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ハルトルート
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ガゼボで昼食を一緒に取って以来……何故か、昼食はハルト様の膝の上に座って給餌されることになった。
はじめは、恥ずかしくて……料理の味も分からないくらいだったけれど、不思議なことに、毎日繰り返されると慣れるのね。
今では、それが普通のことになってしまっている。
「ねぇ、最近、業者の方が頻繁に出入りしているみたいだけど、何をしているのかしら?」
「それはですねー……坊っちゃまが色々と指示を出されているので、そのうちわかると思いますよ」
「ハルト様が……」
今は言えないけど、後で教えて貰えるということかしら。
気になるけれど……楽しみに待っていましょう。
「あ、少し厨房をお借りしてもいいかしら?」
「厨房ですか?」
「えぇ……あの、ハルト様にクッキーを差し入れしたいと思って」
「まぁ、それは素敵ですね。坊っちゃま喜びますよ」
「じゃ、今からちょっと確認して来ますね」
「ありがとう」
見かけによらず、甘いものも好まれるみたいだし、クッキーにチョコレートでも掛けようかしら。
本当に好きなように過ごさせてもらってるわ。
この邸の人たちは、私のすることに嫌な顔一つもせず協力してくれるので、とても過ごしやすい。
でも……お世話になって既に半月が過ぎてしまった。
いつまでもお世話になっているわけにもいかないし……そろそろ森へ帰ろうかしら。
みんなのお陰で、失恋の痛みも和らいできて……今なら少しぎこちないながらもレンと普通に接することができる気がする。
「お嬢様、厨房に確認したところ、今から使っても大丈夫とのことでした」
「ありがとう。それじゃ、今から向かいましょう」
「あ、一つだけ譲れないことがあるようで……」
「譲れないこと?」
「火傷をされたら大変なので、焼く作業だけは料理長がすると言っておりました」
「分かったわ。私が自分でやって火傷したらみんなに迷惑をかけてしまうものね」
「お嬢様に火傷なんてさせてしまったら……坊っちゃまに顔向け出来ませんからね」
「大袈裟ね」
普段からパウンドケーキを自分で焼いているから、そんなに気にしなくても大丈夫だと思うけれど。
でも、確かに貴族令嬢が厨房に入るだけでも珍しいことなのに、お菓子を作るなんて滅多に無いものね。
心配されても仕方ないわね。
厨房に着くと、すでに材料は用意されている状態で、あとは混ぜればいいだけになっていた。
本当に、出来た使用人たちだわ。
型の種類も豊富で、何にしようか悩んでしまう。
「どの型も可愛くて迷うわね」
「お嬢様、こちらなんていかがですか?」
そう言って、差し出された型はリスの形をしていた。
「まぁ、可愛い。たくさんあるから気付かなかったわ。一つはこれにして、あとは……この葉っぱとドングリにするわ」
ドングリ型のクッキーにチョコレートをかけて、他のはプレーンにしましょう。
ふふっ、可愛いクッキーが出来上がりそうだわ。
料理長の協力の元、クッキーが焼き上がると、厨房がバニラエッセンスの香りに包まれる。
クッキーってどうしてこんなに良い香りがするのかしら。
ついつい出来立てをつまんでしまうのよね。
協力してくれた料理人と使用人にもクッキーを分けて、ハルト様にあげる用のものは、使用人たちが綺麗にラッピングしてくれていた。
「ハルト様は、今お忙しいかしら? お邪魔してしまっても大丈夫?」
「お嬢様でしたら、いつ訪ねても歓迎していただけますよ」
「そうかしら……」
お仕事の邪魔はしたく無いから、さっと渡して戻って来ましょう。
執務室の前に着くと、使用人が私の来訪を告げるとすぐに「どうぞ」と声がしたので、入ってみると……
「タイが少し曲がっていますよ」
「あぁ、悪い」
スラリと長身の女性が、ハルト様のタイを直していた。
女性でありながら、珍しいパンツスタイル。手足が長い彼女にはとてもよく似合っていた。
……ハルト様と親しそう。
それに、二人が並んだ姿は、とてもお似合いだった。
早くここから去ってしまいたい……
「メルティアナ嬢、どうかしたのか?」
「あ、いえ、お仕事の邪魔をしてしまい申し訳ありません。あの、クッキーを作ったので差し入れをと……もう戻りますね」
さっと、デスクの上にクッキーを置き部屋を出ようとすると、後ろから抱きしめるように腰に腕が回った。
「ハ、ハルト様?」
「何故、逃げるように去ろうとする?」
「え? いえ、お仕事の邪魔をしてはいけないと思いまして……」
「本当にそれだけか?」
「はい……」
二人が親しそうにしている姿を見ているのが嫌なんて言えない。
自分がこんな風に思うこと自体に驚いている。
ついこの間までレンが好きだったのに、私はハルト様を好きになってしまったの?
こんなにも移ろいやすいものなのか……
「あの……離してください」
「いや、折角だから、一緒に食べようか。お茶の用意をさせよう」
「えっ、あの、私は……」
「良いから、おいで」
そうして、抱き上げられソファーにいつものように腰をかける。
ハルト様の膝の上に座りながら、どうしても彼女が気になって見てしまう。
はじめは、恥ずかしくて……料理の味も分からないくらいだったけれど、不思議なことに、毎日繰り返されると慣れるのね。
今では、それが普通のことになってしまっている。
「ねぇ、最近、業者の方が頻繁に出入りしているみたいだけど、何をしているのかしら?」
「それはですねー……坊っちゃまが色々と指示を出されているので、そのうちわかると思いますよ」
「ハルト様が……」
今は言えないけど、後で教えて貰えるということかしら。
気になるけれど……楽しみに待っていましょう。
「あ、少し厨房をお借りしてもいいかしら?」
「厨房ですか?」
「えぇ……あの、ハルト様にクッキーを差し入れしたいと思って」
「まぁ、それは素敵ですね。坊っちゃま喜びますよ」
「じゃ、今からちょっと確認して来ますね」
「ありがとう」
見かけによらず、甘いものも好まれるみたいだし、クッキーにチョコレートでも掛けようかしら。
本当に好きなように過ごさせてもらってるわ。
この邸の人たちは、私のすることに嫌な顔一つもせず協力してくれるので、とても過ごしやすい。
でも……お世話になって既に半月が過ぎてしまった。
いつまでもお世話になっているわけにもいかないし……そろそろ森へ帰ろうかしら。
みんなのお陰で、失恋の痛みも和らいできて……今なら少しぎこちないながらもレンと普通に接することができる気がする。
「お嬢様、厨房に確認したところ、今から使っても大丈夫とのことでした」
「ありがとう。それじゃ、今から向かいましょう」
「あ、一つだけ譲れないことがあるようで……」
「譲れないこと?」
「火傷をされたら大変なので、焼く作業だけは料理長がすると言っておりました」
「分かったわ。私が自分でやって火傷したらみんなに迷惑をかけてしまうものね」
「お嬢様に火傷なんてさせてしまったら……坊っちゃまに顔向け出来ませんからね」
「大袈裟ね」
普段からパウンドケーキを自分で焼いているから、そんなに気にしなくても大丈夫だと思うけれど。
でも、確かに貴族令嬢が厨房に入るだけでも珍しいことなのに、お菓子を作るなんて滅多に無いものね。
心配されても仕方ないわね。
厨房に着くと、すでに材料は用意されている状態で、あとは混ぜればいいだけになっていた。
本当に、出来た使用人たちだわ。
型の種類も豊富で、何にしようか悩んでしまう。
「どの型も可愛くて迷うわね」
「お嬢様、こちらなんていかがですか?」
そう言って、差し出された型はリスの形をしていた。
「まぁ、可愛い。たくさんあるから気付かなかったわ。一つはこれにして、あとは……この葉っぱとドングリにするわ」
ドングリ型のクッキーにチョコレートをかけて、他のはプレーンにしましょう。
ふふっ、可愛いクッキーが出来上がりそうだわ。
料理長の協力の元、クッキーが焼き上がると、厨房がバニラエッセンスの香りに包まれる。
クッキーってどうしてこんなに良い香りがするのかしら。
ついつい出来立てをつまんでしまうのよね。
協力してくれた料理人と使用人にもクッキーを分けて、ハルト様にあげる用のものは、使用人たちが綺麗にラッピングしてくれていた。
「ハルト様は、今お忙しいかしら? お邪魔してしまっても大丈夫?」
「お嬢様でしたら、いつ訪ねても歓迎していただけますよ」
「そうかしら……」
お仕事の邪魔はしたく無いから、さっと渡して戻って来ましょう。
執務室の前に着くと、使用人が私の来訪を告げるとすぐに「どうぞ」と声がしたので、入ってみると……
「タイが少し曲がっていますよ」
「あぁ、悪い」
スラリと長身の女性が、ハルト様のタイを直していた。
女性でありながら、珍しいパンツスタイル。手足が長い彼女にはとてもよく似合っていた。
……ハルト様と親しそう。
それに、二人が並んだ姿は、とてもお似合いだった。
早くここから去ってしまいたい……
「メルティアナ嬢、どうかしたのか?」
「あ、いえ、お仕事の邪魔をしてしまい申し訳ありません。あの、クッキーを作ったので差し入れをと……もう戻りますね」
さっと、デスクの上にクッキーを置き部屋を出ようとすると、後ろから抱きしめるように腰に腕が回った。
「ハ、ハルト様?」
「何故、逃げるように去ろうとする?」
「え? いえ、お仕事の邪魔をしてはいけないと思いまして……」
「本当にそれだけか?」
「はい……」
二人が親しそうにしている姿を見ているのが嫌なんて言えない。
自分がこんな風に思うこと自体に驚いている。
ついこの間までレンが好きだったのに、私はハルト様を好きになってしまったの?
こんなにも移ろいやすいものなのか……
「あの……離してください」
「いや、折角だから、一緒に食べようか。お茶の用意をさせよう」
「えっ、あの、私は……」
「良いから、おいで」
そうして、抱き上げられソファーにいつものように腰をかける。
ハルト様の膝の上に座りながら、どうしても彼女が気になって見てしまう。
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