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五章
通じる想い
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「レン・・・?」
何も言葉を発しないレンに、不安が募る。
やっぱり、私の想いは迷惑だったのね・・・。
「レン、ごめんなさい。今のは忘れてくれて構わないわ。少し一人になりたいから・・・」
「お嬢様っ!」
涙が零れそうになるのを堪えながら横になろうとしたところで、レンに抱き締められる。
「・・・お嬢様。私は夢を見ているのでしょうか?先程・・・私を愛していると言って下さいましたか?」
「えぇ、言ったわ」
「お嬢様は、次期公爵様よりも私を選んでくださると言うのですか?」
「選ぶだなんて・・・。ただ、私が貴方を愛しているだけ・・・。レン、貴方は私をどう想って・・・」
「主従関係にありながら、あるまじきことですが・・・私は、もう何年もお嬢様を想っておりました」
「え・・・?」
「恥ずかしながら、お嬢様の影を任され、毎日見守り続けている内に、愛してしまっていたのです。いけないことだと分かっていながら・・・」
「レンも私の事を愛していると・・・?」
「はい」
「うそ・・・」
「嘘ではありません」
「全然気付かなかったわ」
「お嬢様に気付かれる様では、影から外されてしまいますから、徹底しておりました」
本当に?
レンも私の事を?
私、もしかして、寝てたりしないわよね・・・?
「レン。私、今ちゃんと起きてるかしら?」
「・・・お嬢様も私と同じように夢を見ていると思っていらっしゃるようですね。幸いな事に、二人とも起きております」
レンの言葉に、自然と涙が零れ落ちる。
あぁ、人は幸せでも涙が流れるものなのね。
先ほどまでは、不安で泣きそうになっていたというのに。
今は、こんなにも幸せで・・・。
レンは、抱きしめていた腕の力を緩め、私の涙に唇を寄せる。
「・・・お嬢様。これは、嬉し涙だと思っても宜しいでしょうか?」
「えぇ、嬉しいわ。レンは、私の事を主人だとしか思っていないのではないかと不安だったから・・・」
「私の方こそ、お嬢様は私の事をただの護衛としてしか見ていないと思っておりました。まさか、私の事を想ってくれていたなど、本当に夢の様です。ですが・・・フェルナンド様が、なんと仰るか・・・」
「お兄様には、明日にでもすぐに連絡するわ。今回、婚約は成立しなかったけれど、公爵家と縁は出来たのだもの。きっと許して下さるわ。私も、ずっとここでの生活を続けて行きたいと思っていたから、お兄様に相談しなければと思っていたの。レンもこれからも一緒にここに居てくれる?」
「勿論です。お嬢様のいる場所が、私のいる場所です」
「レン・・・」
「お嬢様・・・愛しています」
そうして、優しく触れる唇は、ひんやりとしていた。
想いが通じ合ったことで、少しでも触れ合っていたい、甘えたい気持ちがどんどん溢れてくる。
二人でベッドに腰掛け、レンに寄りかかる様に座る。
レンは、そんな私の腰に手を添えて、静かな時を過ごす。
先ほどの口付けを思い出し、恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちが交互に訪れる。
そして、ふと思う。
私の涙を拭ったり、自然と口付けをしていた・・・。
考えたくないけれど、レンも過去に色々あったわよね・・・。
過去の事を気にしたところで、今更どうにも出来ないのに、そんなことを気にするなんて、心が狭いわ。
「お嬢様・・・?」
レンは、私が沈んだ気持ちになったことを感じ取ったのか、顔を覗き込み様子を伺う。
「いえ・・・その、レンが慣れている様だったから・・・。良い大人だし経験が豊富なのかなと・・・」
こんな事言われて、レンも困るわよね。
言わなければ良いのに、気になって、つい言葉に出てしまった。
「・・・っ。それは・・・」
「いいの。ごめんなさい。忘れて」
やっぱり、聞かなければ良かった。
レンから他の女性の話なんて、聞きたくないわ。
「いえ、お恥ずかしい話なのですが・・・。仕事が忙しかったというのもありますが、お嬢様の影に付かせて頂いてから、お嬢様以外の女性に興味を抱けず・・・」
そういうと、レンは恥ずかしそうに両手で顔を覆い、俯くも、話を続けてくれた。
「その・・・女性と付き合った経験もありませんので、口付けもお嬢様と先ほどしたのが初めてです・・・」
「えっ!?」
本当に?
お祭りの時だって、女性に言い寄られてたりしてたのに?
「当然の事だと思います。常にお嬢様を見て過ごしていたのです。お嬢様以上の方など早々おりません」
「・・・?」
何を言っているのかしら?
思わず首をかしげてしまう。
「お嬢様は、少し自分の容姿が、どれほど人を惹き付けるのか分かって頂く必要がありますね。私と想いが通じ合ったと言っても、今後もお嬢様に想いを寄せられる男性が現れると思うと・・・」
「もしも、今後その様な男性が現れたとしても、私が愛しているのはレン、貴方よ。私の方こそ、レンが女性に絡まれるのを見てヤキモキする事が多そうな気がするわ。既に、お祭りで絡まれていたでしょう?」
「あれは・・・。私の方こそ、お嬢様以外の女性には一切興味がありませんので、ちゃんと突き放しますので、ご安心ください」
「ふふっ。好きな人が居るって、こんなに嬉しいものなのね」
「私も、この時間がとても愛しいです。貴方を愛していると言葉に出来ることが、本当に幸せで・・・」
そういうレンの瞳は揺れ、涙の幕が張っているのが見て取れた。
「レン、私も何度でも言うわ。貴方を愛してる。想いが通じ合えて幸せよ」
レンの頬を涙が一滴零れ落ちた。
初めて涙を流す男性が美しいと思った。
何も言葉を発しないレンに、不安が募る。
やっぱり、私の想いは迷惑だったのね・・・。
「レン、ごめんなさい。今のは忘れてくれて構わないわ。少し一人になりたいから・・・」
「お嬢様っ!」
涙が零れそうになるのを堪えながら横になろうとしたところで、レンに抱き締められる。
「・・・お嬢様。私は夢を見ているのでしょうか?先程・・・私を愛していると言って下さいましたか?」
「えぇ、言ったわ」
「お嬢様は、次期公爵様よりも私を選んでくださると言うのですか?」
「選ぶだなんて・・・。ただ、私が貴方を愛しているだけ・・・。レン、貴方は私をどう想って・・・」
「主従関係にありながら、あるまじきことですが・・・私は、もう何年もお嬢様を想っておりました」
「え・・・?」
「恥ずかしながら、お嬢様の影を任され、毎日見守り続けている内に、愛してしまっていたのです。いけないことだと分かっていながら・・・」
「レンも私の事を愛していると・・・?」
「はい」
「うそ・・・」
「嘘ではありません」
「全然気付かなかったわ」
「お嬢様に気付かれる様では、影から外されてしまいますから、徹底しておりました」
本当に?
レンも私の事を?
私、もしかして、寝てたりしないわよね・・・?
「レン。私、今ちゃんと起きてるかしら?」
「・・・お嬢様も私と同じように夢を見ていると思っていらっしゃるようですね。幸いな事に、二人とも起きております」
レンの言葉に、自然と涙が零れ落ちる。
あぁ、人は幸せでも涙が流れるものなのね。
先ほどまでは、不安で泣きそうになっていたというのに。
今は、こんなにも幸せで・・・。
レンは、抱きしめていた腕の力を緩め、私の涙に唇を寄せる。
「・・・お嬢様。これは、嬉し涙だと思っても宜しいでしょうか?」
「えぇ、嬉しいわ。レンは、私の事を主人だとしか思っていないのではないかと不安だったから・・・」
「私の方こそ、お嬢様は私の事をただの護衛としてしか見ていないと思っておりました。まさか、私の事を想ってくれていたなど、本当に夢の様です。ですが・・・フェルナンド様が、なんと仰るか・・・」
「お兄様には、明日にでもすぐに連絡するわ。今回、婚約は成立しなかったけれど、公爵家と縁は出来たのだもの。きっと許して下さるわ。私も、ずっとここでの生活を続けて行きたいと思っていたから、お兄様に相談しなければと思っていたの。レンもこれからも一緒にここに居てくれる?」
「勿論です。お嬢様のいる場所が、私のいる場所です」
「レン・・・」
「お嬢様・・・愛しています」
そうして、優しく触れる唇は、ひんやりとしていた。
想いが通じ合ったことで、少しでも触れ合っていたい、甘えたい気持ちがどんどん溢れてくる。
二人でベッドに腰掛け、レンに寄りかかる様に座る。
レンは、そんな私の腰に手を添えて、静かな時を過ごす。
先ほどの口付けを思い出し、恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちが交互に訪れる。
そして、ふと思う。
私の涙を拭ったり、自然と口付けをしていた・・・。
考えたくないけれど、レンも過去に色々あったわよね・・・。
過去の事を気にしたところで、今更どうにも出来ないのに、そんなことを気にするなんて、心が狭いわ。
「お嬢様・・・?」
レンは、私が沈んだ気持ちになったことを感じ取ったのか、顔を覗き込み様子を伺う。
「いえ・・・その、レンが慣れている様だったから・・・。良い大人だし経験が豊富なのかなと・・・」
こんな事言われて、レンも困るわよね。
言わなければ良いのに、気になって、つい言葉に出てしまった。
「・・・っ。それは・・・」
「いいの。ごめんなさい。忘れて」
やっぱり、聞かなければ良かった。
レンから他の女性の話なんて、聞きたくないわ。
「いえ、お恥ずかしい話なのですが・・・。仕事が忙しかったというのもありますが、お嬢様の影に付かせて頂いてから、お嬢様以外の女性に興味を抱けず・・・」
そういうと、レンは恥ずかしそうに両手で顔を覆い、俯くも、話を続けてくれた。
「その・・・女性と付き合った経験もありませんので、口付けもお嬢様と先ほどしたのが初めてです・・・」
「えっ!?」
本当に?
お祭りの時だって、女性に言い寄られてたりしてたのに?
「当然の事だと思います。常にお嬢様を見て過ごしていたのです。お嬢様以上の方など早々おりません」
「・・・?」
何を言っているのかしら?
思わず首をかしげてしまう。
「お嬢様は、少し自分の容姿が、どれほど人を惹き付けるのか分かって頂く必要がありますね。私と想いが通じ合ったと言っても、今後もお嬢様に想いを寄せられる男性が現れると思うと・・・」
「もしも、今後その様な男性が現れたとしても、私が愛しているのはレン、貴方よ。私の方こそ、レンが女性に絡まれるのを見てヤキモキする事が多そうな気がするわ。既に、お祭りで絡まれていたでしょう?」
「あれは・・・。私の方こそ、お嬢様以外の女性には一切興味がありませんので、ちゃんと突き放しますので、ご安心ください」
「ふふっ。好きな人が居るって、こんなに嬉しいものなのね」
「私も、この時間がとても愛しいです。貴方を愛していると言葉に出来ることが、本当に幸せで・・・」
そういうレンの瞳は揺れ、涙の幕が張っているのが見て取れた。
「レン、私も何度でも言うわ。貴方を愛してる。想いが通じ合えて幸せよ」
レンの頬を涙が一滴零れ落ちた。
初めて涙を流す男性が美しいと思った。
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