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五章

見失う

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 人が多くて、思う様に進めない。
 急ぐと何度も人にぶつかってしまう。

 「あっ、ごめんなさい。急いでて・・・」

 この言葉も何度言ったのだろうか。
 中々前に進めない中、彼の後ろ姿が、どんどんと遠ざかっていく。
 待って・・・。

 とうとう見失ってしまって、どちらに行ったのか、分からなくなってしまった。
 仕方ないわね。
 来た道を戻って、ルディさん達と合流しましょう。
 
 そう思い、振り返る。

 ・・・あら?どちらから来たんだったかしら。
 いつも護衛付きで、馬車移動していたから、道が良く分からないわ・・・。

 これが・・・方向音痴というものなのね。
 今度、街を歩いて、覚えていかないと行けないわね。

 今は、一先ず、皆の元へ戻らないと行けないから、人に聞くしかないわね。

 目の前にいる、男女に話しかけようとした所で、斜め前にいる男性と目が合った。
 男性は、私に微笑み掛けると、近付き、話しかけて来た。

 「君、花もつけてないみたいだし、1人でいるってことは、連れはいないってことだよね」

 「え?いえ、お友達と一緒に来てるんです」

 「またまたー。じゃ、そのお友達は何処にいるの?」
 
 「飴細工を売っているお店で、待っていてくれているのですが、その・・・道が分からなくなってしまって、戻れなくなってしまったんです。お店までどう行くかわかりますか?」

 「逸れちゃったわけか。俺が連れてってあげようか?」

 「いえ、そこまでご迷惑をお掛けする訳にもいかないので、行き方だけ教えて頂ければ、大丈夫です」

 「そう言わずにさ。ほら」

 そう言って、私の手を引こうとしたので、反射的に、一歩下がって、避けてしまった。
 知らない人と手を繋ぐなんて、無理だわ。
 一瞬にして、鳥肌が立つ。

 私が、嫌がったのが伝わったのか、肩にいたリコリスが今にも飛びかかりそうな体制を取った。

 「リコリス、ダメよ」

 流石に、こんな人が多い場所で、リコリスが噛みつき、毒で麻痺させてしまったら、折角のお祭りに水を差してしまう。
 とりあえず、私の周りに結界を張って、触れられない様にするしか・・・。

 彼が、一歩近づき、また私の手を取ろうとしたので、即座に結界を張ろうとしたところで、後ろから引き寄せられる。

 「メル、見つけた。1人になったらダメだろ?」

 聞き慣れた声に、顔を見上げると・・・。

 「レン・・・。ごめんなさい」

 「さて、これは、どういう状況かな?この子は、私の連れだけど?」

 「い、いや。1人で困ってそうだったから、助けてやろうかなって思ってさ。連れと合流出来たなら、良かったな。俺はもう行くわ。じゃーな」

 通りすがりの彼は、そういうと、逃げる様に去って行った。
 
 「お嬢様。先程は、馴れ馴れしい呼び方をしてしまい、申し訳ありませんでした。あの場合、親しげに接した方が良いと判断しました」

 「構わないわ。・・・それにしても、あなたの私服は、おしゃれなのね」

 トーリと同じ上下黒なのに、上着だけワインレッド。
 そして、胸には、黒薔薇・・・。
 護衛全員が、黒薔薇ってことはないわよね。
 トーリは、違う花をつけていた様に思う。

 「お嬢様。人が多いので、端に寄りましょうか」

 「えぇ」

 レンは、私を護る様に、腰を抱き、人とぶつからない様に、建物の側まで連れていく。

 「さて、お嬢様。どう言うことか説明頂いても?」

 「あの・・・ラルフの後ろ姿を見た気がして、話が出来ないかと、つい追いかけてしまって・・・」

 「お嬢様・・・彼は、フェルナンド様の元におりますので、こちらには居ないですよ」

 「やっぱり?そうよね。でも、本当に似ていたのよ」

 「そうだとしても、せめてトーリに一言掛けてから行くべきです。いきなり走り出しては行けません。いくら我々が注意を払っていても、この人混みでは、すぐに後を追うことも出来ません」

 「ごめんなさい・・・。でも、防御魔法が使えるし、一応、自分の身は守れるし、リコリスもいるわ」

 「お嬢様。防御魔法を過信してはいけません。それに、リコリスが居たとしても、護衛から離れていい訳ではありません。お嬢様に何かあれば、我々が処罰されると言うことを念頭に入れて置いて頂きたいです」

 「そうね・・・。そこまで、考えていなかったわ」

 後で、合流すれば良いとだけ考えていたから、彼らの事について、そこまで考えが及ばなかった。
 これからは、軽率な行動はしない様に、気をつけないと。

 「それと・・・私がつけていたものなので、少し小さいですが、何も無いよりは良いでしょう」

 そう言うと、レンは、胸に着けていた黒薔薇を、私の髪に挿した。

 「プラチナブロンドの髪に、良く映えますね」

 「ありがとう。でも、これだとレンが何も無くなってしまったわ」

 「私が、花を着けるよりも、お嬢様が着けている事の方が重要です。さぁ、戻りましょう。今頃トーリも心配していますよ」

 「戻ったら、皆に謝らないと行けないわね」

 ねぇ、レン。
 知ってる?
 
 黒薔薇の花言葉には、「滅びることのない愛」という意味もあるのよ。
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