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五章

恋人としてのデート

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 あれから、ルディさんとも変わらないお付き合いをさせて頂いている。
 納品にいけば、いつもの様に優しい笑みで迎えてくれるルディさんには感謝しても仕切れない。

 変わった事と言えば、お誘いが無くなった事と、以前より少し距離を開けて話す様になった事くらいだ。
 これは、恋人になったレンを気にしてくれているのだと思う。

 こんなに優しくて気遣いの出来る人なんだもの。
 きっと、ルディさんも素敵な人と出会えるわ。

 私はというと、どうにかレンと恋人らしく過ごせないかと考える日々を過ごしている。

 どうにも、レンは、少し私と接する時に遠慮が見えるので、主従関係から一歩抜け出した程度の距離感なのが、気になっている。

 なので、たまにはデートをしましょうと誘い、出掛けることになった。

 デートの場所は・・・以前2人で街に行った時に入ったカフェ。
 カップルシートがあるカフェだ。

 以前は、ただの主従関係だったので、思わぬ近さに気恥ずかしさもあり、肩が触れない様にお互い気を遣いながら食事をしたのを覚えている。

 今回は、正真正銘の恋人同士となったので、出来れば、恋人らしくカップルシートを満喫したい。

 「いらっしゃいませ。ご予約頂いたカップルシートはこちらになります。メニューはこちらになりますので、後ほどお伺いに参ります」

 店員に案内されたカップルシートは、偶然にも以前と同じ席。
 
 「この席は・・・」

 「えぇ、あの時と同じ席ね。さぁ、席に着きましょう」

 以前は、レンが出来るだけ端に座り、肩が触れ合う事が無いようにしていたけれど、今日は、恋人としてきている為、自然に腰を掛ける。

 それに倣い、私も気にせず腰を掛けると、自然と肩が触れ合い、レンと見つめ合う。
 
 「ふふっ。このシートはこの様に恋人達が触れ合える様に作られているのね。やっと、正しく使う事が出来るわね」

 「はい。まさか、私がこの様にまたメルティアナと来る事が出来るとは夢にも思っていませんでした。あの時は、これが最後だと思っていたので・・・」

 「え?最後・・・?」

 「はい・・・。メルティアナにお見合いの話が来ているのは知っておりましたので、最後に思い出を作れたらと・・・」

 あの時、そんな風に思いながら、過ごしていたなんて・・・。
 私は、何も知らずに、楽しんでいたのね。
 その時のレンの気持ちを考えると、切なく、胸が締め付けられる。

 「そうだったの・・・。私、何も知らずに・・・」

 「メルティアナは、まだお見合いの話が来ている事も知らなかったのですから、仕方のない事です。私が最後に我儘を言って、メルティアナの時間を貰えて、とても至福な時間でした。それが、まさか恋人として来る事が出来るとは、思っても見なかったです」

 「本当に、私には何も告げずに、想いを秘め続けるつもりだったのね。確かに主従関係にあると言いにくいとは思うけれど・・・。今回の事で、私が自分の気持ちに気付けて本当に良かったわ。そうじゃなければ、レンと想いを通じ合うこともできなくて、公爵家に嫁いでいるところだったわ」

 「・・・公爵家との婚約を断り、私を選んで頂いた事は、今でも良かったのかと思う気持ちもありますが・・・。もう貴方を手放す事は出来ない。私を好きになってくれて、ありがとうございます」

 「レン・・・。私こそ、ずっと側にいて欲しいわ。離れるなんて嫌だわ。それと、そろそろ、敬語をやめて欲しいの。レンは、私の恋人でしょう?」

 「それは・・・」

 「流石に、まだトーリ達の前では、難しいと思うけど、今は良いでしょう?」

 「分かりました。いや、分かったよ」

 「結婚したら、もうレンは、私の旦那様になるのだから、トーリ達の前でも敬語はなしにしてね」

 「旦那様・・・」

 「そうよ。私達もうすぐ夫婦になるのよ?」

 「夫婦・・・」

 レンは、口を手で覆い、小さく呟く。
 少し、耳が赤くなっている・・・照れているのね。

 私の未来の旦那様は、可愛い人ね。

 そんな会話を繰り広げていると、店員がオーダーを聞きにきたので、前回と同じメニューを頼む事にした。
 前回は、取り皿を用意して、別々に分けて食べたけれど、今回は・・・。

 「さぁ、レン。どうぞ?」

 ケーキを一口サイズに切り、フォークでレンの口元へ持っていく。
 恋人とはどういうものか、市井に溢れている恋愛小説を読み込んだところ、この様に食べさせ合うと書いてあった。

 「う・・・メルティアナ・・・これは・・・」

 レンが、そんなに恥ずかしがると、やってる私も恥ずかしくなってきちゃうわ。
 
 「はい、あーん。・・・レン、そろそろ手が疲れてきちゃうわ」

 「それじゃ・・・」

 恥ずかしがりながらも、私の事を気遣って、食べてくれるレンは、本当に可愛い。
 好きな人の事は、なんでも可愛く見えてしまうのかしら。
 さっきから可愛いしか出てこないわ。

 「ふふっ。恋人らしくて、楽しいわ」

 「では、次は、私が失礼して。さぁ、メルティアナ。あーん」

 「え・・・?」
 
 私も?
 えーっと、するのは気にならなかったけれど、されるのは何故か恥ずかしいわね。

 「さぁ、メルティアナ」

 大きな口を開けるのは、はしたないわよね。
 でも・・・折角、レンがしてくれてるんだもの。
 ケーキがこぼれ落ちない程度に口を開けて、食べさせて貰う。

 とても恥ずかしいけれど、幸せな気持ちが味わえた。
 
 「これは、中々いいな。もっと食べさせてあげたくなるな。それに・・・」

 「それに?」

 「メルティアナが食べてると美味しそうに見えて、味見がしたくなる」

 「え?味見?」

 今、レンも食べたから味は知っているのに?
 どういうことかしら。

 不思議に思いながら、レンを見つめていると、レンの手が私の髪を絡め、唇に寄せる。
 急にレンの雰囲気が変わった気がして、ドキリとする。

 「レン・・・?」

 髪を絡めていたら手は、腰にまわり、もう片方の手は、後頭部へと・・・そして、ゆっくりと口付けられる。
 
 「少し・・・口を開けられるかな?」

 「え?」

 疑問に思い、言葉を発したところで、舌がするりと入り込んで、深く口付けをされる。
 思いもよらぬ大人な口付けに、どうすればいいのか分からず、ただ身を任せるだけだった。

 「うん。やっぱり、美味しいな」

 そう言いながら微笑むレンに、息を整えるのに、精一杯で、何も言葉を返す事が出来なかった。
 急に恋人として成長したレンに、これから私がついていくのが大変そうだと思ったデートになった。
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