はあちらを受験してしまうんじゃないかと先のことまで心配してしまった。
「なー、せっかく女子ときてるのに、別々に見て回るってなんなわけ?」
「いやさー、瑠奈といろはちゃんが遊ぶのを俺らは邪魔したわけじゃん? そこは少し気を遣おうよ」
「だな」
「えー……、まぁ、いっか。どうせあとで昼食べたりってするし。いろはちゃんと喋りたかったなー」
こいつ……いろは狙いか……
まぁ、今日きてる女子でフリーなのはいろはだけだけど。
自分勝手だけど、あまりいろはには構わないでほしい。万が一佐藤に靡いてもしたら……平静でいられるのだろうか。
他の男にいろはを取られる前に、早く栗原と話をつけよう。
帰る途中で声をかけるか。
クラゲのエリアにくると、いろははゆっくりと見て回るだろうなと、後ろを振り返ると、いろんな角度から写真を撮っているのを見て、思わず吹き出しそうになった。
可愛いな……そっとスマホを取り出し、クラゲを撮るふりをして、写真を撮っているいろはを撮る。
真剣な表情で写真を撮っている姿が可愛らしい。
もう一枚と、水槽に手をつき、クラゲを見つめるいろはの写真を撮った。
スマホを買って初めて、人を撮ったなとカメラロールを眺める。
いつも食べ物とか景色とか写真に撮ることはあっても、人は撮ってこなかった。
友達が撮った写真を送ってもらうことはあっても、自分では撮ってこなかったから。
そろそろ次のエリアに移動するかとのんびりクラゲを眺めていると、目の端で栗原がいろはの手を払ったのが見えた。
ぱしんと割と大きな音がしたが、いろはは大丈夫だろうか。
すぐにかけようると、自分は大丈夫だから栗原のところに行けという。
手の甲が少し赤くなっていて、痛かっただろうに、人の心配をするいろはは相変わらずだなと思いながら、栗原の後を追った。
「具合悪いらしいけど、大丈夫か? ちょっと水買ってくるから座ってて」
ひとまず、ベンチに座らせ飲み物を買いに行くも具合悪そうな相手にあまり話しかけるのも良くないだろうと、隣で静かに待つことにした。
「宮本くん、迷惑かけてごめんね」
「え? いや、別に大したことじゃ……」
「……」
栗原は何か言いたげにしていたが、体調が悪いのだろう。その後、言葉が続くことはなかった。
具合もだいぶ良くなったからとみんなに合流すると、みんなでキーホルダー選びをしていた。
いろはは当然クラゲだろうなと思って見てみると、手には当然のようにクラゲを持っていた。
男子はシロクマか……
俺は……こいつにするかと、クラゲを手に取るも、後で何を買ったのか聞かれるのも気まずいなと思い、シロクマも買うことにした。
これで、みんなにはシロクマを見せればいい。
そう思い、会計を済ませるとクラゲのキーホルダーはそっとバッグにしまった。
栗原はまだ悩んでいるのかと思っていると、やっぱり具合が悪いから帰ると言い出した。
「え? そんなに体調悪いなら送っていくから」
「ううん。いい。そばにいると気を遣っちゃって疲れるし、それに今は気遣う余裕ないんだよね。だから、一人で帰るね」
「え、あー、じゃあ気をつけて帰れよ」
「うん、じゃあね」
体調良くなったのかと思ったけど、やっぱりまだ調子悪かったんだな。
俺がそばにいて気疲れするなら、一人の方が良いだろう。
あまりにも体調が悪ければ、親に連絡して迎えにきてもらうかもしれないしな。
みんなのところに合流すると、案の定何を買ったのか聞かれ、みんなでキーホルダーを写真に撮ることになった。
シロクマ買っておいてよかった……
「なー、さっきさ。お前たちがいない時なんだけど、佐藤といろはちゃん手繋ぎながら見て回ってたけど、いいのか?」
「は?」
「いや、なんていうか、いろはちゃんも嫌がってる感じじゃなかったし、良い感じなのかなって」
「今日初めて会ったのにか? まさか……ないだろ。佐藤が強引にいろはの手を取ったんだろ」
「なのかなー」
いろはと佐藤が……確かに佐藤はいろはと話したいとは言ってたけど、流石に手を繋ぐのは早すぎないか?
俺が想いを伝える前にいろはが他の男に取られるのは嫌だ……
早く栗原と話さなければと思うけれど、体調悪くて帰ったから今日話すこともできないわけで。
明日学校きたら伝えるか。
帰り際、佐藤がいろはを送りたいと言っていたが、俺がいるんでね。その必要ないんだよな。
当然のごとく、いろはと並んで歩くと、今日の水族館がとても楽しかったようで声が弾んでいた。
大きな目をキラキラと輝かせながら、どうよ? と言わんばかりのドヤ顔でクラゲの写真を見せてきた時は、可愛すぎてどうしようかと思った。
スマホの画面を見るために、そっといろはの手ごとスマホを手に取る。
今はまだ想いを伝えることは出来ないけれど、少しでも男として意識して欲しい。
こんな浅ましい俺でごめん。
家に帰り、シロクマのキーホルダーを机の上に置くと、いろはの楽しそうにしていた顔が思い出される。
「このキーホルダーの隣に今日撮ったいろはの写真を飾るか」
クラゲを撮ってる写真とクラゲを眺めている写真どちらも捨てがたい……二枚並べて飾れる写真立て買えばいいか。
そんなことを考えながらも、充が言っていたいろはと佐藤のことが気になっていた。
こんなに気になるならさっき聞いておけばよかった……
仕方ないと、いろはにメッセージを送る。
幸いなことに、いろはと佐藤はなんでもないのだと聞けて、安堵した。
これで、いろはが佐藤のことを少しでも気になっていると言われた日にはなんてメッセージを返したかわからない。
このままじゃだめだ、早く終わらせよう。
翌朝、栗原に話をしないとなと身支度を整えていると、「今日は学校休むね」と栗原からメッセージが届いた。
今日も体調良くないのか。早く良くなるといいな。
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