上 下
68 / 103
五章

レンと街へ③

しおりを挟む
 店内へ入ると、あのカフェの系列店だけあって、女性客が多かった。
 男性客がいないわけではないけど、女性と2人で来ている・・・恋人同士という感じね。

 私とレンも周りからは、そう見られてるのかしら・・・。
 チラリと隣にいるレンを見上げる。
 レンは、特に気にした様子もなく、変わりない。

 「どうかしましたか?」

 「いいえ。なんでもないわ。お店の雰囲気も系列店だけあって、花が沢山飾られていて、可愛らしいわね」

 「はい。私も中に入るのは、はじめてですが、メルティアナが良く行くカフェに似た感じですね。個室の用意はないですが、仕切りで分けられている席があるそうなので、そちらの席を予約致しました」

 「ありがとう」

 私が、店内で帽子を外しても目立たない様にする為に、席を予約してくれたのね。
 でも・・・目立つのは、私だけではない。
 レンも十分に店内にいる女性たちの視線を集めている。
 仕切られている席にして貰って良かった。
 これだと、落ち着いて食事も出来そうに無いもの。

 そうして、案内された席は・・・。

 「こちらは、カップルシートとなっております。ごゆっくりお過ごし下さい」

 そう言って、メニューを置いて、お店の人は去っていった。

 2人掛けのソファーに、2人でどうしたものかと固まってしまった。
 2人で座ったら、距離が近過ぎるわね。
 でも、今更席を変更なんて出来ないわよね。
 外で並んでいる人たちも居たし・・・。

 「メルティアナ・・・。申し訳ございません。私の調べが不十分だった様です。今直ぐに店員を呼び戻して」

 「いえ、このままで良いわ。混んでいるし、今から席の変更は難しいと思うわ。少し恥ずかしいけど、レンが問題なければ、座りましょう?」 

 「私は・・・メルティアナが良いのであれば・・・」

 そう言って、出来るだけ端に寄る様にソファーに腰を掛けたレンに、クスリと笑いながら、私も席についた。

 自分から、席の変更は必要ないと言ったけれど、これは・・・思った以上に近いわ。
 少し動いただけで、肩が触れ合ってしまいそうで、落ち着かない。
 
 世の中の恋人達は、普段からこんなに近い距離で過ごしているのかしら・・・。
 
 「メルティアナ。何にしますか?この店のオススメは、オムライスというものなのですが、食べてみますか?」

 レンの指差したメニューを見ると、とても美味しそうな料理が載っていた。
 ふわふわの卵が乗っているのね。
 美味しそうだわ。

 「とても美味しそうね。オススメと書いてあるくらいだもの。きっと美味しいのよね。それにするわ」

 返事をしながら、レンの方に顔を向けると、至近距離で絡む視線に、お互い固まってしまう。
 
 数秒見つめあって、どちらともなく、視線を逸らす。
 
 下を向き、熱った頬を冷やす様に両手を添える。
 高鳴る心臓は、あまりにも煩く耳に響く。

 「あの、その・・・食後のデザートは何になさいますか?」

 「えっ?あ、そうね・・・。何が良いかしら」

 お互いに、気まずさを誤魔化すように、再度メニューに視線を落とす。
 どれも、恋人と食べることを想定されていて、一つのお皿に、大きめのデザートが乗っていた。
 一人用は、メニューに見当たらない。
 カップルシートと言っていたから、メニューもそれに合わせてあるのかしら。
 
 どうしようかしら・・・。
 顔は向けずに、視線だけをレンに向ける。

 「・・・どれも美味しそうではありますし、メルティアナが好きなものをお選びください。取り皿を一つ貰い、私の分はそちらに取り分けますので」

 取り分け易いものが良いわよね。
 柔らかくて、崩れやすいものは、やめた方がいいわね。

 普通のケーキが1番無難かしらね。
 
 「それでは、このケーキにしようかしら。レンも食べられるかしら?」

 「はい。美味しそうですね」

 そう言いながら、薄らと微笑んだレンを、横目に見ることが出来た。
 本当に、甘いものが好きなのね。
 レンの好きなものが、一つ知れて良かったわ。

 それからは、お互いに、少しぎこちなさを残しつつも食事を堪能する事が出来た。
 市井では、安価で、こんなに美味しいものがあるのね。
 これからは、もっと街に出て、市井での暮らしを知っていきたいわ。
しおりを挟む
感想 1,124

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。