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五章

告白

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 「それで・・・メルに聞いて貰いたいことがあるんだけど、その前に、これを貰ってくれるかな?」

 そういって、取り出したのは、小さなラッピングされた箱。
 何かしら。

 「これは?」

 「お詫びの品なんだけどね。メルに似合うと思って。開けてみて?」

 リボンを解き、蓋を開けると、青バラの髪飾りが入っていた。
 これは・・・収穫祭の時につけていた髪飾りをモチーフに作られているのかしら。

 「とても素敵だけど、既に謝罪は頂いているから・・・」

 「遠慮はしないで欲しいな。お詫びの品というのは、少し口実でもあってね。この髪飾りを見つけたときに、一緒に街を回った時のことを思い出して、つい買ってしまったんだ。良ければ、つけさせてくれるかな?」

 「え?」

 向かいに座っていたルディさんは、静かに立ち上がり、私の隣に腰を掛けると、髪飾りを手に取り、私の髪につけてくれた。

 「うん。とても良く似合うよ。本当に・・・美しい」

 髪飾りを着けてくれた手は、そのまま髪を滑り、ひと房掬い上げ、口づけを落とす。
 至近距離で、見つめられて、視線を外すことが出来ない。

 「メル。私は、メルの事を愛おしいと思っているよ。知り合って数か月しか経っていないけど、出会った時から、惹かれていたんだ。会うたびにメルへの想いが深まって行くのを感じて、これ以上、気持ちを抑えることが出来なくて・・・急な事で驚かせてしまったよね?」

 「・・・えぇ。思ってもみなかったので、なんと答えていいのか・・・」

 まさか、ルディさんが私の事を・・・。
 こういう時、どうすればいいのか、教師陣からも習わなかった・・・。

 「メル・・・」

 ルディさんの手から髪が滑り落ち、私の頬に添えられる。
 何を・・・?

 今にも唇が触れ合いそうな距離に、驚き固まってしまった。

 「そこまでにして貰いましょうか。ルディ殿」

 気付くと、トーリの剣が、ルディさんの首筋にあてられ、赤い滴がしたたり落ちる。

 「トーリ!なんてことを!」

 すぐにハンカチを取り出し、ルディさんの首筋を押さえる。

 「いや、メル。今のは私が悪かったから、トーリさんの行動は当然だよ」

 「でも、怪我を・・・」

 「大丈夫。薄皮一枚切った程度だよ。血もすぐ止まるから、心配しないで。ほら、泣かないで」

 私がもっと上手く立ち回れていれば、トーリが剣を抜くことも、ルディさんが傷付くことも無かったのに・・・。
 貴族と違い、平民との距離感が上手く掴めずにいるせいで、こんなことに。

 「ごめんなさい・・・」

 「謝らないでほしい。謝らなければならないのは、私の方だからね。想いを伝えたことで、気持ちが昂ってしまって・・・先走った行動をしたと自分でも思う。メル、本当にごめんね。でも、私の想いを聞いて、メルには、良く考えて返事が欲しいんだ。私としては、これから先の人生を共に過ごしていきたいと考えている。軽い気持ちではないということは、分かって欲しい」

 「ルディさん・・・」

 「さぁ、今日はもう帰った方が良さそうだね。返事は急がないから、ゆっくり考えてみて欲しい」

 「・・・分かったわ」
 
 「それじゃ、トーリさん。今日はすみませんでした。メルの事を宜しくお願いします」

 「・・・・・・流石に先ほどの事は、行き過ぎた行為ですので、私は職務を全うさせて頂きました。怪我させたことに対しても、謝罪するつもりはありません」

 「トーリ!」

 「大丈夫です。私が悪いことは分かっているので。それじゃ、メル、気を付けて帰ってね」

 「えぇ、また・・・」

 トーリとルディさんの家を後にし、馬車に向かう。
 
 「メルティアナ様。少しルディ殿とは、距離を取られた方が宜しいかと」

 「・・・これから、ルディさんの事、良く考えて答えをださないといけないから、暫くは会わないわ。それと・・・さっきは、ありがとう。私、どうしたらいいのか分からなくて・・・」

 「我々は、咄嗟の時に動けるように訓練しておりますので、当然のことをしたまでです。護衛対象が固まって動けないなど、想定内です」

 「そうなのね・・・」

 馬車に乗り、先ほどの事がぐるぐると頭を回るだけで、思考が出来ない。
 恋ね・・・。
 貴族に恋なんてものは、必要なかった。
 お父様が決めた相手の家に嫁ぐ事が、貴族令嬢として生まれた定めだったから。
 それが、現在、貴族令嬢としてではなく、平民に扮して森で生活を送ることで、思ってもみなかった事態に陥っている。

 トーリは以前なんて言っていたかしら・・・。
 
 『手放したくない、失いたくないと思える相手』と言っていたかしら。

 私にとって、それは・・・?

 馬車が止まり、トーリが扉を開ける。
 すると、レンが迎えに来ていた。

 「お嬢様。お帰りなさいませ」

 「ただいま。レン」

 「・・・その髪飾りは」

 「え?これは、先ほどルディさんからお詫びの品として頂いたのよ」

 「・・・そうでしたか」

 心なしか、レンの声が沈んでいるように感じる。
 何かあったのかしら。

 「レン。メルティアナ様が、家に着いたら、話があります」

 「話?何かあったのか?」

 「トーリ、それってまさか」

 「メルティアナ様。情報共有は、大事な事です」

 「でも・・・お兄様にも報告するのよね?」

 「勿論です」

 「あの、あまりルディさんを悪く言わないで欲しいのだけど・・・その、思わずといった様子だったから・・・」

 「私は、ありのままを伝えるだけですので、私情は挟みません」

 「分かったわ」

 「ルディ殿と何かあったのですか?」

 「レン。それは、私から後で話す」

 「分かった。じゃ、お嬢様、いつまでも外にいると体が冷えますので、家に向かいましょう」

 「そうね」

 レンとお兄様に、どんな報告がなされるのか、少し心配になりながら、家路についた。
 
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