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一章 再会
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悠と彼女は学校ではそれぞれ友達といることが多いようで、二人でいるところを見かけることは殆どなかった。
むしろ、学校にいる間は、私が悠と過ごす時間が長いように感じた。
隣の席だから、話しかけやすいというのもあるかもしれない。
初めて瑠奈ちゃんとお昼を一緒に食べた日から、自然と四人で食べるようになった。
いいのかなと思いつつも、友達と食べてるだけだよねと心の中で言い訳をする。
部活の後は彼女と一緒に帰ってるみたいだし、昼休みだけ……ごめんね。
家に帰ると、クローゼット中を漁り、日曜日に着て行く服を物色する。
天気予報だと結構気温も上がるっぽいから、ショートパンツに上はパーカーを羽織る感じにしよう。
結構歩くと思うし、スニーカーがいいよね。
デートだったら、スカート履いて、少し高さのあるヒール履いたりとか色々考えたかもしれないけど、友達と水族館を楽しむのが主目的だから、動きやすさを重視することにした。
そろそろご飯の時間だし、下に降りていくと、お母さんがテーブルに料理を運んでいるところだった。
「丁度、声かけようと思ってたところだったのよ。お父さんは今日遅くなるみたいだから、先に食べちゃいましょ」
「はーい」
今日は、和風煮込みハンバーグか。私の大好物だ。
やっぱりハンバーグは煮込んであるのが美味しいよね。
「あ、そうだ。梢ちゃんから聞いたんだけど、日曜日……悠くんと一緒に水族館行くんだって?」
「あー……うん。とは言っても、悠と二人じゃないよ? 六人で行くことになったから」
「チケット四枚しかないのにいいの? んー、良いって言ってたから良いと思うよ」
「いろは大丈夫なの?」
「……分からない。日曜日……悠の彼女もくるの」
「えっ? どうしてそんなことに?」
「まぁ、色々あってね……。はぁ、二人がイチャイチャしてたらどうしよう」
「悠くんが彼女とイチャイチャってなんか想像できないわね」
「……確かに?」
前に二人が話してるのを見たことがあるけど、距離も友達と変わらない感じで、付き合ってる雰囲気というのは感じられなかった。
付き合い始めてあまり経っていないからとかそういうことなのかな。
瑠奈ちゃんと遊びに行くのは楽しみだけど、悠と彼女のセットもとなると、楽しみだけというわけにはいかない。
日曜日……ちゃんと彼女と話せるかな。
◆ ◆ ◆
土曜日になり、また求人サイトを眺めながら、良さそうなバイトないかなと探してみたが、これといって気になるものはなかった。
んー、求人サイトには出してないけど、店の前に張り紙してるお店とかあったりするかなぁ。
ちょっと近所を自転車で走らせて、そういうのがないか見てこようかな。
「お母さん、ちょっと出かけてくるねー」
「どこ行くの?」
「その辺少しうろうろしてくるだけ」
「そう? じゃ、すぐ帰ってくるのね」
「うん、遅くならないと思う。昼ご飯までには戻ってくるよ」
まだ10時だから、流石に二時間もバイト探しはしないかな。
自転車で駅の方へ向かい、いつもとは違う細い道も通ったりしながら、お店の前を確認する。
「なかなか求人の張り紙してるところないなー」
そう思いながら、一度自転車を停めてベンチに腰をかけると、前のお店のドアが開き、店員さんが出てきた。
高校生くらいっぽいからバイトの子かなと眺めていると、扉のところに何やら紙を貼り出した。
あ……これって……
「あのっ、それってバイトの募集ですか?」
「え? あぁ、そうだけど」
「それ応募したいんですけどっ」
大通りから一つ奥に入った通りにある落ち着いた雰囲気の喫茶店。
店を利用したこともないのに、なんとなく、ここなら続きそうな気がすると直感が働いた。
「え……あー、ちょっと待って。履歴書とかないよね?」
「あ、持ってないです……」
「どうするかな。とりあえず、店長に確認しないとだけど、一旦この張り紙外しとくか。ちょっと待ってて」
そういうと、彼は張り紙を手に店の中へと戻っていった。
急に話しかけちゃったけど、変な人だって思われなかったかな。
「お待たせ。店長が面接するって言ってるから中へどうぞ」
「えっ、ありがとう!」
店内に入ると、木の温もり溢れる優しい雰囲気の喫茶店だった。
若い子がくるお店というよりは年配の方がゆっくり過ごす場所という感じだった。
「いらっしゃい。さっきバイトの募集をしようとしたところだったんだが、まさかこんなに早く応募があるとは思わなかったよ」
店長さんは、少し白髪混じりで40代くらいの男性で、優しい感じの人だった。
この人が店長だから、店の雰囲気も優しい感じがするのかなと思った。
「丁度、彼が張り紙をしているところに出会しまして、働きたいなと思いまして。そのバイトは初めてなのですが」
「後で履歴書を持ってきてもらうとして、とりあえず、年齢とか住んでる場所とか聞いておこうかな」
「今年17歳で高校二年生になります。桜ヶ丘高校に通っています。家はここから自転車で15分ほどのところなので、近いと思います」
「桜ヶ丘高校……碧と同じ高校じゃないか。それに二年生なら同じ学年。お前、彼女のこと知らないのか?」
「え……? みたことないけど……」
碧と呼ばれた先ほどの彼は、私と同じ高校で同じ年ということだった。すごい偶然。
「あ、私、転校してきてまだ数日しか経っていないので、学校で見かけてないのだと思います」
「そういうことか。それじゃ、知らなくても普通か」
「一応、学生証お見せしますね」
学割とかあるから休みの日でも学生証は持ち歩くようにしていた。
良かった。これで信じてもらえる。
「はい、確かに。受け答えもちゃんとしてるし、何より接客に必要な笑顔が良い。採用で良いんじゃないかな?」
「碧はどう思う?」
「まぁ……客ウケも良さそうだし、良いんじゃない」
同じバイト仲間になるから、彼にも意見を聞いた感じなのかな。
むしろ、学校にいる間は、私が悠と過ごす時間が長いように感じた。
隣の席だから、話しかけやすいというのもあるかもしれない。
初めて瑠奈ちゃんとお昼を一緒に食べた日から、自然と四人で食べるようになった。
いいのかなと思いつつも、友達と食べてるだけだよねと心の中で言い訳をする。
部活の後は彼女と一緒に帰ってるみたいだし、昼休みだけ……ごめんね。
家に帰ると、クローゼット中を漁り、日曜日に着て行く服を物色する。
天気予報だと結構気温も上がるっぽいから、ショートパンツに上はパーカーを羽織る感じにしよう。
結構歩くと思うし、スニーカーがいいよね。
デートだったら、スカート履いて、少し高さのあるヒール履いたりとか色々考えたかもしれないけど、友達と水族館を楽しむのが主目的だから、動きやすさを重視することにした。
そろそろご飯の時間だし、下に降りていくと、お母さんがテーブルに料理を運んでいるところだった。
「丁度、声かけようと思ってたところだったのよ。お父さんは今日遅くなるみたいだから、先に食べちゃいましょ」
「はーい」
今日は、和風煮込みハンバーグか。私の大好物だ。
やっぱりハンバーグは煮込んであるのが美味しいよね。
「あ、そうだ。梢ちゃんから聞いたんだけど、日曜日……悠くんと一緒に水族館行くんだって?」
「あー……うん。とは言っても、悠と二人じゃないよ? 六人で行くことになったから」
「チケット四枚しかないのにいいの? んー、良いって言ってたから良いと思うよ」
「いろは大丈夫なの?」
「……分からない。日曜日……悠の彼女もくるの」
「えっ? どうしてそんなことに?」
「まぁ、色々あってね……。はぁ、二人がイチャイチャしてたらどうしよう」
「悠くんが彼女とイチャイチャってなんか想像できないわね」
「……確かに?」
前に二人が話してるのを見たことがあるけど、距離も友達と変わらない感じで、付き合ってる雰囲気というのは感じられなかった。
付き合い始めてあまり経っていないからとかそういうことなのかな。
瑠奈ちゃんと遊びに行くのは楽しみだけど、悠と彼女のセットもとなると、楽しみだけというわけにはいかない。
日曜日……ちゃんと彼女と話せるかな。
◆ ◆ ◆
土曜日になり、また求人サイトを眺めながら、良さそうなバイトないかなと探してみたが、これといって気になるものはなかった。
んー、求人サイトには出してないけど、店の前に張り紙してるお店とかあったりするかなぁ。
ちょっと近所を自転車で走らせて、そういうのがないか見てこようかな。
「お母さん、ちょっと出かけてくるねー」
「どこ行くの?」
「その辺少しうろうろしてくるだけ」
「そう? じゃ、すぐ帰ってくるのね」
「うん、遅くならないと思う。昼ご飯までには戻ってくるよ」
まだ10時だから、流石に二時間もバイト探しはしないかな。
自転車で駅の方へ向かい、いつもとは違う細い道も通ったりしながら、お店の前を確認する。
「なかなか求人の張り紙してるところないなー」
そう思いながら、一度自転車を停めてベンチに腰をかけると、前のお店のドアが開き、店員さんが出てきた。
高校生くらいっぽいからバイトの子かなと眺めていると、扉のところに何やら紙を貼り出した。
あ……これって……
「あのっ、それってバイトの募集ですか?」
「え? あぁ、そうだけど」
「それ応募したいんですけどっ」
大通りから一つ奥に入った通りにある落ち着いた雰囲気の喫茶店。
店を利用したこともないのに、なんとなく、ここなら続きそうな気がすると直感が働いた。
「え……あー、ちょっと待って。履歴書とかないよね?」
「あ、持ってないです……」
「どうするかな。とりあえず、店長に確認しないとだけど、一旦この張り紙外しとくか。ちょっと待ってて」
そういうと、彼は張り紙を手に店の中へと戻っていった。
急に話しかけちゃったけど、変な人だって思われなかったかな。
「お待たせ。店長が面接するって言ってるから中へどうぞ」
「えっ、ありがとう!」
店内に入ると、木の温もり溢れる優しい雰囲気の喫茶店だった。
若い子がくるお店というよりは年配の方がゆっくり過ごす場所という感じだった。
「いらっしゃい。さっきバイトの募集をしようとしたところだったんだが、まさかこんなに早く応募があるとは思わなかったよ」
店長さんは、少し白髪混じりで40代くらいの男性で、優しい感じの人だった。
この人が店長だから、店の雰囲気も優しい感じがするのかなと思った。
「丁度、彼が張り紙をしているところに出会しまして、働きたいなと思いまして。そのバイトは初めてなのですが」
「後で履歴書を持ってきてもらうとして、とりあえず、年齢とか住んでる場所とか聞いておこうかな」
「今年17歳で高校二年生になります。桜ヶ丘高校に通っています。家はここから自転車で15分ほどのところなので、近いと思います」
「桜ヶ丘高校……碧と同じ高校じゃないか。それに二年生なら同じ学年。お前、彼女のこと知らないのか?」
「え……? みたことないけど……」
碧と呼ばれた先ほどの彼は、私と同じ高校で同じ年ということだった。すごい偶然。
「あ、私、転校してきてまだ数日しか経っていないので、学校で見かけてないのだと思います」
「そういうことか。それじゃ、知らなくても普通か」
「一応、学生証お見せしますね」
学割とかあるから休みの日でも学生証は持ち歩くようにしていた。
良かった。これで信じてもらえる。
「はい、確かに。受け答えもちゃんとしてるし、何より接客に必要な笑顔が良い。採用で良いんじゃないかな?」
「碧はどう思う?」
「まぁ……客ウケも良さそうだし、良いんじゃない」
同じバイト仲間になるから、彼にも意見を聞いた感じなのかな。
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