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五章

レンと街へ①

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 「お嬢様・・・逸れるといけないので、手を繋いで頂いても宜しいでしょうか?」

 「レンの手が、片方塞がってしまうことになってしまうけれど、大丈夫かしら?」

 「本日は、護衛としてではなく、プライベート扱いですので・・・それに、片手が塞がったくらいで、どうにかなる様な鍛え方はしておりません」
 
 あら?以前、リリーさんと手を繋ぐかどうかという話になった時に、手が塞がる様なことはしないって言っていたと思ったけれど、今回は、護る対象である私と手を繋ぐから問題ないのかしら?

 「そう、レンがそう言うのであれば、きっと問題ないのよね」

 差し出された手に、手を重ねると、レンの手は、ひんやりと冷たかった。
 手を繋いでいれば、レンの手も温かくなるかしら。

 「お嬢様・・・その、今日は、名前でお呼びしても宜しいでしょうか?」

 「そうね。今日は、レンのプライベートな時間だものね。名前で呼んでくれて構わないわ」

 「メルティアナ様」

 「レン、様は不要よ」

 「・・・っ。メルティアナ」

 小さな声で、恥ずかしそうに私の名前を呼ぶレンの姿に、何故か私も恥ずかしい気持ちになった。
 
 「今日は、メルティアナの貴重な時間を頂いているので、メルティアナの好きそうなお店などを事前に調べておきましたので、行きましょうか」

 「え?私の好きそうなお店なの?今日は、レンに付き合うつもりで来ているから、レンの好きなお店に行きましょう?」

 「いえ、私は、メルティアナと過ごせれば、それで良かったのです。ですので、今日は、メルティアナの好きな店にしましょう」

 「え・・・?」

 「あまり深く考えないで。ただ楽しんで頂ければ、私も嬉しいです」

 「レンがそれでいいと言うなら・・・」

 「えぇ、私は、それで良いのです。まずは、手芸のお店に行こうと思います」

 「手芸のお店?刺繍糸とかを補充するのもいいわね」

 「今回、ご案内する店は、糸などの販売以外にも、レースで作られた髪飾りや小物なども販売もしているので、メルティアナが気にいる物もあるかと思いまして」

 「まぁ、そうなのね。どんなものがあるのか、今から楽しみだわ」

 いつも邸に商会を呼び寄せて、糸の購入などをしていたから、街の手芸店では、そう言った物も売っているなんて知らなかったわ。
 
 今持っている小物などは、小さくても宝石が少なからず使われているので、もっと市井に馴染む様な小物も必要ね。
 市井にある手芸店だし、宝石が付いていない、レースを編んで作られたものなら、高くないはずだから、気にいる物があれば、いくつか購入するのもいいわね。

 「メルティアナ、こちらの店になります。普通の材料だけを売っている手芸店とは違い、制作物の販売もしている為、大型店になります」

 「確かに、予想よりもお店が大きいわね。品揃えも多そうで、楽しみだわ」

 中に入ると、店内が広いだけあって、品揃えも豊富で、見ているだけでも飽きそうになかった。
 糸はどこでも購入が出来るし、レンの話していた小物類を早速見に行く。

 レースを編んで作られた、髪飾りや耳飾りなど、カラーバリエーション豊富に取り揃えてあり、色違いで購入したいと思うほど、可愛い物が沢山並べられていた。

 どれも、派手ではなく、品良く作られていて、センスの良さを感じられた。
 
 「メルティアナ。もし、気にいる色がなければ、お店にある糸を選んで、同じデザインで作って貰うことも出来ます」

 「まぁ、オーダーも出来るのね。素晴らしいわ」

 「このデザインで、色をこちらの糸で依頼するのはどうでしょうか?」

 そういうと、レンは、私の瞳の色に近い色の糸とそれに近い色の糸を二つ髪にあてた。
 3色でグラデーションを作るのね。
 葉をモチーフにし、ポイントで花が咲いている髪飾りね。可愛いわ。
 葉や花、鳥や動物と言った自然をモチーフにしたものが、とても多く、その中に、リスがモチーフの大判のレース編みを見つけた。

 これ・・・リコリスみたいで可愛いわ。
 額縁に入れて、部屋に飾るのも良いかもしれないわ。

 「お気に召しましたか?」

 「えぇ、綺麗で、それでいて、とても可愛いわ」

 「それでは、先程の髪飾りとこちらは、私からプレゼントさせて頂きます」

 「え?」

 「今日は、私にお付き合い頂いているので、お礼も込めて・・・というのは、言い訳で、私がメルティアナに、プレゼントしたいのです」

 ただ、一緒に街を回っているだけ。
 それに、私の好きなお店を見て、私が好きなものを選んでいるだけ。

 それなのに、レンからしたらお礼になるの?
 言い訳・・・?
 
 断ろうと思ったけれど、私を見つめるレンの瞳が、とても優しく、いつものレンとは何かが違い、言葉が何も出て来なかった。
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