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ハルトルート

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 「さぁ、お嬢様、準備していきますね」

 「えぇ、お願いするわ」

 朝起きると、使用人達がドレスや装飾品を手に部屋に訪ねてきた。
 昨日と同じように……アクセサリーに使われている色はハルト様の色。

 これは……この邸にいる人達全員が、アランさんと同じ考えということかしら……
 歓迎されないよりは、良いことなのかもしれないけれど……なんとも落ち着かない気持ちになる。

 「朝食の席なので、華美にならない程度に仕上げますね。髪はゆるく編み上げて、こんな感じに……お似合いです」

 「ありがとう。急にお邪魔することになってしまって、仕事を増やしてしまったわね」

 「いえいえ、大歓迎です!こんな美しいご令嬢のお世話が出来るなど、みんなで仕事の取り合いをしているんですよ?」

 「そうですよー!この邸は、坊っちゃましかいなかったので、着飾る機会があまりなくて……」

 「こんな風に、髪をセットさせて貰えたり、とても楽しいです」

 なるほど。公爵家には、男性しかいないから、着飾る楽しみも、髪を編み上げる技術を使う機会もなかったのね。
 私の世話をすることで、それが満たされるのであれば、良かったわ。

 「そう言って貰えると、私も気が楽になるわ。急にお邪魔してしまって、申し訳ないと思っていたから……」

 「大丈夫ですよ。お嬢様が滞在することをこの邸の誰もが歓迎しています。もちろん坊っちゃまもですよ」

 「そうですよ。お嬢様がいらっしゃって、邸の中が一気に華やかになりましたね。」

 「え?」

 「坊っちゃまが邸中にお嬢様の好きな花を生けるようにって指示を出されたのですよ。なので、硬い雰囲気だった公爵邸が今は明るく柔らかい雰囲気に包まれているんですよ」

 ハルト様が……
 お忙しいのに、私の為に色々と動いてくださっているのね。
 朝食の席では、ちゃんとお礼を言わないと。

 「さぁ、準備も整いましたし、ハルト様がお待ちです」

 「えぇ、そうね。お待たせするわけにはいかないもの。行きましょう」

 食堂へと向かうと、すでにハルト様は席についていた。
 相変わらず忙しいのだろう。その手には、書類が握られていた。

 「メルティアナ嬢、おはよう。ゆっくり休めたかな?」

 「ハルト様、おはようございます。お陰様でゆっくり休むことが出来ました。今回は、本当に……色々とお気遣い頂き、ありがとうございました」

 「いや、大したことはしていない。ただ、泊めているだけだからな。……それ、またやられたのか」

 「それ?」

 そういうと、ハルト様は、自分の胸の上のあたりと指でトントンと指す。
 あ、ネックレスのことを言っているのね。

 昨日もアランさんの企みで、ハルト様の色のアクセサリーを付けていたから、今回も同じようにやられたと思ったのよね。きっと。
 自分で選んだわけではないから、やられたと言えば、そういうことになるのかしら……?

 「アランだけじゃなく、使用人たちも同じようなことをするとは……メルティアナ嬢には、もっと似合う色があるから、明日からは、そういったアクセサリーも用意させるから、好きに選ぶように」

 「いえ、そんなにしてもらうわけには……」

 「メルティアナ嬢には、ここでは気を使わず寛いで貰いたいんだ。だから、そう言った遠慮も不要だ。この程度の支出で揺らぐ公爵家ではない」

 確かに……少し滞在させてアクセサリーを複数購入したところで、公爵家からしたら微々たるものなのだろう。
 あまり遠慮しすぎても失礼に当たるし、ここは素直に甘えておきましょう。

 「ありがとうございます。お世話になりますわ」

 「それじゃ、食事を始めようか」

 ハルト様は、そんな口数の多い方ではないけれど、適度に話題を振ってくださり、穏やかに朝食を済ませることが出来た。

 薬作りについては、公爵邸の温室を作業場として使って良いと言ってくださったので、今日の午後から作業を始めることにした。
 家を出たからと言って、仕事がなくなるわけではない。
 しっかり、働いて自立していかなくては。

 子ウサギやリス達は、レンが世話をしてくれているけれど……リコリスは連れてきてもいいかしら。
 
 食事が終わり、部屋までエスコートしてくれているハルト様をチラリと盗み見る。
 すると、すぐに視線に気付かれてしまう。

 「どうした?」

 「あの……リコリスというリスのお友達がいるのですが、連れてきてもいいですか?」

 「あぁ、アランが作ったやつか。構わない。アランに連れてくるように言っておくよ」

 「ありがとうございます」

 良かった。いつも一緒に過ごしていたから、一日離れていただけで寂しい。
 ハルト様だけでなく、アランさんにも色々と動いていただいているから、ちゃんとお礼をしなくちゃね。
 
 「午後から薬作りをすると聞いたが、あまり無理をしないように」

 「はい。部屋まで送ってくださり、ありがとうございます」

 「これは、私がしたくてしてることだからな。朝食を済ませた後、すぐ別れるのが惜しくて、ここまでついてきてしまっただけだ」

 「それは……」

 なんと答えれば……
 私と過ごす時間を大事にしてくれているのは、とても嬉しい。
 嬉しいけれど……

 「……すまない。困らせるつもりはなかった。私に気を使う必要もないから、それじゃ……」

 「はい……」

 去っていくハルト様の背を見ながら、本当にここで過ごしていいのだろうかと思った。
 少なからず、彼は私に好意を持ってくださっている。
 それなのに、私は……?
 
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