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【番外編】3人のその後

ルシアン

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 煌びやかな夜会の会場で、女性たちをあしらいながら、ここにメルが居れば・・・と、ふと思う。

 あんなことが無ければ、今頃メルとホールでダンスを踊っていたというのに。
 きっと、蝶の様に舞うメルは、見惚れるほど美しいに違いない。

 はぁ。
 自分の不甲斐なさに溜息を付きながら、涼む為に、バルコニーへと向かう。

 火照った体に、夜風が気持ち良い。

 「ルシアン。久し振りだね」

 涼んでいると、背後から声が掛かる。
 振り返ると、フェルナンド様が立っていた。

 「フェルナンド様。お久し振りです。今日は、参加されてたんですね」

 メルと同じ色彩を持つフェルナンド様を見ると、ついメルが今どうしているのかと考えてしまう。
 彼が夜会に参加しているなんて、女性たちが放って置かないだろうに、逃げてきたのかな。

 「付き合いでね。それに、ルシアンにも話が合ったからね。・・・手紙で知らせるよりも直接話した方が良いと思ってね」

 手紙ではなく、直接話した方が良い事・・・。
 雰囲気からして、良い話ではなさそうだけど・・・。

 「濁して言っても仕方ない事だから、簡潔に言うよ。メルが結婚することになった。ルシアンには、1年待って欲しいとお願いしていただけに、申し訳ないが・・・」

 何を・・・。
 聞き間違いか?メルが結婚?誰と?
 社交はしてなかった筈。一体どうして・・・。

 「今・・・なんと?ちょっと、良く聞こえなかった様で・・・」

 「メルが結婚するんだよ」

 再度確認して、目の前が真っ暗になる。
 身体がふらつき倒れそうになったところで、フェルナンド様に支えられる。

 「おっと、大丈夫か?そこのソファーに腰を掛けて、座って話そう」

 「はい・・・」

 ソファーに腰を掛けて、天を仰ぎ、目を手で覆う。
 フェルナンド様に対して、褒められた態度ではないけど、今は礼儀など構っていられる余裕がない。

 その姿勢のまま、フェルナンド様に問いかける。

 「相手は誰か聞いても良いですか?」

 「・・・相手は、メルの護衛に当たっていた平民だよ」

 ・・・平民?
 メルは、伯爵令嬢なのに、平民と結婚するというのか!?
 フェルナンド様は、一体なにを考えて・・・。

 ソファーに預けて居た身体を起こし、フェルナンド様を見つめる。

 「平民と結婚して、メルが幸せになると思っているのですか?どうして、平民と・・・」

 「メルの幸せを願っているから、認めているんだよ。メルが唯一愛した人だからね」

 メルが愛した・・・。
 その言葉は衝撃的で、喉の奥が締め付けられる。

 私が、メルの愛を欲していたのに・・・。
 1年待っている間に、顔も知らない男にメルを搔っ攫われてしまった。

 どうして・・・。
 どうして、どうして、どうして・・・。

 もう、頭の中はそれで埋め尽くされる。

 あの時から、私にはメルを取り戻す事は無理だったのだろうか・・・。
 あの時の愚かな自分を殴ってやりたい。
 時を戻すことが出来るのであれば、二度と同じ失敗はしないと誓う。
 そして、その手を二度と離す事なく、生涯を寄り添い続ける。

 その願いは、もう叶う事はない。

 「・・・すみません。少し、一人に」

 「あぁ、私はホールに戻るよ。急に、こんな話をして申し訳なかったね。」
 
 フェルナンド様が去っていく音を聞きながら、涙が零れ落ちるのが分かる。
 普段泣くことなんてないのに。

 泣くのは、メルと婚約解消して以来か。
 私が涙を流すのは、メルに関してだけだよ。

 メル・・・。
 あれから反省して、女性への接し方をちゃんと学んだんだ。
 今では、先生たちにも褒められ、夜会でも上手く女性をあしらえるんだよ。
 その姿を君にも見て欲しかった。
 
 「成長したね」「今の貴方なら信用できるわ」って言って欲しかった。
 そして、婚約を結びなおし・・・。

 あぁ、ダメだ。
 何を想ったところで、もうそれは叶わない。
 メル・・・愛してるんだ。

 この想いは消えることはない。
 忘れる事なんて出来ない。

 深く深くため息を吐き、夜空を見上げる。
 輝く星たちを見つめ、静かに涙を流し続ける。

 「あぁ、メル。夜空が澄んでいて、とてもきれいだね。今頃君もこの星たちを眺めているのかな。メル、これからも愛しているよ」

 声に出し、涙を流し、気持ちが吹っ切れていく。

 いいじゃないか。
 メルと添い遂げることが出来なくても、彼女を想い続けて行くことの何が悪いのか。
 内ポケットに入れて持ち歩いている、メルから貰った栞を取り出し、口付けを落とす。

 私は、メルとの思い出と共に生きていくよ。

 夜会は早々に切り上げ、邸に戻ると、父上に、次期当主の座は弟に譲ると話を付けた。
 メル以外の女性と結婚し、子供を持つことなど考えられなかったからだ。

 父上も結婚もするつもりも、後継ぎを作るつもりもないと分かり、渋々弟に当主の座を譲ることに納得してくれた。

 私は、生涯独身で、弟のサポートをして生きることにした。

 書類を片付ける机の上には、メルの好きな花が飾られている。
 出来るだけ長く咲き続けられるように、毎日丁寧に世話をしている。
 花を大事にすることで、メルへの愛を示す様に・・・。

 その横には、写真立てが一つ。
 白いウェディングドレスが美しいメル。

 「メル、おはよう。今日も頑張って働くとしようか」

 日課の様に、写真に話しかけ、1日が始まる。

 ーーメル。いつまでも愛しているよ。
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